第10話 女神見習い、初めての買い物(1)


 こうして、女神見習いでありながら一般人として生きていくことを決めました。


 まず考えたのは、この街からの移動。

 この街ではあまりにも目立ち過ぎる……と思う。

 万が一、このままずっとこの世界にいることになったら……何年も女神が降臨したまま滞在し続けているのはさすがにおかしいだろうし、この街では顔が知られているので一般人として生活できない。

 

 違う世界に飛ばせるくらいなんだから多少街を移ったとしても問題ないはず。


 「最初に好きにしていいって言ってたし……ダメなら【交信】してくるでしょ」


 考えてから行動に移すまでの時間はそうかからなかった。



 街を出て一般人になると決めたはいいものの、いまいちこの国の地形も理解できていないのでここは神様や教会に来る人達を頼ることにした。


 なるべく世間話を装いながら地道に聞き込みを続けること数日……


 選択肢は2つ。

 1つ目は道中が比較的安全だけど距離があり5日ほどかかる街。

 2つ目は道中が多少危険だが距離も近く3日ほどで到着できる街。


 2つ目の候補の街は道中に盗賊の出る危険性があり、よほど腕に自信のある者以外は護衛を雇って移動するか、その道を大きく迂回するという。しかもその迂回ルートも道がかなり険しいらしい……


 必然的に選択肢は1つになった。

 距離はあるが比較的安全なランヴィという街を目指すことにする。途中いくつかの宿があって、そこからの乗り合い馬車もあるらしいのでいい選択だと思う。


 この世界では太陽が北西から昇り、南東に沈むのでとりあえず朝日の昇る方角に続く道を歩いて向かえばいいらしい。わかりやすい道で良かったよ。


 ちなみに王都やその周辺の街では門で身分証を提示しなければほとんどの場合入れないというので早々に選択肢から外れた……まあ、人数が桁違いだろうしある程度仕方ないよね。



 幸い、毎日魔法の練習をしていたおかげで女神の聖域のレベルが2にあがり、ストレージが使えるようになった。


 「ストレージってマジックバッグとどう違うのかな?」


 ワクワク……ワクワク……


 「ストレージ」


 目の前にステータスプレートやマジックバッグとよく似た画面が表示された。


 画面の右上には〔0/100〕となっている。


 そばにあった本をつかみ念じるーー

 本は消え、ストレージ画面の右上に〔1/100〕と表示され、一覧の1番上に〈本1冊〉となった。


 「おお、すごいな。重さとか関係なくマジックバックの容量多い版かな?」


 本を一度出してから、試しに本を数冊袋に入れて再度念じる。


 画面は〔1/100〕

 一覧には〈巾着袋(大):本3冊〉


 今度は袋に本と布を入れてみた……また本かと思うでしょ?

 でもね教会の部屋に複数個あるのは本だけなんですよ……


 画面は〔1/100〕

 一覧には〈巾着袋(大):本1冊、布〉


 「おっ、これはいけるんだ」


 詳しく調べると、袋に入れずそのままで入れると同じ種類のものが自動的に1枠の最大容量まで入れられるみたい。

 袋に入れた場合、それがひとつとして認識され同じ枠に入れることができる。どの程度の大きさまでいいのかは不明。

 ここがマジックバッグと違うところかな……


 「つまり、袋が大量に必要ってことだね」


 画面をスクロールすることもできるし、念じれば自動的に1番上に表示されるようで下までスクロールして探す必要がない。何を入れたか忘れたらスクロールしなきゃいけないけど……


 「必要に応じて使い分ければいいか……」


 例えば、水の場合ストレージの枠を選んでそこにひたすら水を注ぎ続けたら(これ人に見られたらやばかったよね)枠内にカウントが表示された。

 水を注ぐとともにどんどんカウントが増えていきカウントが99になった時点で水が溢れ出た。何もない空間から。

 これ、最初は魔法の練習だと思って自分で水出してたんだけど、早々にギブアップして甕の水に切り替えた。これも何度か水をもらいに行きましたよ、ええ。

 ほら、旅に水は必需品だし時間経過もしないみたいだし……準備の一環だと思えば恥ずかしくない。嘘、結構恥ずかしい……


 他のもので試してない(というか試せるほど同じものがなかった)けどひとつの枠の最大は99らしい。

 このポイントさえ押さえておけば、かなりの量が収納できそう。


 「こっちメインに使っていこうかな……ただこれも出し入れに気をつけなくちゃ。バッグは普通に出し入れする分、バレにくいだろうけどこれは念じると手から消えるからなぁ」


 とりあえず人前ではショルダーから出しているように見せよう……ショルダーより大きいものはどうしよう。


 「その時に考えよう、うん」

 

