第十二札 とれーにんぐ!! =修行=
翌日。
敷地内に生い茂っていた雑草をある程度引っこ抜いて作った空間に俺と静流はいた。
面白そうって理由でサキもいるけど。
「では始めますが……期待しないでくださいね?」
「期待なんてしてないさ!!」
俺は目を輝かせて爽やかに歯を見せて微笑む。
「…気持ち悪ぅ…」
「うるさいよ!」
心底
「まず法術の発動には大きく分けて二種類あります」
普段ならば恐らく見る事は叶わないであろう、静流のピースサイン。
そのサインを受けて、俺も真顔でピース返しをしてあげる。
「ピースではありませんよ?」
「分かってるよ」
「そうですか…。まず一つ目は札に込められた法力を解放する事による方法、です」
そう言ってピッと人差し指だけを立てた。
ピースっぽくて恥ずかしかったのかな。
「そして二つ目は自身の法力で術を具現化させる方法です」
ピースはせずに後ろ手を組む静流。
「…ピースはしないんだな」
「館に戻ってもいいですか?」
「ごめんなさい。真面目に聞きます」
「あははっ、怒られてるぅー!」
笑顔だけど絶対心が笑っていない静流に俺は全力で頭を下げて謝る。
この館ってホント女性が強いと思う。
「まぁ、何となく分かったような分からないような…」
札による術と、手から出す術って違いでいいんだろうか。
「その辺りは恐らく法術師の手引書に書いてあるかとは思います」
あぁ、あれか。
なんだかんだで昨日は読めずに寝てしまったなぁ…。
「術の種類や詳細については私が説明するより手引書を読んだ方が分かりやすいかと思います」
「例えそうだとしてもやっぱり現職の人から聞いた方が面白い」
「そういうものでしょうか…?」
「そういうものだろ」
「うーん、じゃあ昨日静流さんが使った術は自身の法力で術を具現化させたって事?」
サキが昨日みた光景を思い出して話に入ってくる。
「はい。逆に
「なるほどぉ~!」
「なるほどぉー!」
サキの方が実際の法術を見ているだけあってか理解が速いのが若干
「利剣、真似しないでよ…」
「俺も理解したんだってば」
「では利剣さん、まずはこれを……」
そう言って静流は懐から一枚の札を手渡してくる。
「
俺は受け取った札をサキの額に貼り付けようと飛びかかる。
「きゃあああああ!!」
びっくりしたサキが慌てて身体を捻って俺の手に握られた札を回避する。
「歪曲札なので、効果はありませんよ…」
「そーなの?」
まぁ、何の札か分からずサキに当てようとしたけどな。
「利剣のばかっ!!もおぉぉー!ホントあり得ない!!」
俺の後ろでサキがパンチやキックを凄い勢いで叩き込んで来るが俺はそれを全て避ける。
……いや、実際全部命中しているんだけど霊体だからすり抜けているだけです。
「身体にある法力をその札に集中させて、この竹刀に貼って見て下さい」
側に置いてあった竹刀を渡された俺は札を見る。
「法力を集中させるのって、どうやったらいいんだ…?」
「そうですね……。ご自身の体内に…胸でもお腹でもいいのですがエネルギーと言ったらいいのでしょうか?気を集めるような感覚です」
静流さん、一気に説明が下手になりましたが。
「ぬぬぬぬ……」
俺は目を閉じて身体の中に流れる気を感じ取ろうとする。
体内で赤く燃えるような炎。
荒れ狂い、激しく流れる流れ。
それらがぶつかり合って身体の一点に熱を帯びたように感じた。
「せいっ!!!」
目を開いた俺はその熱を右手に宿し、竹刀に札を貼りつけた。
パァン!!と小気味のいい音がしたと同時に右手に軽い痛みが生まれる。
ジンジンと右手が熱くなる。
「どうだ?」
「いえ、失敗です」
冷静に静流が結果を伝えてくれた。
「え?でも、右手が熱いけど…」
「それは恐らく勢いよく竹刀を叩いた痛みかと…」
物理的な痛みだった。
「えぇー、おかしいなぁー…」
首を傾げながら札の貼られた竹刀を見るが、紫苑の時みたいな刀身がぼやける感じは一切なかった。
「ぬぅぅぅん……!!」
竹刀に貼った札はそのままに、右手で札を押さえつけて必死に力を送ろうとする。
だが札にも竹刀にも何の変化も起きなかった。
「静流先生、お手本を……」
俺は一度諦めて静流に竹刀を差し出した。
「はい」
受け取った時に恐らく静流が法力を込めたのだろう。
竹刀の輪郭が一瞬ブレたかと思うと、前に見たぼやけて透過した状態になった。
「先生ずるいっす」
「そ、そう言われましても……」
俺の
「こればかりは毎日の訓練の積み重ねのようなものですから…」
「そっかぁー。やっぱ一日や二日で出来ないかぁ~~…」
「
「だといいけど…。うーん、じゃあ二つ目の自身の法力で術を具現化させるってのも同じ感じ?」
俺はそっちの方法を見たことがないから、気にはなっているんだよなぁ。
「そうですね。札に流す法力を自身の中に流すような感覚ですから」
「
「うーん……構いませんがあまり参考にはならないかと思いますよ?」
「構わない。俺が見てみたいって言うただの好奇心だから」
「そうですか…では、これを」
そう言って静流が竹刀を差し出してくる。
「うん?竹刀?」
疑問に思いながらも俺は竹刀を受け取った。
「では……」
静流が側に置いてあった竹刀を取り、スッ…と流れるような動作で構えを取る。
あれ……何?試合形式?
