26 もしも正解だったとすれば

「……ッ」


 思わず、息を呑んだ。

 移り変わった先の景色は暗闇だ。

 まるでバンジージャンプでもさせられた様な浮遊感も相まって、極黒と言ってもいい様な黒は直感的な死を連想させる。

 そう、連想した。連想してしまった。抱いたのは既視感だ。いつか感じた感覚をそのままなぞっている様な、そんな感じ。

 そしてそんな既視感を感じながらも確かに違っていた事は、まるで何かから逃れるように自然と瞼を閉じた事。そして次の瞬間訪れたのが叩きつけられた感覚ではなく、平らな地面に両足が付いた感覚だった事だ。

 ……そんな風に既視感を覚えて、自らの身に起きた事を過去と比較した。それはつまりどこかで今自分が何処に向かっていて何処にたどり着いたのか。それを自然と理解し、それでも瞼を閉じて現実から逃避していたのかもしれない。

 それでもいつまでも逃げている訳にはいかなくて、逃げたままでいられる訳がなくて。耳に届いた目を覚ませと言わんばかりのクラクションに自然と背を押された様に、俺はゆっくりと瞼を開く。


「……」


 そこに映っているのは俺が脳裏に浮かべた否定したい光景に程近い。見慣れた光景。見知った光景。瞳に映してはいけなかった光景。

 そこに俺は立っている。


 池袋のとある交差点の中心で、半ば放心的に立ち尽くしていた。


 此処にたどり着いた事も。目の前で起き始めた異様な光景も。隣に居ないエルの事も。他の皆の事も。その全てが脳の処理速度を上回り伸しかかり、ショートしたように体は動かない。頭も同様働かない。

 だけどそんな中で一つだけ分かった事がある。

 ここがエル達が行っていた正解だったのかは分からない。もしかするとどこかで大きな間違いがあって、地下鉄の路線を間違えたように、意図せず目的地からずれてしまったのかもしれない。

 だけどもしも此処が本当に正解だったとすれば。ずっと向かっていた場所が此処だったのだとすれば。


「なんだよ……コレ」


 ……ここは楽園なんかじゃない。

 そう思える光景が、目の前に広がっていた。

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