 夕食までの間レベルアップのためにひたすらストレージを使ってみたり他もレベルアップしないかなと魔法の練習をした……レベルアップしなかったけど。


 「どうも、特殊スキルはレベルアップが早いみたい。女神補正のおかげかな?」



◇ ◇ ◇



 出発予定の前日ーー


 あの一件の後から私の仕事がだいぶ減ったこともあり午後には教会の仕事が終わった。

 何とも言えない気分だけど足早に部屋に引っ込み、感謝ポイントの交換を済ませることにしよう。

 簡易トイレは既に手に入れているので他のものを交換したい。


 「簡易シャワーも気になるところだけどポイントも節約しなくちゃいけないし……でもお得っぽいよなぁ」


 女神をやめて生活するということは今まで以上に感謝されることも少なくなり、そうそうポイントは貯まらなくなるから慎重に考えないと。


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 感謝ポイント〈3641ポイント〉累計〈4341ポイント〉


 [ポイント交換一覧]

 ・銀貨一枚 100ポイント

 ・金貨一枚 1000ポイント

 ・女神の服 一式(ワンピース、髪飾り、サンダル、外套、下着) 50ポイント

 ・市民の服 一式(シャツ、ひざ丈スカート、靴、外套、下着) 20ポイント

 ・冒険者の服 一式(シャツ、ベスト、パンツ、ブーツ、外套、下着) 30ポイント

 ・下着セット 2日分 15ポイント

 ・ハイポーション 初級 5ポイント

 ・マナポーション 初級 5ポイント 

 ・ハイポーション材料 初級 10セット(体力草、ファル草、ラミールの花、きれいな水) 30ポイント 

 ・マナポーション材料 初級 10セット(魔力草、レグラの花、デュラムの木の実、きれいな水) 30ポイント 

 ・調合セット(鍋/大小、匙、器/大小、瓶20、小袋20、ナイフ、レシピ) 50ポイント

 ・簡易トイレ 700ポイント

 ・簡易シャワー 1000ポイント

 ・携行食 3日分 30ポイント

 ・カバン (大)30ポイント (中)20ポイント (小)10ポイント 


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 「うーん、街でいろいろと買い物する予定だから銀貨は多めに出しておこうかな……」


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 【銀貨15枚 1500ポイント/市民の服 一式 20ポイント/冒険者の服 一式 30ポイント/下着セット 15ポイント/携行食 3日分×2 60ポイント/カバン 大 30ポイント】


感謝ポイントを交換しますか?

[はい] [いいえ]


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 これだけあればいいよね。


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 【銀貨15枚 1500ポイント/市民の服 一式 20ポイント/冒険者の服 一式 30ポイント/下着セット 15ポイント/携行食 3日分×2 60ポイント/カバン 大 30ポイント 累計1655ポイント交換しました】


 感謝ポイント〈1986ポイント〉累計〈4341ポイント〉


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 小1時間ほど悩んだ結果、必要そうなものを交換した。簡易シャワーはとりあえず保留。


 お金は多くて困ることはないだろうけど、道中に万が一、盗賊にでもあったときに全部持っているのは危険な気がしたのでポイントを残しておくことにした。

 何かあっても交換できるのは自分だけだろうし、そのほうが安全なはず……


 「まあ……何かあったときに生きているかどうかはわかんないけど、そこは気の持ちようだよ、うん。うっかり落とさないとも限らないしね……」


 やはり交換したものは少し離れたところに突然現れた……うん、これも人前で使えないね。しかし嬉しい誤算が。

 それは交換したものがコンパクトにまとめられて(だいたい5分の1くらい)出てきたこと。

 服などは1度着てしまえば元に戻すことはできなかった。

 まあ、ストレージと背負い袋があるから多少かさばっても問題ないんだけど……


 道中、あまりに軽装ではおかしい気がするのでストレージを活用しつつ、背負い袋にも軽いものをつめることにしよう。

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