第106話 あの恩人の正体? 〜side ユーゴ〜
とある城の一室にて……
コンコン……
「入れ」
「はっ、隊長っ!ランヴィ支部からの出品に宝珠の花を使ったポーションがっ!」
「なんだとっ!」
立ち上がった拍子に書きかけの書類が散らばったがそれどころではない。
「出品者は?」
「はい!どうやら公認ポーション職人のようです」
公認のポーション職人か……
「あそこは老師だったか?母上のポーションを頼んだよな」
「いえ、前任の公認職人は王妃様のポーションを最後に引退したとのことで現在は若い女性が公認職人になっているそうです」
「そうか」
もしかして……あの時の恩人か?いや、まさかな……
知らせにきた部下もあの時助けられた1人だ。助けられた時の記憶はほとんどないらしいが、俺が探していることを知っているからこうして報告にきたのだろう。半分は女神様が助けてくれたと思っているが……もしかしてという気持ちも捨てきれない。そのためランヴィの街の情報はあの時以降集め続けている。
それに、もし別人でも公認ポーション職人ならば宝珠の花を咲いている場所を知っている可能性も捨てきれない。縁を繋いでおいて損はないはずだ。
「必ずそのポーション競り落としてくれ。費用は俺が持つ」
「はっ」
母上が元気になったとはいえ念のため持っておきたい。今では入る隙もないほど両親の仲がよくて参ってるが……あって困ることはない。やはり、母上の魔力量は回復することはなく1度減ってしまったそのままだ。2度と魔力欠乏症にかかることはないらしいとはいえ、念には念を入れておくにこしたことはない。
数日後には無事に競り落としたと報告を受け、金額に驚いたりもしたがひとまずホッとした。
競り落としたポーションは時間経過しない宝物庫に保管されることになるだろう。そうすれば劣化しないため安心だ。
「休暇を取ってランヴィへ行ってみるか……」
というのもつい最近俺が休まないと部下が休めないと進言されたばかりなのだ。
そう言われれば、母上のポーションのために森へ行った後、数日程度休んだくらいしか記憶にない……もちろん部下はローテーションを組んで休ませてはいるが、少々放っておきすぎたようでローテーションがめちゃくちゃになっている。
部下の独身率が高いのも俺のせいかもしれないな……いや、あいつらがガサツなだけだな。きっとそうに違いない。
叔父上のところに行くといえば両親も問題ないだろう。
急いで残りの仕事をこなし、他の隊へ仕事を振り分ける。いつもは向こうに押し付けられているのでなんら問題はない。
休暇の申請をするとすぐに受け入れられた。よっぽど休ませたいらしい。思ったより長期休暇になってしまった。部下たちもこれでゆっくり休めるだろう……
母上からお土産期待してると言われてしまったので道中どこかで探さなければ……
準備を済ませ朝方ひっそりと出発……じゃなければ部下が付いてくるんだよな。門を出ると……
「あ……」
「やっぱりひとりで行くつもりだったな?」
部下で幼い頃からの友人のマーカスが待っていた。
「お前」
「ま、お目付役ってとこですよ隊長。それに俺が嘘の情報を流したおかげでひっそりと出発できるんですからね」
「そうか……」
きっと帰ってきたら、マーカスには嘘を知った他の隊員たちからの何かしらの報復が待ち受けているんだろうな……女性の紹介×10とか。マーカスならなんとかなるだろうから俺は関与しない。
「で、ランヴィに行くんだよな?」
「ああ……」
「早く出発しよう。誰か来るかもしれないし」
「そうだな」
たとえその公認職人があの恩人でなかったとしても、少しでも情報を集められればいいな。それに、その公認職人に接触できればなおいいが……ギルドに相談してみるか。あそこのサブマス厄介なんだけどな……
