第89話 復興 其の六 梅製品

「ではマルカ復興事業部、ワームイ部門の会議を開催しようと思います!」

「わー」

「グルルルル」

「新しいお酒はどこなの!?」

「キュー」


 というわけで俺達は集会所に集まり、会議を開く。

 今回の参加者は俺、アリア、ルネ、ベルンド、そして助手としてダークエルフのイタズラ三人娘の中で一番酒好きなリリンに来てもらった。

 なんでも俺とアリアが飲んだ発泡ワインはリリンが作ったものらしい。

 甘口で万人向けする味だった。彼女ほどの適任者はおるまい。

 連れてきてよかった……


 俺はワームイの実こと梅をテーブルに乗せる。

 この実は大陸のあちこちに見られる植物ではあるが、その強い毒性で知られている。

 だがいい香りがするので、香料として利用されることはあるようだ。

 

 ワームイの木は肥沃な大地よりかは何故か痩せた土地で育つようだ。実際ノルの町にある公園にはワームイの森があるぐらいだし。


 俺はワームイの実を使ってマルカの名産を作るつもりだ。異世界の梅干し、梅ジュース、そして梅酒を作り復興に役立てる……というか、俺が食べたいというのが本当の理由だが。


 俺はワームイの実の他に用意した物をテーブルに置く。大量の塩、砂糖、そして日本酒だ。

 せっかくなので日本酒をベルンドとリリンに飲んでもらおう。適当ではあるが日本酒を作ることが出来るのだ。

 

 俺のギフト、時間操作を発動し、アルコール発酵する時間を短縮した。

 まぁ素人が作る酒なので、美味いかどうかは別だがね。


「これってお酒よね? この匂いは…… もしかしてお米?」

「グルルル、辛口だな。美味いぞ」


 おぉ、ベルンドは気に入ってくれたか。トカゲ野郎のくせに、いい舌を持っているじゃないか。

 リリンは少し難しい顔をしながら日本酒を飲んでいる。

 口に合わなかったかな?


「せ、先生、私も飲んでみたいです!」

「アリアも? ちょっとくせがあるから少しだけな」


 コップにちょびっと日本酒を注ぎ、アリアに渡す。

 恐る恐る口に運ぶが……


「ご、ごほんごほん! ごめんなさい! これ苦手ですぅ……」


 むせてしまった。やっぱりアリアの口には合わないみたいだな。


(私も飲みたいのー)


 ルネは駄目だよ。梅ジュースが出来たら飲ませてあげるから。


(がっかりなのー)


 お酒は大人になってからな。

 

 日本酒を飲み干したリリンがちょっと難しそうな顔をしている。

 感想を聞いてみよう。


「どうだった? 正直に言って欲しい」

「この日本酒っていうのは私達の口には合わないですね。私達ダークエルフは穀物より果物の風味がするものを好みます」

「グルルル、私は気に入ったがな」


 二人の意見が分かれてしまう。

 好みの問題もあるかもしれないが、名産を作るなら万人に美味いと言ってもらわなければなるまい。

 

 というわけでワームイの実の登場だ。

 これから実験として酒、砂糖、そして塩にワームイを漬け、毒抜きをしてみる。

 もちろん時間を短縮するため、時間操作は発動するつもりだ。

 

 せっかくだ。梅干し、梅ジュース、梅酒、全て同時進行で作ってみよう。


「みんな、手伝ってくれ。ベルンドは瓶の中に塩とワームイを。リリンは酒と砂糖を混ぜてからワームイを漬けてくれ。アリアとルネは砂糖とワームイだけだ」


 俺の指示を受け、皆作業を開始する。とは言っても瓶の中に漬け込むだけだからな。すぐに終わった。


 本来なら毒抜きをするため時間を置かなければならない。

 だがここは天から与えられたギフトを発動する!

 まずは一週間ぐらい時間を進めてみるか。


 俺は瓶に向け、オドを放つ!