「え?手合わせするの?」
「私も、好奇心からです」
「何の!?」
「五神の恩恵を受けている利剣さんがどんな方なのか…ですね」
俺を射抜くような視線をして、静流がわずかに微笑んだ。
ピリッ…と背筋に冷たいものが走る。
これはヤバい、と俺のあるのか分からない第六感が告げている。
「サキさん、合図をお願いできますか?」
俺から視線は
「いいよー。そんじゃー、はっじめーー!」
今の俺の心境とは真逆の、緊迫感の感じられないサキの合図。
それと同時に静流の手が
(面が来る!!)
俺は瞬時に竹刀を横にして上段に構えた。
パァン!!
「っつぅ…!」
直後、一気に間合いを詰めてきた静流の早く重い一撃が竹刀を打つ。
ビリッ…と腕に衝撃が走り危うく竹刀を離しそうになるがぐっと堪える。
フッ…っと腕にかかっていた重みが消えた。
「ハァァッ!!」
パンッ!!
弧を描くように竹刀を操り、俺の左脇腹を
ここいらで反撃を、と面を打とうと思った時には既に静流が後方に跳んでいた。
「利剣さんは、剣道のご経験がおありでしたか」
「あぁ、いやー…まぁ、な」
静流の問いかけに対して俺は曖昧な返事を返す。
というのは剣道をした事なんて中学校の時の授業以来だったからだ。
これも並行世界に来た影響なんだろうか?
女神様が言ってた。
並行世界に来た影響で精神や肉体に何らかの変化が生じた可能性もありますって。
チートな能力はくれなかったけど。別に恨んでないし?
その変化なんだろうか?
なんというか、こっちの世界に来てから俺の動体視力は飛躍的に向上していた。
いつかもし誰かに「どんな風に?」と聞かれた時に上手く説明してやろうと思ってずっと例えを考えていたんだけどアニメってさ、何百、何千枚のカットをパラパラ漫画みたいに動かす事で流れるようなアクションになる訳じゃん?
元いた世界だと右端から左端まで車が動くアニメが3カットだったのがこっちの世界に来てから10カットくらいになった感じ。
つまり人とか物の動きが細かく分かるようになりました。
うん、まだまだ説明下手だわ。
結論から言うと静流の動きにも何とかついていけるって事。
「正直、私の攻撃を二回とも防がれるとは思っていませんでした…」
「そうか。静流の手合わせが出来て俺も嬉しいな」
カッコつけて言ってみたものの、全く反撃出来てないけどな。
「では、お約束通り……」
静流が竹刀から左手を離し、指で文字を書くように動かした。
「風よ、我に
ぶわっ…っと一陣の風が吹いた。
「行きます」
静流が跳躍する。
いや、正確には跳躍したように見えた。
上か。
俺は上空を見上げる。
だがそこに彼女はいない。
「どこだ…!」
「ここです」
不意に真後ろから聞こえる澄んだ声。
「なっ……!!!!」
恐怖からドクンと心臓が早鐘を打ち慌てて振り返る。
トン……
俺の額に軽く竹刀が振り下ろされた。
「終わりです」
そう言って静流がニコッと微笑んだ。
それは試合開始前に感じた冷たさは一切ない、純粋な頬笑みだった。
俺は薙ごうとした竹刀を握ったまま腕を静かに下ろし、
「参ったなぁ…」
と言葉を漏らした。
いやもう、ホントに色んな意味で参った。
――――――
―――某月某日―――
「ご報告いたします」
「何だ?」
「
「な……何!?」
「如何されますか」
「その住人とは何者だ!何処の所属だ!?一体いつからだ…!」
「それについてはまだ調べがついておらず…」
「調べ上げろ!それが貴様らの仕事だろうが」
「申し訳ありません」
「調べがつき次第すぐに報告しろ。それから指示を出す!」
「承知致しました……。それでは失礼致します」
「……今更になって……クッ……!!」
あとがき。
ここまでお読み頂き誠にありがとうございます!
宣伝、とかではないのですがカクヨムシステム上挿絵が入れられない仕様なので…。
「小説家になろう」というサイトにも同じ作品を掲載させていただいており、私の稚拙な文章をカバーするかの如く挿絵を入れております。
もしイメージがつきにくい、どんな人なの?とご興味がありましたらそちらの方をご覧頂ければと思います。
今後も挿絵を入れていければなぁと思っておりますので、ご参考までに。
それでは失礼致します。
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