24 反撃の狼煙
斬撃で何人の敵を薙ぎ払えたのかは分からない。だけど少なくとも全員ではない。
残った連中の中から七名が一斉に此方に突っ込んでくる。
そしてその後方では、残った連中十名が精霊術を組み立てている。
そうして紡がれるのは、おそらく場を覆い尽くす様な大規模な遠距離攻撃ではない。
それは初手で開口一番に遠距離攻撃をぶっこんでこなかった事で察せる。
何しろ俺の後ろにいるのは、人間たちにとっての大切な資源。大切な商品だ。きっと初手で潰しにかかれない位の価値を彼女達に見出している。
だから、攻撃の要はきっと接近戦。あいつらはその援護。
……迎え撃つ!
俺は部屋を勢いよく飛び出し、まっ正面に飛び出してきていた一人を全力で切り上げる。
直後に竜巻を発生させ、切り上げた一人と。近くにいたもう一人を天井に打ち上げ、更に他の連中の動きも止める。
そして、その隙を狙う。
右足で地を蹴り、正面に飛び出し、竜巻が周囲にまき散らす突風に煽られた憲兵の一人に飛びひざ蹴りを打ち込んだ。
そしてそのまま空中で、折れた左手がら風を噴出。激痛を伴いながらも、辛うじて体勢を整え、俺に攻撃しようとしってきた憲兵に足を向けて顔面を蹴り飛ばす。
いや、踏み抜いた。
憲兵の顔面を土台にしてこちらに二人がかりで再接近してきた二名を剣で薙ぎ払う。
だけどそこまでだ。思った以上に攻撃の隙が大きい。左腕や全身のダメージでバランスも悪い。
残り一人の攻撃に対処できない。いつもはこういう時、エルが助けてくれている。
だけど……今は駄目だ。
「エル、動いちゃ駄目だ!」
攻撃の直前、飛び出そうとしていたエルを止めた。
その直後に、手にしたハンマーを突然巨大化させた精霊による薙ぎ払いをもろに受ける。
肋骨が粉砕される感覚と共に、薙ぎ払われた俺は床をワンバウンドした直後に壁に叩きつけられる。
『エイジさん!』
エルの声が脳裏に響く。
エルが動いていれば、きっと喰らわなかった一撃。だけどきっとエルが飛び出していたら、もうその時点で詰んでいたかもしれない。
大勢の憲兵と警備員、そして精霊が、後方で長々と精霊術を構築している。
いや、もしかするともう打てるようになっていて、打ちだすタイミングを見計らっているのかもしれないが、それがどうであるにしても、どうも前衛の援護には見えない。もしかすると最初に俺が否定した遠距離攻撃をするつもりなのか……まあなんにしても、脅威は脅威だ。
何が起こるか分からない上、あの人数だ。一瞬でも俺達が離れれば、その時点でもう終わるかもしれない。もうエルを剣にできるような状況じゃなくなるかもしれない。
だから例え一撃を喰らってでも……今の優位性を手放すな。
一発なら。一発なら、大丈夫だ。今のおれは、カイルに化け物呼ばわりされた状態の、さらに上を行く。肋骨を粉砕されたくらいでは、まだ、なんとか、倒れない。立っていられる。
なんとか起き上がって、その追撃を躱す事位はまだできる。
「……ッ!」
床を転がり追撃を躱し、体勢を整え反撃に打って出る。
その精霊を接近してなぎ倒し、次なる標的に視線を向ける
術式を組み上げる残りの連中に……。
そこまで考えたところで、その精霊術を組み上げている筈の連中の全員が動き出しているのが見えた。
その直後、まるで何かに押しつぶされているかの様に体が重くなる。
「ぐぁ……ッ」
そこで俺が色々と失敗した事に気づく。
何をしてくるかわからない。それが攻撃かどうかさえも。つまり俺は、あの精霊に対し反撃に打って出るのではなく、あの精霊の追撃を喰らってでも、後ろの連中をどうにかしなければならなかった。
……いや、違う。それができたかはともかくとして、前衛部隊を無視してでも優先的に潰しておくべきだったんだ。
前の連中は……囮ッ!
本命はこの精霊術。感覚的に、俺にかかる重力を変動させてるか、俺の周囲の重力を変動させてるか。
いずれにしても……体が、あまりに重い。
気を抜けば、押しつぶされてしまいそうだ。
そんな中で、前方からは憲兵が迫る。
なんとか剣を動かして相対しようとするが、動きが鈍すぎる。そうなるまでの重力を掛けるほどの時間と人員を取られた。致命的すぎる失敗。
だけど悔やんでも俺に状況は変えられない。
一撃は喰らう。いや、二撃も三撃も。この重力をどうにかするまで、それは続く。
……どうするッ!
憲兵達と精霊が各々の武器で俺に攻撃を仕掛けてくる。それを目の当たりにして、俺はただそう考えることしかできなかった。
だけどそれでも、俺に攻撃は届かない。届かなかった。
目の前に、一面を覆うような結界が展開され、それが全ての攻撃を止めたんだ。
何が……起きてる?
一瞬そんな事を考えるが、答えを導き出すのは容易だ。
消去法。俺もエルも、そんな結界は張れない。そして憲兵達も、張らない。
この状況で……これができる存在は、俺の背後にしかいない。
目の前の結界が作った隙。それを利用して、重い体をなんとか動かし後方に飛び、距離を取る。
そしてそうした俺のちょうど隣。その場所に、あの子が居た。
黄緑色の髪をした小柄な精霊が、そこに居た。
そして、搔き消えそうな声で、彼女は言う。
「約束……守ったよ」
彼女がそう言った次の瞬間だろうか。おそらく彼女の作り出した結界が壊れたのとほぼ同時、四人の精霊が飛び出してきた。
そして背後では、枷が壊れる音が立て続けに聞こえてくる。
……約束。
『俺達が足止めする! だからその間に他の精霊を頼む!』
それを彼女は無事完遂した。
そして彼女に助けられた精霊がまた別のだれかを助け、それは 連鎖していく。
その一部が、こちらの加勢に回された。
そしてそれは即ち……こういう事になる。
少なくとも今この時に限っては、共通の敵を倒す共闘関係に認めてくれた。その位には信頼してくれた。
……もちろん、それは俺の勝手な解釈なのかもしれない。だけど俺が思ったのならば、少なくとも俺の中ではそういう事にしておいてもいい筈だ。その思いにこたえようと思ってもいい筈だ。
そして俺は再び剣を構える。
重力に押さえつけられる感じは、徐々に弱まっていく。まだまだ体は重いが、それでも最初と比べればまだ動く。
そしてこちらの動けるメンツも増えた。
……さあ、反撃開始だ。この状況、切り抜けるぞ。
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