1章・4話「修行・武技」
「次の修行とは?まだ何か足りぬものがあるのですか?」
「これからの世、まだ風が知らぬ世で一番必要になるであろう武技じゃ」
「武技・・・闘う技ですか?」
「そうじゃ、この森この地は、わらわがいるので、そうそう他の妖は入って来ぬが、世には多くの妖がいる。狂暴なものや好戦的なもの、中には悪霊がとり憑いたものなどもいる。闘いたくなくとも闘わなければならぬ時が必ず来る。強いものが生き、弱きものが死ぬ、それが自然、この世じゃ。生きるそのためには
風が持つ妖力を高め、武技を高めなければならぬ」
「母様もこれまでに沢山それらと闘ってきたのですか?」
「もちろんじゃ。昔は覚えてられぬほどにのぉ、そのうち妖の中で名が知れわたり、知れわたるほどに強者がわざわざ、わらわと闘うためにこの森に来たものよ」
母様が凄いのは分かるが、他の妖が全く想像が出来ない風であった。
「・・・風にも闘いができるでしょうか?」
「わらわの血を継ぐものが何を言う。それに、わらわが鍛えてやると
言っておるのじゃ」
「はい!」
「まずは、外に出よ。わらわの真の姿を見せてやろうぞ」
そうして、一緒に小屋の外に出た。
「少し離れておれ」
そう葛の葉は言うと、庭の中央に立ち、微笑んだ。
すると「ドンッ!」と大きな音と共に靄があたり一面に広がった。
「・・・!」
ゆっくりと靄が消えていき、その姿を現せた。
「凄い・・・これが母様の真のお姿・・・」
その大きさは小屋よりも大きく、そして体の長さと同じほどの九つの尻尾、
全身が白く輝き、まさに神獣という姿であった。
「この姿になるのはいつぶりであろう・・・
風よ、軽くこの姿での技と術を見せてやろうぞ」
そう言うと、九尾を伸ばし、広げ、周りの大木をまるで鎌で草を刈る如く一瞬に切り倒した。
そして、切り倒した大木を九尾で器用に持上げ、軽々と空に飛ばし上げ、
空に浮かぶ大木に向かって口から炎を吹き浴びせ燃やし尽くし、
その灰を九尾で扇ぎ突風を起こして吹き飛ばした。
「まぁ、軽くこんなものじゃ」
と、言うとスッと元の人の姿に戻った。
風はあまりの迫力に唖然とした。
「凄い・・・」
「これしきの事、他にも色々出来るぞ、雷を落としたり、一面を凍てつかせたり色々とな。風の中にも妖力はある、風だけの力がな、修行をする間で
それを引き出してやろう」
「風にも・・・」
そもそも自分に妖力があるのかさえ分かってはいなかった。
「そうじゃ、わらわには感じとれる。わらわでさえ見抜けぬ独特の大きな妖力が風にはある・・・だが、まずは武技、体術を鍛えようぞ、その中で自然に妖力の引き出し方が分かるであろう」
「はい!」
そうして、風の新たな修行が始まった。
「よいか風、今からわらわが尾で風を襲う、風は当たらぬようにそれを避けるのじゃ、まずは一尾からまいるぞ!」
「待ってください、母様!風はこの人の姿ですか?」
「そうじゃ、変化も妖力のひとつ。妖力を使いながらではないと意味がない、まいるぞ!」
「はい!」
風は速さには自信があったので、一尾なら軽くかわせると思ったが、
繰り出される尾は伸縮自在、しなやかであって予測できない動き、
そして風よりも遥かに速かった。
避けきれず当たり、跳ばされては倒れ、その繰り返しであった。
「風よ集中せよ!目だけに頼るのではない、五感、全身を集中させよ」
風は繰り返すうちに、その意味を理解し、避ける事が何とか出来るようになった。
「見事じゃ。一尾とはいえ、わらわの攻めを五日で避け切るとは。
さすがわらわの子よ。しかし、その柔らかくしなやかな動き、どうやら我が身の中の妖力を感じ始めたようじゃの」
「はい、まだ何となくですが分かりつつあります」
「うむ、それをもっと引き出せてみよ、明日からは二尾でやるぞ」
「はい!」
そうして、修行は激しくなっていったが、風も留まる事なく成長していった。
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