ex 決戦の前に
ランディの脳を揺さぶり倒して着地した後、霊装の銃を蹴り飛ばしてから念入りに精霊術で拘束した。
ランディの意識はもうそこになく、戻ってきても動けない。
これでもうやるべき戦いの前哨戦は。
最大限の博打を無事勝利で終えた。
「……」
そうだ、前哨戦だ。
博打を重ねて死線を乗り越えた。
それでもここから先が本番だ。
安堵にも。勝利の余韻にも。浸っている時間などどこにもない。
……次の行動を。
(……やるか)
一呼吸置いてから、精霊術を使って閉じていた回路を開く。
「……ッ」
吐血しながら精霊術と……そして魔術を使うための魔力を生成する。
激痛苦痛。だけど最早慣れた行為。
シオンにとってはもはや当たり前の行為。
その様子がどういう風に視界に移ったのかは分からないが、シオンが何もせずとも彼女は勝手に義手の姿から元に戻った。
「どうし――」
シオンが何かを言いかけている間に彼女はシオンに対して回復術を掛け始める。
こちらから何も言わずとも、やって当然の事をするように傷を癒してくれる。
「……ありがとう」
そんな彼女にそう礼を言うと、微かに笑みを浮かべてくれた。
他の誰かなら気付かないかもしれないけれど、シオンにだけは分かる。
笑ってくれたのだ。
……そんな彼女をこれからルミアの前へと連れて行く。
果たして此処から先の事に巻き込んでも良いのだろうか。
今自分は引く訳にはいかないけれど、それでも彼女だけは先に逃がしてやるべきなのではないだろうか。
そんな思いが脳裏を過る。
過ってきっと顔にも出て。
そんなシオンの想いを断ち切るように、彼女はシオンの手を握る。
「ああ、分かってるよ。一緒に戦おう」
その言葉に、彼女は小さく頷いた。
何が正しくて何が間違っているのか。
そう考えると、彼女をこの先に連れている事は間違いだと思う。
戦う為に。勝つ為に必要な人材だとしても、戦いの渦の中に入れる事そのものを正しいとは絶対に思わないだろう。
だけど、その手を振り払う気は起きず。
手を放す気は起きず。
自分のようなどうしようもない人間に信頼を向けてくれた精霊の少女を守り切り、自らの理想を完遂する決意を新たにする。
やがて、最低限の治療は終わった。
時間が無い中、今はそれだけできれば十分。
「よし、じゃあ……行こう」
シオンの言葉に頷いた彼女を、シオンは義手の姿へと変える。
これから絶対に助けなければならない仲間を助けに行く。
(待ってろ、エイジ君。レベッカ)
エイジ。レベッカ。そしてエイジが命に代えても守りたいと思っている筈のエル。
今の自分にとっての……運命共同体。
彼らを助け、そして。
それから。
(……ここで全部終わらせるぞ、ルミア)
ルミア・マルティネスを殺害する。
殺人に手を染める。
彼女一人殺した所でこの世界のシステムは変わらない。
何も変わってはくれない。
だけどそれでも……彼女だけはここで止めなければならない。
息の根を止めなければならない。
正義感と恨みと憎しみと。
そして最大限の同族嫌悪を身に纏い。
悪逆非道を終わらせる。
いずれ自分も行くであろう地獄へと叩き落とす。
そして復活した神童が。
力と殺意を手にして動き出す。
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