妻への感謝
妻が作った料理に、3人で舌鼓を打つ。
今日は肉じゃがとたまたま安売りしていたサンマの塩焼き。
何となく、会話らしい会話もなく、ポツリポツリと誰かが話し、静かな食事が終わる。
妻の作ったご飯は美味かった。
美味かったけど、終わってから、さらに静かになる。なぜって、私も妻も息子も、それぞれスマホを見始めるから。
10分もすると、私はこれでいいのかな、と寂しくなる。でも、1番スマホに夢中になっているのは自分じゃないかと思う。
と、妻が3人の中央にスマホを差し出し、
「この絵どう思う?」と、数枚の画像を見せる。
「お母さんの、大学時代の友達の絵なんだけど」
妻は美術の短大を出ている。私も絵は好きだ。
しばし、美術論で盛り上がる。最近、イラストを描くことに夢中になっている息子が、イラストについて語り出す。すぐに夢中になって話す。美術はろくに知らないのに、ゴッホの生き様にまで論旨は及ぶ。
私は、いいな、と思う。
こうして家族で話が盛り上がるのは、とても良いことだ。
息子は話したがり屋だ。いったん話に火がつくと、自分の考えを芋づる式に語り、なかなか終わらない。
私は話の分かる父親を演じ、ウンウンと聞いてやる。息子はますます白熱する。
ひと段落すると、
「ああ、トイレ寒いな」
などと言いながら、30分も、1時間もトイレにこもる。
幸せだと思う。
こうした幸せが、少しでも長く続いて欲しいと思う。
しかし来年息子が社会人になれば、様相は変わるだろう。
そうこうしているうちに、私たちも歳を取って、老いの問題に直面する時が必ず来る。
その前にコロナの問題もある。
心身共にヤワな私は、いつまで妻を守ってやれるだろう。
ただ、ひとつ思うのは、今までは自分中心に私は生きてきたように思う。
これからは、妻の幸せを第1に考え、優先したい。
年末までに、あなたの新しいメガネ買わないとでしょ、と妻が言う。
妻はほとんど自分のために金を使うことがない。子供の学費は高いし、私の給料は安いし、今はそれどころではない。
年内に、妻が中国から日本に帰化した記念に、ネックレスでも買ってやろうと思っている。しかしそういうことを言っても、妻は嬉しいのか、嬉しくないのか、今ひとつはっきりしない。
いつも自分の事は1番最後。
ありがとね。
今、テレビを見ながらうつらうつらする妻に、私は感謝の言葉しかないのだ。
本当にありがとう。
そう、言いたい。
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