第128話 女子会からの男子会。からの……

 ここは城塞都市ラーデ。そこにある一軒の食堂の中でダークエルフ女子が四人ぐでんぐでんに酔ってくだを巻いている。


「むふふー。すっかり飲んじゃったわねー。って、あれー? アリアちゃんはー?」

「なによー。さっき帰ったじゃない。エル、あんた忘れたのー?」


 そう、アリアはすでに食堂を出ている。というか逃げ出した。

 己の発言でタケオの股間が小さいという誤った情報を広めてしまい、いたたまれなくなったのだ。


「アリアちゃん、喜んでくれるかなー」

「そうねー。お酒もキノコも下着も、私達一生懸命選んだのよねー」


 彼女らはアリアが心配だった。友人としてサキュバスの体に変異してしまったアリアを気遣い、ラーデまでやって来たのだ。

 だが彼女らは自分達が失態を犯してしまったことをまだ知らない。


 リリンが作った酒。これはタケオ発案の梅酒をベースにしたものだが、口当たりがまろやかでクイクイいけてしまう代物だ。

 酒の弱い者でも瓶一本いけてしまうだろう。

 それに試作品ということもあり、あまり希釈していなかった。

 タケオの梅酒は酒が弱い者に飲ませればなぜか精力アップと発情という謎効果が付与される。

 危険だ…… このままではアリアが……


 さらにエルが採ってきたキノコ、ムルタダケだが、これは滋養強壮効果がつくキノコだ。

 成人男性が摂取すれば問題無いが、若い者には効果が強すぎて鼻血が出てしまうという代物だ。

 タケオなら食べても問題無いと思ったのだろう。

 だが採取した日が問題だった。

 エルがキノコを採ったのはこの世界に輝く三つの月が満月になる日だったのだ。

 その日は宙を漂うマナが最も濃くなる日。

 ムルタダケはマナをたっぷり吸いこんでいたので効果は数倍に向上してしまっている。

 危険だ…… このままではタケオが……


 さらにルージュはアリアに楽しい夜の生活を楽しんでもらおうと余計な気を使い、黒の勝負下着をプレゼントした。


 さぁこの危機を二人はどう脱するのか!?



◇◆◇



 私ことアリアはラーデで借りている家に戻る。

 今日は楽しかったけど、すごく恥ずかしかった。

 それに私タケオさんのことを……

 

 もしも変な噂が広まったら私のせいだ。

 謝らなくちゃ……


 そう考えていると家に着いた。

 タケオさんいるかな? 

 ドアを開けて家に入る。


 ギィー…… バタンッ


「ただいま戻り……」


 タケオさんはいなかった。

 おかしいな、ソーンさんと話すって言ってたけど。


 カサッ


 ん? 手元から包みが落ちる。

 これはお土産として渡された下着だ。

 ルージュさんが作ってくれた絹の下着……


 せっかくだしちょっと穿いてみようかな……?


 私は二階に向かい自分の寝室へ。

 服を脱いで、下着を代える。

 鏡の前に立つと……


 い、色が変わっただけでこんなにセクシーに見えるんだね……

 デザインはあまり変わらないけど、銀色に変わってしまった髪に黒い下着がよく映える。

 背中を向けて振り向くと、やっぱりお尻が丸見え。

 んふふ、今の私って悪女っぽいかな?

 せっかくだしこのまま下着を穿いたままにしようかな。


 その上に楽な部屋着を着て下に降りる。

 まだタケオさんは帰ってこないな……


 そうだ! 今の内にごはんを作ろう!

 せっかく美味しいキノコとお酒をもらったしね。

 タケオさんとルネと私で楽しく晩ごはんを食べようと思いついた。

 だって明日から私達はバクーに向かうんだ。

 そうしたらタケオさんとゆっくりする時間が無くなってしまうはず。

 今の内にいっぱい楽しんでおかなくちゃ!


 私は勇んで台所に向かう!

 箱からキノコを取り出しまな板に乗せる!


 ドンッ


 本当に大きいキノコだね。タケオさんのと同じくら…… 

 って私何考えてるの!?

 変な妄想をしないでごはんを作ろう!

 タケオさんの話では日本ではキノコを使った炊き込みご飯っていうのが美味しいと聞いたことがある。

 よし! ムルタダケの炊き込みご飯だ!

