南の町へ
バルセロナへ来てひと月半程が過ぎた3月のある日、スペインの南を目指してひとり列車の旅に出た。
二等車に、20時間以上揺られて、遙か南部のセビリヤという町の駅が見えてきた。
ボストンバッグを引き摺りながら町の中心まで歩き、目についた安宿にとりあえず部屋をとる。
宿まで歩く間にも、エキゾチックな白壁の家々に、知らない町へ来たという感動が少しずつ湧いてくる。
荷物を置いてひと休みし、すぐにカメラを片手に宿を飛び出す。
迷路が私を待っている。白い壁に囲まれた、おとぎの世界のような小路。
歩けど歩けど続く石畳と素朴な家並み。あとは空しかない。紺碧のくっきりとした空。日本で見たことのない青。
ところどころ、窓辺に鉢の花が飾られている。
どこまでも歩く。歩けど歩けどついてくる両脇の純白の家並み。
出た。広場に。と、すぐ先に高い塔が見える。ガイドブックで見たヒラルダの塔だ。
私を迎えた家々。最初に出会った風景。
それは素朴で心に染み入る清楚な光景。
私は忘れないだろう。
この町に溢れる、この純白の光を。
一生忘れないだろう。
その時、そう思った。
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