なんとかなるさ
K君のことをウィキペディアで調べると、1980年代に活躍した俳優、歌手、と出てくる。
K君はわたしのいとこで、高校生の時街中で芸能界にスカウトされ、大学生だったわたしの家へよく来ていた。
K君の家は兵庫県にあったため、一応東京にあった私の家に泊まるのが、金もかからずちょうど良かったのだ。
私は時間が合う時は、K君と一緒に行動し、郷ひろみさんの、哀愁のカサブランカのレコーディングの見学について行って、郷ひろみさんと肩を組んで写真を撮らせてもらったりした。
K君は間もなくイルカさんなどが出演するドラマで芸能界デビューし、その後歌手デビューも果たす。
次第に人気の出てきたK君は有名女性タレントの恋人役に抜擢されたり、中野サンプラザホールでコンサートをしたりと、次第に活躍するようになった。
ところがある時、彼は何が気に入らなかったか、プロダクションを惜しげもなく辞めてしまい、芸能界の表舞台から姿を消した。
その後暫くは芸能界の裏方のアルバイトをしていたが、それも辞め、いつしか堅気に戻っていった。
ただそれだけの話で、結局何が言いたいかというと、ちょっと珍しいいとこの話を書いてみようと思っただけである。
K君は身長が183センチあり、100メートルを11秒3で走った。私とキャッチボールをしても私より球は速く、オセロで対戦しても、どうしても勝てなかった。ビリヤードをしても勝てないし、卓球をやっても勝てない。
つまり何につけても私より優れている点が多く、勿論容貌は芸能界デビューするほどだからかなうはずもない。
こういう経験は、私は初めてだった。
何をやってもどうしてもかなわないということは、それまで経験したことがなかった。
それでもK君は、その後華やかな生活を送るわけでもなく、どちらかといえば、鳴かず飛ばずといった印象で、あまりパッとしなかった。
もうK君もいいおじさんだ。
子供はいないが、昔からの伴侶と2人で、今はどうしているのか随分連絡を取っていない。
まあ私は勿論だが、それだけの能力に恵まれたK君にとっても、人生は甘くなかったというところだろう。
生きることは大変だ。
でも、皆生きていく。
大成功しなくても、どうにかなりさえすれば、人生まずまずなのだといったところか。
まあ、そんなところか。
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