 それだと余りそうなので一本はそのまま焼くことに。


 キノコを切っている間に尻尾を使ってお米を研ぐ。

 自分で言うのもなんだけど、すごく便利だね。腕が三本になったみたい。

 でもこの尻尾はタケオさんが近くにいると、たまに言うことを聞かなくなる。

 すぐに抱きついちゃうんだよね。

 私は尻尾までタケオさんが好きということなんだろう。


 大好きなタケオさんのことを考えながら炊き込みご飯の準備を終える。

 それじゃ次はキノコを焼いて……


 チリチリッ……


 香ばしい香り…… 本当に美味しそう。

 お腹が空いてきちゃった。

 早くタケオさん帰ってこないかな。


 と思っていると。


 ガチャッ


「ただいまー。って、この匂いは……」


 タケオさんが帰ってきた! 

 私は玄関まで迎えにいく。

 あれ? タケオさん一人だ。


「お帰りなさい、ルネはどうしたんですか?」

「ルネか。ベルンドが回復してな。嬉しかったのか、今日は竜人のところに泊まるってさ。たまにはいいだろ」


 そうなんだ。よかった…… ベルンドさん良くなったんだ。

 あれ? ということは、今日は二人っきりだ!

 ルネには悪いけどちょっと嬉しい。

 タケオさんを一人占め出来るんだもん!


「それにしてもいい匂いだね。何作ってるの?」

「んふふ、キノコの炊き込みご飯です! 焼きキノコもありますからね。もうすぐ出来ますから待っててください!」


「ありがとな。いつもすまない」


 と言ってタケオさんは私のおでこにキスをしてくれた。

 えー、口がよかったなぁ…… でも嬉しい。

 って、尻尾がまたタケオさんの首に巻き付こうとしてた。

 危なかった…… 何とか抑えることが出来たけど、油断出来ないね。


 少しするとごはんが炊き上がる。

 お味噌汁も作ってあるんだ。

 炊き込みご飯に焼きキノコ、そしてお味噌汁と梅干だ。

 

「おぉ、純和風だな。美味そうだ」

「ふふ、それとこれも……」


 私はプレゼントされたお酒を汲み、テーブルに並べる。

 これで完成! 

 自分で作ったごはんだけど、すごく美味しそう……

 みんなありがとね。


「それじゃ食べようか。いただきます!」

「いただきまーす」


 私達は二人で楽しい夕食を始める。

 まずはごはんから。


 パクッ シャキシャキッ


 美味しい…… 香りといい歯ざわりといい最高だ……

 エルさん、貴重なキノコをありがとね。


「美味い! お代わりしてもいいかな?」

「ふふ、よそってきますね」


 タケオさんはあっという間にお代わりをする。

 ごはんを持ってくるとタケオさんは焼きキノコを食べてた。


「すごいな…… まるでマツタケだよ」

「マツタケ? 日本のキノコですか?」


 タケオさんが言うにはマツタケはキノコの王様なんだって。

 味も匂いも近いらしい。

 日本にもそんなキノコがあるんだね。

 いつか行ってみたいな……


 美味しい夕食を終え、二人でソファーに座ってお酒を楽しむ。

 

 ゴクッ シュワワッ


 このお酒も美味しい……

 さすがはリリンさんだ。

 みんなで梅酒を作ったのが懐かしいね。


 タケオさんとお酒を飲みながらお互いの話をする。

 すごく楽しい時間。


「でさ、みんなで風呂に行ったんだよ。そしたらフゥが風呂を出るときに体をブルブルさせてさ、またびしょ濡れになったよ」

「ふふ、フゥさん、犬みたいですね。虎なのに…… あ、あれ……?」


 ドクンッ ドクドクッ ドクドクッ 


 な、何だか胸が高まる。

 体が熱くなってくる。

 お腹に熱が溜まっていく……


「アリア、どうした?」

「な、何でもありませ……!?」


 キラーンッ


 うそ!? いつもかっこいいと思ってるけど、今日のタケオさんはすごく輝いて見える!

 わ、私どうしちゃったのかな?

 ドキドキして顔が見れない……

 その間にも体が熱くなっていく……


「酔ったのか? う…… おかしいな、俺も何だか…… はぁはぁ……」


 な、何だかタケオさんの様子がおかしい。

 息を荒げながら、苦しそうに前かがみになってる。


「く、くそ! 回復を…… って、出来ないだと!?」


 タケオさんは気功を発動しようとしたみたいだけど、何故か出来なかった。

 私も水魔法を使おうとしてるんだけど、さっきから頭がクラクラして魔法が使えない……


 私の体はどんどん熱くなっていく……

 もう駄目! 

