第56話 女神見習い、ギルド公認になる(1)


 畑の拡張や世話をしたり、薬草採取やポーションを作りため、リディと魔法の練習をして過ごすこと約半月……


 そうかー、宝珠の花で作ったポーションが必要な人もいるんだな……人助けをした時にそう気づいたので、前回作ってあったポーションをギルドへ持ち込んでみようと思う。ほんとは持っていくの忘れてたんだけなんだよね……


 早速、ギルドに持っていったらマルガスさんに……


 「お前、そのポーションあと半月早く持ってきてたら一気に有名人になれたぞ?」

 「え、なんでですか?」

 「……そりゃあ、とある貴人の治療に使えたからだよ。そしたらエナめちゃくちゃ目立ったな……まぁ、持ってくるのはポーションでも素材でもどちらでもよかったんだがな」

 「うわー、危なかったー」

 

 ……ん? でもこの素材ってサブマスの追加リストの1番上のやつだよね。

 ポーションどうしようかな……やっぱ売るのはやめておこうかな?


 「なぁ……エナは目立ちたくないのは面倒ごとに巻き込まれたくないからか」

 「ええ、まぁ」


 なんですか、急に……そんな渋い顔したって絆されませんからね。


 「もう少ししたら、サブマスが来るからそん時に話すな?」

 

 えー、サブマスが来るんですかー……


 「そんな顔しなくても、悪い話じゃないから安心しろ」

 「はぁ……」


 仕方ない。ゆっくりお茶を飲んで待っていると……


 バーンッと扉が開いた。

 なんかサブマスって、これでビクッとしてるのを面白がってる節があるから敢えて無反応を通してみた……内心では心臓バクバクいってるけどね。


 「やぁ、おまたせ」

 「いえ」


 サブマスがマルガスさんの隣に腰かけ、キリッとした表情になった。


 「じゃあ、早速本題に入るね。ギルドでエナくんのポーションをギルド公認ポーションとして取り扱いたいと考えていますがいかがでしょうか?」

 「え、でも……通常は何年も実績を上げないとダメなんですよね?」

「ああ、本来ならばそうだな……」


 あれ、なんか訳ありっぽいな。ここで色々聞いて藪蛇もあれだし、願ってもない提案だし……なによりサブマスを敵に回さないと決めたしね。


 「そして、公認になるとともに冒険者ランクもひとつあげさせてもらいます。つまりCランクになるってことだね……冒険者が公認になる場合はあまりランクが低いとロクな目にあわないので」


 えー、ふた月ぐらいまえにようやく中堅になったばかりですけど……

 

 「エナ、これは決定事項だ。諦めろ」

 「はぁ」

 「じゃ、マルガス説明よろしくね」

 「ああ。まずは登録料についてだな……ギルド公認は登録料として初回のみ金貨1枚で、次の年からは銀貨1枚かかる」

 「結構するんですね……」

 「まぁ、聞け。登録料を取る分ポーションの買い取り手数料がなくなるからたくさん売れば登録料は取り返せるぞ」

 

 説明を聞く限り、登録料さえ払えば売れれば売れるだけ儲けも大きいみたい。金貨1枚は痛いけど……


 「それに、ギルド公認は公認価格として普通より高く買い取っている」

 「へぇ……」

 「もちろん個人で売る場合にも優遇されるはずだ」


 それほどにギルド公認というのには信用と価値があるってことか……


 「公認の登録はエナくんはギルドカードがあるからそこにされるよ」  

 「そうですか」


 ちなみにギルドカードを持っていない場合はギルドカード支給されそこに登録するので結果は同じ。まぁ、ほとんどの人がすでにギルドカードを持っているらしいけど。


 「たとえ他の街のギルドに行った場合でもそこでギルドカードを提示すればここと同じように買い取ってくれるからね」

 「ただし、ギルドに納品したポーションは時折抜き打ち検査が実施されている。そこであまりにも悪質だと判断された場合は即刻取引中止になり、他の街にも通達されるしギルドカードにも記録が残るから気をつけろよ。その者が冒険者もしていた場合は問答無用で2ランク降格だからな」

 「まぁ、ギルド公認の職人でも1度や2度は引っかかることはザラにあるし、それが悪質でなければ報告だけで済むから安心してね」

 「はい」

 

 ギルド公認はギルド側からこうやって提案がある場合を除き、ギルド公認として取引を望む人が自分で申請して許可を待つのが一般的らしい。ほとんどはすぐ却下されるみたいだけどね……



 「それとすべてのポーションをギルドに納品しなくても一定量(決められた数)納品すればあとは自由に売買して構わないぞ。もちろんギルド公認ポーションとしてな」


 その場合もギルドカードに公認の印があるのを見せるだけで良いみたい。


 「へぇ……是非お願いしたいです」

 「お、よかったよかった……断られたらどうやって頷かせようかと思ってたんだよ」


 いや、サブマスさん。それ拒否権ないじゃないですか……


 「じゃあ、まずは金貨1枚とギルドカードを出してくれ」

 「はい」


 銀貨10枚とギルドカードをマルガスさんに手渡す。


 「はい、確かに」

 「次は偽造防止のために本人を示すマークを決めてくれ」

 「マークですか……」


 どうやら偽造防止のためにギルドで支給される魔道具があるらしく……本人の魔力を登録する事で本人しか使えないようになり、公認職人はそれを使って瓶や袋にマークをつけることが義務付けられているらしい。

 もちろんポーション職人だけでなく他のギルド公認も同様で瓶職人なんかはポーション職人の邪魔にならないよう瓶の底にマークが入っているらしい……ちなみにドネルさんのマークはドネルさんの似顔絵だった……理由はサブマスのせいだとか。

 サブマスが嬉々として勧めている様子が目に浮かぶわ……どおりでドネルさんが作ってくれた漏斗にも似顔絵があったわけだね。はじめて見たとき今より少し若いドネルさんが漏斗にくっきり浮かんでてちょっと引いたんだけど……理由を聞いて納得。でも、似顔絵って営業妨害じゃないかな……


 「まぁ、初回の登録料ほとんどが魔道具の利用料と考えればいいんじゃねぇか。しかも、登録者の魔力でしか反応しないから魔道具の盗難の心配もないぞ」

 「そんなものがあるんですね」


 ギルドでのみ違反時や死亡時などに登録者をリセットできる機能を持つ魔道具が置いてあるらしい。


 「あとは、瓶も公認なら格安で提供してるぞ」

 「へー」


 その瓶はほぼ再利用品らしいけど、しっかり消毒はしてあるから問題ないみたい……これも街の子どもが一生懸命拾ってきたやつらしいからこういうところで地味に活躍してるんだって。


 「でね、マークだけど……僕のオススメは似顔絵だよー……ほら描いてあげるからこっち向いて」 

 「いえ、それはちょっと……やめておきますね」

 「えー、面白くないなぁ」

 「サブマス、マークぐらいエナに好きに選ばしてやってくれよ」

 

 おお、マルガスさんに後光が差して見える……あ、違った。ただのランプか。

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