【時よ進め!】


 ギュォォォォンッ


 おぉ、ワームイの実から液体がしみだしているではないか。梅酒はいい感じに琥珀色になっている。これで毒抜きが出来ていればいいのだが。


 さてどうやって毒が消えたか確かめるかだが…… 

 

「アリア…… 準備はいいか?」

「せ、先生…… やっぱり止めてください! 危険です! 先生自ら毒味をするなんて!」


 もう俺がやるしかあるまい。言い出しっぺは俺だからな。

 記録係としてベルンドとリリン。アリアは万が一の時は即俺に回復魔法をかける手はずになっているのだ。


「ではまず一週間目の梅酒から試す……」


 俺は瓶を開け、スプーンを梅酒につける。


 ドックンッ ドックンッ


 おぉ、心臓の鼓動が高まる。こんなスリリングな味見をすることになるとは……

 だが乗り越えねば! だって梅酒が飲みたいんだもの!

 俺はスプーンを口に入れる! 


 ペロッ


「はうっ!?」

 

 ばたっ


 俺は意識せず床に倒れてしまう。い、いかん。息が出来ない……


「きゃー!? 先生、大丈夫ですか!? 癒しをディアルマ!」


 パアァッ


 アリアの回復魔法が間に合った。体から毒が抜けていく……


「はひゅー、はひゅー。し、死ぬかと思った……」

「やっぱり他の方法を考えませんか!?」


 いやな、一応動物実験とかも考えたが、梅酒如きで命を散らすのもなんかかわいそうじゃん。

 俺は気功で回復も出来るしさ。

 

 もしかしたら梅干しは大丈夫かもしれん。というわけで少し梅をむしって口にいれるが……


「はうぅっ!?」

「先生、もう止めましょう!」


 結果は同じだった。なるほど、かなり強い毒だ。一応ステータスを確認してみよう。



名前:タケオ

年齢:???

HP:6526/9999 MP:7529/9999 

STR:9999 INT:9999

能力:杖術10  

ギフト:

時間操作:大年神の加護

空間転移:猿田彦の加護

多言語理解:思金神の加護

分析:久延毘古の加護

魔銃:吉備津彦の加護

気功:日本武の加護

湧出:少彦名の加護


状態:毒 スリップダメージ 意識障害 麻痺 石化



 なんだかすごいことになってる!? なんで石化まで!? 俺は急いで全力で気功を発動する! やばい、死んでしまう!


「一週間では毒は消えず……」

「グルルルル……」


 二人は冷静に結果をノートに記していた。


「ふえ~ん、先生止めましょうよ~。これ以上は死んじゃいますよ~」

「ぜはー、ぜはー、ア、アリア、俺は諦めるわけにはいかないんだ。絶対に梅酒をアリアに飲んで欲しくてな……」


 俺は諦めない。立ち上がって瓶目がけ時間操作を発動! もう三か月時間を進めてしまえ!


 ギュォォォォンッ


 こ、これでどうだ!? 俺は梅酒を舐めてみる!


「あはぁんっ!?」

「先生ー!」


 くっ! まだ毒は抜けてないか! だ、だが今回は倒れなかったぞ! 毒抜きが進んでいるはずだ!


「三か月、まだ毒は残る……」

「グルルルル……」


 よし、二人はしっかりメモを取っている。っていうか、なんか冷静なのがムカつく!


 次は半年だ!


 ギュォォォォンッ


 そして舐める! 


「ぐはぁっ!?」

「もう止めてー!」


 大丈夫だ! ちょっと鼻と耳から血が出ただけだ! 視界が真っ赤なのはきっと気のせいだ!


 俺はしっかり回復してから、さらにもう半年、時を進める! これで一年分だ!


 ギュォォォォン…… ピカッ!


 お、おや? 一瞬だが梅酒が光り輝いたような? ちょっと試してみよう……


 がしっ


 アリアが涙を流しながら俺に腕を掴む。


「ぐすん…… 先生、もう止めてください…… これ以上は本当に死んじゃいます……」

「アリア、男にはな、危ないと思っていても進まなくてはならない時があるんだ。それが今なんだ!」


 ばっ


 俺はアリアの腕を振りほどき、梅酒を舐める! 倒れたら回復してね!


 ペロッ


 …………


 ……………………


 …………………………………………


 ん? 何ともないぞ? もしかして……?

