第119話 バクー侵攻 其の一

「んふふ…… タケオさん、好き……」


 シュルルッ


 アリアは裸で俺に抱きつきながら、さらに長い尻尾を俺の首に巻き付けてくる。

 器用だな……

 なんか変な気分だ。

 右の頬はアリアがチュッチュしてきて、左はチロチロと蛇の尻尾が俺の頬を撫でるのだから。


「すっかり自分の体に慣れたみたいだね」

「はい…… でも本当に嫌じゃありませんか?」


 と心配そうな顔をする。

 姿が変わってもアリアはアリアさ。

 それよりも彼女は今後定期的に人族の精を取り込まないと生きてはいけないのだ。

 もちろんその役目は俺がするつもりだが。


「ごほん…… その、なんだ…… 今のアリアの体はほとんどサキュバスに変異している。今から抗変異薬を投与しても生態は変わらない。で、分かっているとは思うが……」

「はい、もちろんです。それは私からもお願いします。タケオさんじゃなきゃ嫌ですからね!」


 精を取り込むのはアリアも分かってくれているようだ。

 恋人なんだから問題はないみたいだな。


 トントンッ


 おや? ノックする音が…… 

 やばい! すっかり忘れてた!


「だ、誰ですか?」

「ソーンだ! 抗変異薬を作ってもらってたんだよ! ほら、アリア! 急いで服着て!」


 俺達は慌てて服を着る!

 久々の再会ですっかり盛り上がってしまった。


「タケオさん! 準備出来ました!」

「俺もだ! ど、どうぞ!」


 ギィー バタンッ


 ソーンは気まずそうに部屋に入ってくる。

 き、聞こえていただろうか?


「し、失礼します。変異した女性というのは恋人だったのですね…… ごほん…… タケ様、いけませんよ! なに病人に無理させてるんですか! お嬢さんもですよ! こういった時は無理はいけません! 病人は大人しく寝ているものです! 変異が進行したらどうするんですか!」

「「ごめんなさい……」」


 うわ、めっちゃ怒られた。

 これは言い返せないな。

 ソーンの言っていることは正しいのだから。


「まったく…… では抗変異薬の投与を開始します。お嬢さん、私はソーン。錬金術師ですが、医者でもあるのです。この薬は心臓付近に注射するのが効果的です。失礼ですが…… 服を脱いでいただけますか?」

「は、はい…… うぅ、恥ずかしいよぅ……」


 アリアは顔を赤くしながら胸を出す。

 急いで服を着たのに、また脱がされるのか。

 しかもノーブラだ。


「ごほん…… タケ様、あなたは見ている必要は無いんですよ」

「い、いや、その、一応さ、心配だし……」


「いいから出ていってください!」


 バタンッ


 うおっ!? 追い出されてしまったではないか。

 くそ、ソーンめ。今頃アリアのおっぱいを堪能しているに違いない。

 注射はしてもいいが、触るなよ。


『痛ー! 止めてー!』

『こら、我慢してください! もう少しですから!』


 突然中からアリアの悲鳴が聞こえる!

 どうする!? 様子を見に行くか!?

 とりあえず大声で叫んでみる!


「だ、大丈夫なのか!?」

『問題ありません! 邪魔だから入ってきては駄目ですよ!』

『タケオさーん! 助けてー! って、いだぁー!? 死ぬー!』


 そんなにか!? これはただ事ではないぞ!

 だが次第とアリアの悲鳴が聞こえなくなり……


 ガチャッ


 ドアが開きソーンが出てきた。

 なぜか鼻血を出し右頬が腫れている。

 殴られたのだろうか?


「いたた…… 元気なお嬢さんですね…… タケ様、終わりました。これで変異は止まるでしょう。ですが一週間は安静にしなければなりません。今無理をすると再び変異が始まる可能性がありますから。

 それとアリアさんはサキュバスということですが、変異が止まったことで以前より精を取り込まなくても生きていけます。性交渉は月に一回程度で問題無いでしょう」


 ソーンの言葉を聞いて一気に安心出来た。

 よかった……

 本当によかった!

 全て解決したわけではないが、これでアリアは死の危険から脱したわけだ。


 うわ…… 今になって足が震えてるよ……


「ではタケ様、私は自分の治療をしなくてはいけないので…… 一階にいます。何かありましたらお気軽にどうぞ……」

「ソーン、ありがとう…… あんた俺の命の恩人だよ……」


「ははは、何を仰います。これが私に出来る罪滅ぼしですから。それに私は約束しました。これからは私の技術を使って人々に尽くすと。

 タケ様…… これからもよろしくお願いします」


 ソーンは一礼して去っていく。

 心強い味方を手に入れたな。

 彼の錬金術師としての技術をどう活かしていくか考えなくちゃな。

 それにまだバクーには助けなくてはならないドワーフが大勢いる。

 

 そうだ、今フゥはどうしているだろうか?