 我慢出来ない!


 ファサッ


 私は部屋着を脱ぎ捨てる!

 それを見たタケオさんは……


「はぁはぁ……!? アリア!?」


 え? タ、タケオさんが血走った眼で私を見ている?

 そうだ。私、黒い下着を着てるんだった……


 ガバァッ


 タケオさんに押し倒されてしまった。


「アリア!」

「んー!?」


 キスをされた。

 私もタケオさんをきつく抱きしめる。

 尻尾も使って強く体を密着させる。


 そして私達は……


 

◇◆◇



 うぅ…… 一体何が起こった?


 目が覚めるとアリアと俺はベッドで横になっている。

 記憶がおぼろげだが夕食を食べた後、急に興奮してしまい、ものすごくハッスルしてしまったことだけは覚えている。

 もう朝じゃねえか。何回したんだろうか?

 その記憶すら無い……


「あ…… あぁ……」


 アリアは俺の横でうめき声を出しながら痙攣している!? って、やばい顔してる!?


「アリア! 大丈夫か!?」


 俺は回復の気をアリアに流す!


「うぅん…… あれ? タ、タケオさん?」


 よかった、気が付いたか……

 

「すまなかった…… よく覚えてないんだが、無理をさせてしまったみたいだな……」

「ううん…… ごめんなさい…… 私のせいなんです……」


 とアリアが謝ってくる。

 どういうことだろう?

 話を聞いてみると……


 アリアは女子会に参加し、快気祝いとして酒とキノコをもらったそうだ。

 そのキノコは滋養強壮効果があるそうだが、何故か俺の性欲を高める効果もあったみたいだ。 

 媚薬とか飲むとあんな感覚になるのかもしれないな。


 それにアリアはリリンにもらった酒のせいで発情してしまい、とどめはセクシーな黒い下着だ。

 俺達は夢中でお互いを求めあったと。


「そうだったのか…… アリアは悪くないよ。でもさ、やっぱり愛し合う時は自分の意思でするべきだな。これじゃ体がいくらあっても足りないよ……」

「そうですね…… 私もまだ腰が抜けちゃってて……」


 まったくあの三人娘め。いらんプレゼントを持って来よって。

 まぁ善意からだろう。強くは言えないな。


 ドンドンッ


 ん? ドアをノックする音がする。

 俺は急ぎ服を着てドアを開けると……


「タケ! 一体どうしたのだ!?」

「フゥ? どうしたって……? って、しまった!」


 すっかり忘れていた!

 今日はバクーに向かう日じゃねえか!


「すまん! 急いで準備する!」

「そ、それは大丈夫だ。まだ時間はある。だがその…… 近所から苦情が入ってるぞ。あの声が大きすぎて住民が寝られないと申し立ててきた。仲がいいのは素晴らしいことだが…… 少し自重してくれると助かる……」


 うわ…… 聞こえてたんだ……

 記憶は無いが俺達は夜通し叫び倒していたらしい。

 俺達の様子を見に来た獣人達がひそひそと何かを話している。


「あれが例のサキュバスキラーよ……」

「すげぇな…… だけど小さいんだろ? どんなテクニックを……」

「いや俺はすごくでかいって聞いたぞ?」

「異界の魔術かしら? 伸縮自在とか?」

「とにかく恐ろしい男だ……」

「そうね、近付くだけで妊娠しそうだわ……」


 なんか色んな噂が立ってる!?

 俺はそんなエロキャラじゃないぞ!

 むしろ硬派な男を目指していたのに……


 だが噂は噂を呼び、俺には不名誉な二つ名がつけられてしまう。


 巨悪。リトルデビル。ジャイアント。オーバーインキュバス。サキュバスキラー。如意棒。

 なんだそれ?


 バクーに向かう道中、俺の後ろを進軍する仲間に散々な呼び名で呼ばれることになった。

 やはりあの三人娘にはきついお仕置きが必要なようだ。

 

 だが人の噂は七十五日。

 ちょうどこれからバクー復興に向けマルカを出るのだ。しばらくすれば噂は消え去るだろう。っていうか消えてくれ。


 これでよかったんだ……

 俺は顔を真っ赤にしながらバクーを目指し歩き始めた。

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