 俺はもう一度梅酒の瓶にスプーンを入れる。

 それを口に入れる……


 おぉ…… さわやかな風味…… まろやかな甘さ…… 毒どころか一口舐めただけで癒されていくような感覚…… 

 これは美味い! 美味いぞー!


 し、しまった。一旦落ち着かねば。ステータスを確認して毒が無いか見てみよう。

 自身に向け分析を発動!



名前:タケオ

年齢:???

HP:8093/9999 MP:8550/ 9999

STR:9999 INT:9999

能力:杖術10  

ギフト:

時間操作:大年神の加護

空間転移:猿田彦の加護

多言語理解:思金神の加護

分析:久延毘古の加護

魔銃:吉備津彦の加護

気功:日本武の加護

湧出:少彦名の加護


状態:ほろ酔い(精力アップ)



 おぉ! 毒が抜けている! そして何だかよく分からない付与効果もついているではないか!? 何これ!?


 ともあれこれで梅酒は完成だ!


「みんな完成だ! 梅酒が出来たぞ!」

「一年で毒抜き終了っと…… それじゃ試飲させてください!」

「わ、私も!」

「グルルルル!」

「キュー!」


 みんな梅酒に群がる! こら、ルネはだめ! 俺は急ぎ梅ジュースを水で割ってルネに渡す。


「美味しい! 私の作ったワインよりずっと美味しい! ま、負けたわ…… タケさん、もう一杯ちょうだい!」

 

 とリリンがお代わりを求める。おぉ、ダークエルフの杜氏に認めてもらえたぞ。


「グルルルル…… これだったら樽一杯飲めるな。タケ! この酒を量産するぞ!」


 ベルンドも痛く気に入ってくれた。でも樽一杯は無理だろ。


 さぁアリアはどうだ? 酒が苦手なアリアでも飲めるとよいのだが。

 アリアは梅酒の入ったコップを口につけ……


 ゴクンッ


「美味しいです! これ大好きです! って、あれ? すごく胸がドキドキします……」


 ん? アリアがトロンとした目で俺を見つめて太ももをモジモジさせている。もう酔ったのだろうか? ちょっとステータスを確認してみよう。



名前:アリア

年齢:19

種族:魔族

HP:2105 MP:2538 STR:2690 INT:2852

能力:水魔法10

ギフト:鍵

状態:

ほろ酔い(精力アップ) 

発情(ムラムラしている)



 ちょっと!? や、やばいぞ。アリアが発情しているではないか! なんだムラムラって!? 俺は急ぎアリアに癒しの気を流し込む!


 パアァッ


「あ、あれ? 落ち着いてきました……」


 危なかった。これでほろ酔いと発情は消えただろう。

 梅酒の味は完璧だ。あんなに美味い梅酒を飲んだのは初めてだ。

 だがまさか付与効果までついてくるとは……


 どうしよう。販売するの止めようかな?

 俺は梅酒の付与効果を皆に話すと……


「別にいいんじゃないですか? お酒を飲むと異性が魅力的に見えることだってありますし。それにこの梅酒はかなり度数が強いです。売る時は少し水か果実水で割ったほうがいいですよ。それなら効果も少なくて済みます。

 お酒に強い人には付与効果は付きづらいはずです。私達は発情してませんからね」

「グルルルル、そうだぞ。こんな美味い酒を売らないのは罪だ。マルカ復興のためにも、梅酒を多くの者に楽しんでもらうべきだ」

「そ、そうです! 私だってまた飲みたいです!」

「キュー!」


 みんな梅酒を気に入ってくれた。まさか付与効果がついてくるとは思わなかったが、あの美味さだ。これは間違いなく名物になる。


「よし! 梅酒の量産する! リリン、君はワームイの実の栽培、梅製品の製造を担当してもらう。販売はベルンドが担当してくれ。頼むぞ!」


「はい! 任せてください!」

「グルルルル!」


 こうしてマルカ復興のため、三つの名産を産み出すことに成功した。

 ちなみに梅ジュースの付与効果は新陳代謝向上であり、HPが自動回復するという優れものであり、梅干しはMP自動回復だった。


 なぜ梅酒だけ精力に関する付与効果がつくのかは未だに謎である。

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