第二十七話 芋けんぴ屋営業中!!
芋けんぴを売り始めた俺だが、午前中というのもあって客足はまばら。そしておやつにあたる芋けんぴも今のところは売れ行きは良くない。
それでも目新しい芋菓子ということもあるので試食を用意している。試食してくれた客は試しに買ってくれるので感触は悪くはないようだ。
そんな感じで午前中はナツと一緒にゆったり過ごしていた。
午前中の演劇が終わって、劇場からぞろぞろと観客が出てきて広場は段々と賑やかになってきた。
そうなると屋台の客寄せの掛け声も活気付く。
「新鮮な野菜をたっぷり使ったランチボックスを観劇のお供にいかがですかー」
「観劇には定番のビールとフリッツ!! 揚げたてで美味しいよー」
「地元野菜たっぷりのサンドはいかがですかー」
昼時というのもあって弁当などのガッツリ食べ物を売っている店に観客が寄ってきて盛況のようだ。俺も頑張って売らないとな。
「ふーん、なんか珍しいスイーツがあるな」
声に気がついて、そちらを見ると目のところを隠す白い仮面の男が立っていた。顔は隠れていても美男子だなとわかる雰囲気だ。舞台映えする化粧もしているし劇団の人かもしれないな。
「い、いらっしゃいませ!! 芋けんぴという俺の故郷の菓子なんですよ。試食をどうぞ」
俺は若干困惑気味だが、頑張って営業スマイルを浮かべる。接客業でアルバイトしていた時は色々変な人が来たから耐性はあるのだよな。
「あっ、オスガル!! こんなところにいたんだ!!」
「アンドレアか、この芋けんぴというスイーツうまいぜ。お前も試食してみろよ」
もう一人、来たよ。こちらもなんかきっちりメイクした美男子だな。名前はアンドレアなのか。最初の仮面の兄さんはオスガルさんっていうのだね。
オスガルが芋けんぴをアンドレアの口に持っていくと、アンドレアは口をアーンと開けてパクりと食べた。
「本当だっ!! うまいねーコレ」
「だろー。これ劇団のみんなに買っていこうぜ」
「ああ、それいいねー」
「おっさん、これ100個くれ」
「あっ、まいどありー」
俺は店頭に並べている芋けんぴだけでは足りなかったのでウニキャンの中にある在庫からも取り出して100個を半分に分けて二つの紙袋に詰めて渡した。
「お待たせしましたー。兄さんたちは、もしかして劇団の人?」
「おっ、わかる? 野外劇場でやっている『オペラ座のばら』の俺が主役のオスガル。で、こいつが相手役のアンドレアだよ」
「へー、そうだったんですかー。午後の公演も頑張ってくださいね」
「おぅ、あんがとよ。おっさんも商売頑張れよ」
「おじさんも、がんばってねー」
「まいどありー」
二人は仲良く袋を持って帰って行った。在庫もかなり捌けたので商売的に楽になったな。
「すみませーん、芋けんぴください」
「いらっしゃい……。 !?」
いつの間にか店の前には行列ができているのだが……。それも女性客ばかり。どうやら主役の二人が芋けんぴを大量に買ったのを見ていた女性ファンが大挙してやってきたみたいだった。
幸いにも綺麗に整列して行列ができている。最後尾にはいつの間にか作ったのか最後尾札を持っている人もいる。これだけの人混みで混乱してないのが実にありがたい。
「これが、よく訓練されたファンてやつか……」
このあとめちゃくちゃ忙しくなった俺だった。
※注
『オペラ座のばら』
オペラ座に住む仮面の麗人オスガルと客としてきたアンドレアとの間でオペラ座で繰り広げられる友情の物語。女性に絶大な人気がある演目。
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