第91話 女神見習い、ダンジョンへ行く 〜冒険者の弟 side ジャック〜


 俺はジャック。11歳。こげ茶の髪によく見ると紫にも見える瞳で体格は同い年の友達と比べても真ん中らへんだ。

 兄ちゃんはかーさん似、俺はとーさんでまったく似てないけど、兄ちゃんに憧れて冒険者見習いをやってる。

 まだ、兄ちゃんに後見人してもらってる見習いだけど、将来は兄ちゃんに肩を並べられる冒険者になるんだ。


 ルカ兄ちゃんやカーラ姉さんにはやんちゃなジャックと呼ばれ、可愛がってくれてると思う。時には稽古をつけてくれるし、将来義姉を目指すステラ姉さんは生温かい目で見守ってくれてる。うん、多分妄想に浸ってるからそういう目をしてる時はそっとしておくけどな!


 そんな俺は今日も朝からギルドへ行き見習いでもできる依頼を受ける。

 出来ることは街のお手伝いや簡単な薬草採取とかだけど、いつかは貯めたお金でカッコいい装備を買うことを夢見て地道に頑張ってる。

 無理をして怪我でもすれば兄ちゃんはすぐに後見人を降りると言われてるし無茶はしない。俺は堅実な男なのだ!


 朝から街のお使いを数件済ませた後、薬草採取の為に門を出て俺の庭といっても過言でないほど通いなれた草原で採取を始めてすぐの事だった。


 急にゾワゾワと背筋が凍るような感覚と共に誰かに強く腕を掴まれたんだ。


 「うわっ」


 振り返るとそこには何とも言えない姿の……多分女の人。でも全身が真っ黒なもやで覆われてる上、不気味だし、なんかブツブツ呟いてるし。あなたは誰にも渡さないとかなんとか。掴まれた腕から何か悪いものが這い上がっているような気がして


 「な、なんだよっ!」



 全力で振り払って逃げ出した。幸いにも追ってこなかったけど今日は薬草採取は止めることにする。

 家に帰ってすぐに掴まれた場所を確認したけど何もなくてホッとしていたのに夕方ぐらいから気分が悪くなって……そこからはあまり記憶に無い。


 どうやら俺はかなりの期間、衰弱して寝込んでいたらしい……苦しかったことだけは覚えてる。家族がそばで何か言っているのはわかったけど意識が朦朧としていた……何度もそれを繰り返し時々少しだけ体が軽くなったけど、それもわずかな時間で……もしかして、俺死んじゃうのかなって怖くなったのを朧げに覚えてる。


 でも、起きてみるとなぜか服や寝台はびしょびしょだったけど体がすっきりしていた。



 「あれ……俺……」

 「「「ジャック!!」」」


 なんだか声がかすれてるけど、声変わりかな?なんて冗談を言おうと思ったけど家族の泣き笑いみたいな顔で俺を見つめてるからそれも言えなくて……


 兄ちゃんに体を起こされ、自分を見ると……ま、まさか……俺……


 「漏ら……」

 「してないから!!ジャック、お前何日も寝込んでたんだぞ。エナのポーションのおかげで元気になったみたいだな」


 ふう……よかった……寝込んでいた間の下のことは気にしてはいけない。ここは華麗にかわすのが1番だ、多分。

 どうやらかなり命の危険があったみたいだけど兄ちゃん達が助けてくれたらしい。


 「そうなんだ……えっと……」

 「あ、エナです。冒険者兼ポーション職人だよ。無事に回復してよかったよー」


 なんだかものすごく綺麗な人だ……あれ、この人女の子連れて歩いてるの見たような……


 「エナさん。ありがとうございました?」

 「エナ、本当にありがとう」

 「いえ、よかったです。念のためもう1本飲んでね?」

 「はい」

 

 また明日来ると言ってエナさんは帰っていった。今日はもう休むように言われたので服を着替え、交換したシーツに大人しく横になるとすぐに眠りに落ちた。


 次の日は家族に朝から教会へ連れていかれ女神様に浄化の魔法と回復魔法をかけてもらった。女神様が降臨なさってから家族や時にはルカ兄ちゃんが俺を抱えて毎日教会へ通ってくれていたんだとか……女神様にも太鼓判をもらい、家へ戻った。

 そうそう、女神様曰く今回のことで瘴気に耐性がついて他の人より少しだけ長くその場にいられるらしい……冒険者としては強みになるかもしれない。


 「いくら元気になったからってすぐに走り回ったりするなよ」

 「え、だめなの?」

 「ああ、あと数日は退屈でもゆっくり休んでくれ……」

 「わかったよ」


 早々に寝台へ詰め込まれボーッとしていたらエナさんとルカ兄ちゃん、カーラ姉さん、ステラ姉さんが一緒に訪ねて来てくれた。暇だったので嬉しい。


 「エナ……本当にありがとう。エナのレシピのおかげで弟の命が救われた」

 「えっと……エナさん、ありがとうございます」

 「私たちからもお礼を言わせて……本当にありがとう」

 「「ありがとう」」

 「お嬢ちゃんはいつでもどんな量でもタダで持ってていってくれよな」

 「そうだね……ジャックが元気になったんだ。それくらい安いものさ」

 「ええっ、それは悪いですから」

 「いやいや」

 

 少し照れ臭そうにしたエナさんはドロップのことに話をすり替えていた。

 リビングへ移動してしまってまた暇だけど、なにやら楽しそうな声も聞こえて、それが子守唄のようにいつのまにかまた眠りについていた……思っていた以上に体力がなくなったみたいだ。また兄ちゃん達に稽古つけてもらわないとな……やっぱり俺の憧れの人は兄ちゃんだ。いつか必ず肩を並べられるようになるんだ。


 そうだ、今度エナさんと一緒にいたあの子に話しかけてみよう。すごく綺麗な女の子。

 まだまだ冒険者としては未熟だけど、まずは兄ちゃんよりヘタレじゃないってところから。もしかしたらこれに関しては追い抜けるかもしれない……



 その後、屋台に買い物に来たエナさんと両親の間で代金を無料にするとかしないとかでちょっとした問答になったらしいけど、引き下がったように見せつつ、かーさん達はこっそり料金はそのままで量を倍にすることにしたらしい……多分、エナさんには気付かれないように量を増やすんだと思うけど、そんなに上手くいくのかな。

 ほら、とーさんって演技とかできない人だからさ……すぐにばれちゃいそうだよね。



 今でも思い出すと身震いするほど気味が悪い……一応見回りの強化や情報として回したらしいけど、その後も何の進展もないみたい。


 「はあ……一体アレはなんだったんだろう」

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