第3幕

第4話(1/1)

 無骨なノートパソコンからサクジとの応酬を収めた動画をインターネット上にアップロードすると、本懐を遂げたであろう仕事人は右往左往する黒服たちを眺めるともなく眺めだした。レンタカーの運転席に座っておきながらエンジンをかける気配はない。

 どうやら、騒動を引き起こした張本人としての自覚がまるきり欠けているようだ。

りんちゃんには助けられたよ。『ブツの隠し部屋にたどり着けない』なんてトラブルはとてもひとりじゃ対処できなかった」

「それはいいんですけど、わたしのスマホでサクジあのひとを撮影する必要ってありました?」

おおありさ。だって僕、スマホ持ってないし」

「えぇ……」

 書類保管庫で立ち往生していたあのとき、スウィンドラーはどこからともなく飛んできた。そして開口一番、輪花の胸ポケットにあった携帯電話を求めたのである。

 その程度の理由だとわかっていれば、こんなペテン師に貴重品を貸すこともなかったであろうに――花の女子高生はたんそくした。

「ほんとって変わってますね」

「ドラさん?」

「変なあだ名のお返しです」

「バースデーには早いんだけどなあ」

 オウレットの報復にスウィンドラーは口もとをゆるませる。

「さておき、僕が変わってるだなんて誤解だよ。社会貢献は人として当然の義務じゃないか」

「……そんなことして、なんの意味があるんですか」

「意味は自分で決めるものさ。たとえばこういうのとか」

 スウィンドラーは後部座席へ向き直り、次いでパソコンの画面を回す。

「僕はただ、こうして感謝されるだけで充分だよ」

 言い知れぬなにかを期待した輪花だったが、そこに映った一言が視界に飛び込むやいなや、たまらずあきれ果ててしまう。

 ――ざまを見ろ。

 それは懲悪動画にちょうど書き込まれた、まったくもって感謝には値しないようなコメントだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る