第374話 2022/11/13/日・寝顔に胸が痛む。

 最近スコちゃんは、わたくしのベッドの上から、二階にいるわたくしを呼びつけることが多いです。


「にゃん! にゃんっ、にゃんっ」とか、「にゃっ、にゃっ、にゃっ」となにか訴えている模様です。


 これ、離別恐怖なのか依存しているのか、わからなかったんです。

 でも違ったらしくて。

 わたくしがベッドのスコちゃんを見つめてブラッシングをすると、そりゃもうメロンメロンに喜んでくれて、最近はおなかを見せてふにゃふにゃになってしまいます。


 でも、ブラッシングはそんなにしょっちゅうしてると薄毛になったりしますから、スコちゃんが気持ちよくゴロゴロいってるときに席を外すんです。

 そうすると、ひと時離れてもおとなしくベッドで寝ています。

 ところが、それだけだとまた「にゃっにゃっにゃっ」というのを繰り返します。

 満足がいっていないのだと思いました。


 そこで、空想力を働かせ、スコちゃんに心の中で聞いてみました。

「どうしてほしいの?」

 するとスコちゃんは、「だっこして、おなかをなでてほしい」と言いました。

 あの、だっこもさせてくれなかったスコちゃんは、だっこの魅力にとりつかれ、一日中だっこ漬けにしてあげてもそのうち物足りなくなっていたのでしょう。


 だっこしておなかをなでなで、しました。

 5~6分してスコちゃんは身を起こします。

 もしかしたら、だっこの仕方が下手なのかもしれません。


 そんなことを一日三回繰り返して気づきました。

 スコちゃんは、適当なマッサージなど望んではいないのだと。

 スコちゃんは8か月くらいの時に避妊手術をしました。

 彼女は命のつながりを切られた、となげき、子供を産みたかったと言っていました。

 思い出すだけでつらいこと。

 わたくしの人間としての常識的判断として、手術は必須でした。

 でも、スコちゃんのおなかにはメスが入れられ、大事な器官を失いました。


 わたくしは、彼女のおなかをなでながら思いました。

『ここに、子供が宿るはずだったんだよな』

『お乳を飲む子猫たちがここに群がって賑やかになるはずだったんだよな』

『切った古傷、今も痛むのかな』

 今さらです。


 でも、手術をしなければ、スコちゃんの命は4年。

 その間にオス猫も買ってきて、めわせたとして、その4年の間に何匹の子猫が産まれるか。

 猫の種の保存的には間違いないけれど、多頭飼いはリスクです。

 だから、たった一匹のスコちゃんと長くいるために、手術をしました。

 スコちゃんは、


「永く生きるってことは、長く幸せな気持ちを感じていくってことなのね」


 そうです、姫。

 人間はそういう生き物です。

 あなたはわたくしの都合で命のつながりを断たれてしまった。

 しあわせを感じていただくために、がんばります。

 もし、死ぬとき、苦しみや痛みを感じないようにしたほうがいいのなら、気持ちよく眠って幸せな気持ちのまま死なせてあげます。

 と言ったら。


「そうして」


 とうっとり目を閉じた。

 その間、おなかをなでなでし続けました。

 そのお顔を見つめながら、彼女を失う時を思ってつらかった。

 スコちゃんを失って泣くのにためらいはしない、と。


 今、彼女はわたくしのベッドでたたんである毛布の上で丸まっています。

 夜は冷えるので、たぶん一緒の布団で寝ることになるでしょう。


 わたくしは毎日覚悟をしなければならない。


「手厚く葬ってね」

 ってスコちゃんが言うので。

「はひ; 骨はお寺に納骨に行った方がいいでしょうか・」

 と返したら、

「納骨するとかしないとかはどうでも。手厚くっていうか、いい加減な気持ちでとりあつかったりしなければ、いつまでも一緒にいてあげる」


 女神! あなたの戒名は「守護月天シャオリン」にしてもらいたい! わたくしの幸運。

 わたくしだけの……。





 10、2

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