数日かけ移動しつつ、出くわした魔物を討伐したり、ダンジョンでお土産を調達しながら進みランヴィの街へ到着した。ちょっとした小旅行なのは否めないが、相手がマーカスじゃな……
「まずは冒険者ギルドへ行ってみるか……」
「そのあとはおいしい食事にしましょうね……いくつか候補があるんだ」
「ああ……マーカスに任せる」
「よっしゃ。じゃあ全部まわりましょうね?」
「時間があればな」
案の定、ギルドの厄介なサブマスにのらりくらりとかわされてしまったが冒険者たちによると、公認さんと呼ばれる彼女は現在、カニをゲットしに行ったとのこと……はぁ、そのダンジョン行ってきたばかりなんだが……すれ違いか……そういえばパーティとすれ違ったような……あの中にいたのか。
公認さんの家は呪われた家らしいということも分かったが、聞き込みをしている間に叔父上からの迎えが来た。
多分、サブマスの仕業だろう……念のため言付けを頼んだが、果たして彼女に伝わるのだろうか。はぁ……声さえ聞ければよかったのに……そうすれば恩人かどうかはっきりしたはず。あの声だけは忘れられない。
「マーカス、これからも新たな情報があったらすぐに教えてくれ。それと美味い食事はたらふく食えそうだぞ……叔父上が満足した後にな」
「はいはい……あー、アルフォンス様、奥様と一緒に過ごしたいからってさっさと現役を退いてから暇してるって聞くからなぁ……食事は遠そうだな……そういや、領地経営は息子に任せっきりなんだろ?」
「ああ、将軍といっても現在は名誉職だし、新兵を鍛えて遊ぶか色々な街をぶらぶらしているらしい……安心しろ、領地経営は叔父上が現役の時からほとんど代理で頑張っていたそうだから」
「あ、そう……」
叔父上の屋敷へ行くとすでにやる気満々の様子で待ち構えていた。知らせを受け、我々を迎えにやってすぐウォーミングアップをはじめたんだろう。
「あー……これはかなりヤバそうだな」
「しっかり気合い入れないと大怪我しそうだ」
「準備はいいかな?まずは挨拶がわりに打ち合い10本な!お前ら2人でかかってきていいぞ!」
「「はい」」
休暇を取ったはずなのにいつも以上に訓練し、マーカス共々ボロボロに……叔父上、現役のときよりも強くなっている気がするのだが?
母上への土産の予定だったカニの身も半分以上が叔父上の腹の中におさまった。
両親へ渡すと俺の分がなくなってしまう……はぁ、仕方ないか。母上に何も渡さないという選択肢はないのだ……後に響く。特に最近では俺に縁談をという声もあるのだから……相手くらい自分で選びたいし、母上を味方につけておかねばならないのだ。
散々、叔父上と訓練し泥だらけになり食事と酒をご馳走になる日々を過ごした。倒れるように眠りについたのも久しぶりだった。
帰り際、叔母上が叔父上コレクションの酒を数本土産にくれたので道中にマーカスとすべて飲み干すことにした。
母上は回復してからお酒は控えているし、父上も目の前にあったら飲んでしまうからな。そんな揉め事の原因は息子である俺が事前に解決したというわけだ。
「食事は美味かったけど、あの訓練はなんなんだよ……」
「叔父上、嬉々としてたよな……きっと新兵じゃ物足りなかったんだろうな」
「なんかあの勢いのまま、王都観光とか言って訓練所に直行しそうだよなー」
「マーカス、お前怖いこと言うなよ……」
数日後、王都に到着した俺とマーカスを待ち受けていたのは訓練所で死屍累々となった部下やほかの隊の隊員たち……とその中央で楽しそうにしている叔父上だった……かろうじて立っているのは隊長、副長クラスだろうな。
ちなみに叔父上は馬を飛ばし俺たちを追い抜いたそうだ。もう少しゆっくりすればよかったと後悔したがもう遅い……叔父上は嬉しそうにこちらへやってきている。また、地獄の訓練が始まるようだ……
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