第64話 女神見習い、少女と買い物を楽しむ(1)

 朝起きてから日課の結界チェックをして、昨日逆さにして冷やしておいたジャムを朝食に食べる準備をする。

 

 「おはよう。今日の朝はじゃがいもと玉ねぎのコンソメスープとパンと昨日作ったジャムだよ」

 「おはよう……」


 ささっと、朝食の用意を済ませてテーブルに用意する。リディはカラトリーの準備をしている……ブランはすでに席についていた、はぁ。


 「「いただきます」」


 モグモグ……


 「うまー」

 「ん、美味しい」

 「ねー、上手くできてよかったね」

 「ん……ブランも気に入ったって」

 「そうだろうね……」


 なんか、ブランの食べっぷりがやばい……放っておいたらひと瓶まるごとひとりで食べちゃいそう。

 やっぱり、リディの手作りってことも大きいのかな。私の手作りのコンソメスープにはがっつかないし……これでも最初の頃に比べたら上手くできた方なんだけどなぁ。


 「でも、そんなに食べて太ったら飛べなく……あ、なんでもないです」

 「……エナ、どうしたの?」

 「ううん、なんでも……ないよ」


 ブランの殺気が……ぶるっ。


 とかいう自分も調子に乗って、ジャム全種類試したらお腹パンパン……ふぅ。

 いやー、今まで作ったものの中で1、2を争う美味しさだったもので……つい。


 パイ用とおすそ分け用のジャムをストレージに入れて出かける準備を進める……リディに浄化をかけて、変容のネックレスに魔力を込め後片付けを済ます。


 リディはストンとしたライトブルーのワンピースにブーツ、フード付きの外套、首元には変容のネックレス、手にはブランとお揃いの指輪……うん、可愛い。

 私ですか? いつもと同じ冒険者の服にしようと思ったけど、市民の服にしましたよー。なんたって、今日はお出かけメインだからね……あ、どうでもいい? そうですか。


 リディと手を繋ぎ、少し重たくなった気がするブランを肩に乗せ……いつものように瞬間移動する。

 あ、そうそう瞬間移動する場所だけど……万が一に備えて前の場所は使わず、もう少し距離のあるところに洞穴?昔の貯蔵庫みたいなところがあったから、そこに瞬間移動するようにしてる。助けた人にバッタリ会うのは避けたいし……


 森を出て、草原を歩く

 ………テクテクテク……

 いつも冒険者の服に慣れてるからスカートが……バッサバッサと靡いてる。うん、ちょっとうっとおしいな……


 「地味に遠いよね……門まで」

 「……ん」

 「いーなー……ブランなんか飛んだらすぐだもんね」

 「ん……」


 いやいや、ブランさん? さすがにリディを抱えて飛ぶのは無理だと思うよ……サイズ的に。あ、諦めた。ものすごく悔しがっている……


 「ま、まぁ……のんびり行けばいいよね」

 「ん、そうだね」


 そうしてしばらく歩けば……見慣れた門が近づいてきた。こっちの門はほとんど冒険者しか使わないから、門番さんも顔を覚えてくれてるんだよね……まぁ、門番さんからしたら数日に1回くるこの冒険者はいったいどこに住んでるんだ?って思われそうだけど……細かいことは気にしない気にしない。そういうのは聞かれた時に考えよう、うん。


 おなじみの強面門番さんもブランを見て最初は警戒していたけど、リディのギルドカードを確認した後は興味深々のようだ。


 「おお、珍しいなあ。この街じゃ従魔自体滅多に見ないってのに……キラーバードかぁ」

 「そうですか……」

 「ああ……昔は俺も弟と羽を拾いに行ったもんだよ」 

 「へぇ……」


 キラーバードをこんな間近で観察できる機会はないと他の門番さんや関係ない住人まで集まってきてしまった。

 リディが少し落ち着かないようで、ブランもピリピリしてきたので早々に抜け出し、ギルドへ向かうことに。

 もちろん念には念を入れ、いつでも張れるよう結界の準備もした……あとは見境なくブランにちょっかいをかけてくる人がいなければ大丈夫、多分。


 「そろそろ行きますね」

 「おう、引き止めて悪かったな」

 「いえ」

 「ん、へいき……」


 ギルドへ向かう道中も従魔のブランが珍しいのかそこそこの視線を浴びてしまった。

 早足でギルドへ入るとマルガスがまだだろう?と視線で訴えてきたので、手早くリディの依頼をお願いに来たと伝えるとカーラさん対応してくれた。


 「おはようございます。エナさん、リディさん」

 「カーラさん、おはようございます」

 「……おはようございます」


 ギルドでもブランに視線が集中し、若干の居心地の悪さを感じつつ……受付でリディが依頼を受けるのを見守る。


 「この、キラーバードの羽の納品……」

 「はい、ではギルドカードをお預かりしますね」

 「ん……」 

 「すぐに出せるようでしたら、このままここで買い取らせていただきますが」

 「ん、お願いします」


 その間、ブランはリディの肩の上で大人しくしてるんだけど……リディ以外への殺気がすごいよね……冒険者ですら若干引いてるし。まぁ、リディを守りたいがためなんだろうけどさ……私にまで殺気を送ってくるってどういうことよ?

 あ、もしかしてリディが私の服の裾を掴んでるのが気に入らないとか? しょーがないよねー……ブランは服着てないもん。役得、役得。


 カウンターで大量にあったブランの羽を納品したら、今回もかなりの収入になったみたい。具体的には月に2回ギルドへ納品したら一般家庭が少し節約すれば暮らせるくらいの額……リディひとりなら月1回で十分賄えるかな。うん、私が新人冒険者だった頃の比じゃないね……

 


 「前回の羽も人気ですぐに売れてしまったらしいですよ。また、お願いしますね」

 「ん、ブランがいいって言ったら……」

 「ブランさん、お願いできますか?」


 ブランはカーラさんの周りを1周した。周囲の冒険者が一瞬にして戦闘態勢に入ったのを感じ慌てて


 「あ、これ……わかったって返事だと思います」

 「ん、当たってる」

 「それは、よかったです」


 その瞬間ギルドがどよめいた……とか、どよめかなかったとか……


 「ん、エナこれ……」


 今回もリディがお金を手渡してきたので半分だけ受け取った。

 だって……「いらないよ。リディの好きにしていいんだよ」って言っても頑なに渡してくるんだもの……もちろんこれはリディ貯金行きですよ。


 「そうだ、リディの口座っていつになったら作れますかね」

 「うーん……エナさんが後見人なら作れるかもしれませんね……」

 「ちょっとサブマスに相談してみますね。今日は出てていないんですよ」

 「じゃあ、それでお願いします。あ、ちなみに今日って親父さん忙しいですかね」

 「いえ……女神様の降臨の時期でもありませんし、エナさんのお持ち帰りなら大丈夫だと思いますよ」

 「よかったです。このあと行ってみます」

 「ええ、お気をつけて」


 ギルドを出て、『黄金の羊亭』へ向かう……やっぱり視線は感じるけど、それほどでもないかなぁ。

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