第19話 女神見習い、コツコツ採取に励む(1)


 

 「エナお姉ちゃん、いってらっしゃい」

 「うん、行ってきます」

 

 ここ数日ですっかり仲良くなったミーナちゃん……なんか癒されるんだよね。

 こうやって毎日送り出されると頑張ろうって思う。

 

 でも、ミーナちゃんに過度な接触は厳禁なようで……特に男の人はあまり声をかけたり頭を撫でたりすると厨房にいる親父さんが飛んできて睨みをきかせている。

 目に余るほどひどかったり親父さんを怒らせると出禁になるらしい……

 女の人の場合はミーナちゃんの仕事の邪魔をせず、ミーナちゃんが嫌がらない限りはある程度平気みたい。

 もちろん、無理強いして出禁になった人もいるので注意は必要なようだけど。



 「居心地いいし、もうしばらくこの宿でお世話になろうかな……その為にはお金稼がないと」

 



◇ ◇ ◇




 依頼を10回ほど達成したころ、冒険者のランクがFに上がりました。わーい。

 まあ……Gランクは見習いみたいなもので、余程のことがなければすぐにFランクに上がれるらしいんだけどね。


 そうそう、常設依頼についてだけど……

 一応すべてのランクの人が常設依頼を受けることができて、依頼書に書かれているランクは推奨なんだって。

 ちなみに自分のランクより推奨ランクが高いものは通常依頼と同じで2つ上までしか受けられない。常設依頼であってもそこは同じ。

 ただ、推奨ランクが低い依頼でも上位ランカーが依頼が受けられるという違いがあるみたい。

 でも、高ランクなのにあまりにも推奨ランクが低い常設依頼ばかり受け続けているとギルドでの評価が下がる場合もあるんだって。

 だから、高ランクの冒険者は他の薬草のついでに買い取りへ持ち込むことはあってもわざわざそれだけを取りに行く人は少ないらしい。


 例外は薬草が足りず買い取り価格が上がった場合に高ランクの冒険者でも依頼を受けることがあるとか。 

 依頼を受ける主な理由はお金が足りない冒険者か、薬草不足を心配し、新人には危険で踏み込めない場所に生えた薬草を取りに行く冒険者など。


 まあ、上位ランカーともなれば薬草採取をしなくても生活に困らないほど稼げるんだそう。

 ほとんどの冒険者は新人のため、自分たちで消費する分しか採取しない。という暗黙のルールがあるらしい。


 あと、常設依頼は別に受付で受注しなくてもいいんだけど、その場合買取価格に若干の誤差が出るらしい。

 理由としては依頼書の方がギルドの手数料が安く、買取の方が手数料が若干高いらしい……よくわからないけど、依頼者に寄り添おうとした結果こうなったみたい。


 だから、常設依頼を受注しないまま、群生地を見つけて採取した場合、ギルドで買取カウンターにすぐ出さずに常設依頼を受付で受けてから買取に持っていくとほんの少しだけど買取価格が上がるらしい。

 まぁ、いちいち受付で常設依頼を受注するのを面倒がる冒険者も多いらしいけど……


 日頃から常設依頼はチェックしよう!

 依頼を受けるという少しの手間がかかってもわずかな手数料の差でチリも積もれば山になるからね。



◇ ◇ ◇



 受付に並んでギルドカードを提示する。


 「おはようございます。エナさん」

 「カーラさん、おはようございます」


 ギルドでカーラさんが受付に当たる確率、結構高いよね……昨日はムキムキスキンヘッドさんことリグルドさんが昇格手続きしてくれたけどさ。


 「いつも通り、薬草採取でよろしいでしょうか?」

 「はい、常設依頼の薬草採取で」


-----


 【薬草の採取 ランクF 体力草 10本につき銅貨5枚 最低20本~ 】

 【薬草の採取 ランクF 魔力草 10本につき銅貨7枚 最低20本~ 】


-----



 「そういえばエナさんFランクになられたんですね。おめでとうございます! そろそろ慣れましたか?」

 「ありがとうございます。そうですね……まだまだ薬草採取しか受けてないですけど、それに関してはだいぶ慣れましたね」

 「そうですか、何か気になる事とか質問はありませんか?」

 「うーん……そうだ、草原に冒険者が瓶をポイ捨てしていくのって何か理由があるんでしょうか?」


 それもかなり目立つ場所に。そしてそれをやせ細った子供が拾っていくんだよね。 なんか訳があるのかなーって……


 「ああ、それはですね……ギルドでは使用済みで割れたりヒビの入っていない空瓶を5本まとめて持ちこむと銅貨1枚。割れたりヒビの入っているものは1キロ、銅貨1枚で買い取っているんです」

 「へぇ……」

 「そしてこれは一応非公認なんですけど……貧民街の子供などは魔物に遭遇する危険を冒してでも瓶を探し、お金に換えて生活している子も少なくないんです。特に冒険者ギルドに登録できるのが後見人がいれば10歳、後見人がいない場合は13歳からなので、瓶を拾いに街の外へ行く小さな子も多いんです。その事情を知る冒険者の中には敢えて見つけやすく危険の少ないところにポーションの空瓶を置いていく人もいるんですよね」


 それで比較的魔物が少なくて安全な草原にポイ捨てするのか……


 「そんな訳があったんですね……」

 「街中で子供たちに直接渡そうとしてもほとんどの子がプライドなのか受け取ってくれないんです……ですので草原に置いておくんです。あ、もちろんご自身で使用した瓶をギルドに持ってきていただいても買い取りしていますのでご安心くださいね」


 中堅以上の冒険者が草原に落ちていた瓶を持って帰り、ギルドで売ったことが表沙汰になると冒険者の中ではあまりいい顔されないらしい。ただし、冒険者になりたての子供や初心者は別なようだ。

 新人冒険者もそのうちに仲間内での暗黙のルールを知り拾わなくなるんだとか……

 受付もそういうことは聞かれたらもめごとにならないよう混んでいてもきちんと教えてくれるみたい。

 それを知る頃には実力がついて瓶を拾わなくても生活できるようになっている者がほとんどで、その後は瓶を目立つところに置く者もいるんだって……へー。


 買い取った瓶はその後、消毒などを施した後ポーション職人に安く提供される。

 割れていたり使用するには微妙なものはもう1度溶かして再利用している。

 ただし前者より価格は高くなる。新品の瓶と比べてもあまり変わらないらしい。

 へー、勉強になります。


 「ありがとうございました。では、行ってきます」

 「はい、お気をつけて」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る