第234話 怒るの。

 夕べ、録画していた映画を観ていたら、クライマックスでいきなり、



「フギャァ!」



 という悲鳴が聞こえた。

 見てみるとリビングの入り口付近で、母がドアのところにいて。

 記憶によると、たしかそこにはスコちゃんが、好んで寝そべっていた。



「なにがあったの?」



 と、映画を放り出して尋ねると、母。



「ドアを閉めたら、猫ちゃんがいたの」



 という、子供みたいな答えが返ってきた。

 つまり、ドアでスコちゃんをぐっとはさんでしまったらしい。



「スコちゃんはずっとそこにいたの、見たでしょう?」


「いや、気がつかなかった」



 とにかく、逃げて行ってしまったスコちゃんを追いかけ、書庫で見つけると、だっこして、なでなで、すりすりしながら。



「いたかったね、いたかった。苦しかったね、ごめんね。痛いときは鳴いていいんだよ。こわかったね、大丈夫?」



 とあやしつけ、おやつとモンプチを与えた。

 そして、食事のテーブルについている母にむかって、無言で足を鳴らして抗議した。

 母はまず言い訳をする。


 だん! だんだん!


 足を鳴らしても言い訳はやまない。

 左拳をテーブルに、こつんと置いた。



「おかーさんは、いつも私の面倒を見てくれて、家事をやってくれて、働きにまででて、えらいし、感謝もしている……だけど、私の大事なものを傷つけるのはゆるさない!」



 と、えらくすらすらと言葉が出てきた。

 注射も黙って耐えるにゃんこが、フギャァ! って言ったのだ……フギャァ! って。

 相当痛かったに違いない。


 あとで母にはスコちゃんに謝ってもらった。

 私は怒ってるんですよ!

 スコちゃんは昼間からずっと、ドアの付近にいて、いつも母は「見て! ずうずうしい」といっていた。


 つまり、そこにスコちゃんがいるのを認めていたのだ。

 ドアが開いているから締めた、にゃんこがいるとは思わなかった。

 というのは、とっても怪しいと思う。


 スコちゃんはいきなり姿を消したわけではない。

 それを母は、いきなり見えなくなったという表現をしていた。

 軽い重量のドアを、ぐっと力を入れて閉めたと言っていたが、本来力など入れなくてもスーッと閉じるはずである。


 それをぐっと力を込めて閉めたからには、そこに障害物=にゃんこがいたと知っていたのではないかと思う。

 もう、怒った。

 腹の底から怒った。


 スコちゃんを守らなければ!

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