 作戦では俺を逃がすため、国境付近で奇襲をかけてもらう手はずだった。

 俺がラーデに戻ってから半日近く経っている。

 もう撤退したのだろうか?


 ルネ、聞こえるか?


(はいなのー。どうしたの?)


 フゥに連絡を取って欲しい。

 今どこにいるか、そして状況を聞いておいてくれ。

 

(分かったのー)


 フゥと連絡を取るには少し時間がかかるだろう。

 俺はアリアの様子を見に行くことにした。


 ガチャッ


 再びアリアの部屋に入る。

 すると……


「うぅ…… 痛いよぅ……」

 

 アリアが苦しんでいる!

 どうした!? まさか副作用でも出たか!?


「あ、タケオさん! ふえーん、注射が痛かったよー。恐かったよー」

「そっちかい」


 アリアはめそめそ泣きながら抱きついてくる。

 しょうがないな。

 無理はさせられないので、抱っこして膝に乗せといた。


「んふふ、私頑張りましたよ。撫でてください」

「はいよ」


 チョンと出た角と髪を撫でる。

 ついでに分析してみよう。

 どれどれ……?



名前:アリア

年齢:19

種族:サキュバス(変異停止中)

HP:3983/4083 MP:5800 EP:3809 

STR:4509 INT:6096

能力:水魔法10

ギフト:鍵

ギフト:時間操作(制御不能)



 ステータスを見てほっとしたよ……

 状態異常が全て無くなっている。

 だが種族名がサキュバスになってしまった。

 それにEPの項目も残ったまま。

 

 ソーンは月に一度精を取り込めばいいと言った。

 それなら以前とあまり変わらない暮らしをしても大丈夫だろう。

 まぁ月一で済むはずはないだろうけどな。


「アリア、もう大丈夫だ。変異は止まったよ。もう安心していいからな。だが一週間は大人しくしてなくちゃ駄目らしい」

「えー、一週間もですか? つまんないです……」


 そんなこと言わないでくれ。

 もしここで無理をすると、再び変異が始まるかもしれないとソーンは言った。

 そうなっては元も子もない。


「我慢だ。一週間すれば元気に動けるようになるんだ。それまでゆっくりしてな」

「はい…… でも…… 夜は一緒に寝てくれませんか?」


 添い寝くらいならいいだろ。

 断る理由はないからな。


「いいよ。それぐらいなら……?」


(パパ! フゥから連絡があったの! あのね! 何か変なの! すごいのがいるの!)


 急にルネが経路パスを繋いできた。

 どうした? そんなに焦って。

 落ち着いてゆっくり話してくれ。

 

(あのね、フゥはまだバクーにいるの。悪い子は逃げちゃったんだけど、もっと悪い子が来たんだって。助けてって言ってるの)


 フゥが!? 救援要請か…… 


「タ、タケオさん? どうしたんですか?」


 とアリアは心配そうに俺を見つめる。

 くそ、せっかくアリアが助かったってのに、また戦場にトンボ帰りか。

 しょうがないよな。

 それにドワーフを助けるって約束したし……


「詳しい状況は分からない。だがバクーに脅威がいるらしい。アリア、すまない……」

「はい…… 行くんですね。大丈夫です。私、待ってますから。行ってください…… みんなを、バクーにいる人達を助けてください……」


 アリアは目に涙をためている。

 彼女の涙を指で拭い、キスをする。


「ん…… ふふ、帰ってきたら続きをお願いします……」

「もちろんだ。アリア、すぐ帰って来るからな」

 

 最後にきつく抱きしめ、俺は部屋を出る。

 

「はぁー…… よし! 行くか!」


 バシンッ


 両手で頬を叩く! 切り替えていこう!

 ルネ! バクーに向かう! 悪いが乗せてってくれるか!?


(はいなの! 任せてなの!)


 それと各部隊に指示を出す!

 ラーデにいる兵の半分は俺と一緒にバクーに向かう!

 残りはラーデの防衛に徹しろ! 空を飛ぶ魔物の襲撃に注意しろってな!

 俺達は先にフゥと合流するぞ!


 バクーには脅威が待っている。

 関係無い。倒してバクーを解放する。

 もうアリアの心配はいらない。

 戦いに集中出来るってことだ。


 リァン、今回はしてやられたよ。

 だが今度は俺の番だよな!

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