第31話 熊の襲撃
「いたいよ・・・・、いたいよ・・・たすけて・・・・」
「ク、クマだ!、クマが人を襲ってるぞ」
突如、住宅街に現れた熊、熊が好んで人を襲うことなど滅多にない事だったが、この熊は違った、好んで人の血肉を求め人家のある場所へと移動してきた
目撃者が警察に通報する、約10分後警察が到着するも熊は人に覆いかぶさりガリガリゴリゴリと骨の砕く音が聞こえてくる、襲われた男性からはもはや声は聞こえてこない
熊は到着した警察官を横目で見ながらも気にする気配はない
その場にいる警官達が共通の認識をする
人の味を覚えた熊は危険だ
警官達が熊を取り囲む、動く熊に対して闇雲に撃ったとしても当たり所によって拳銃の威力では熊の皮膚を突き破り筋肉に阻まれてしまう可能性は高い
しかし、この熊は人に食らいついたままで、人を脅威にも感じていないのだろう
警官達は首の周りなど急所に狙いを定め拳銃を発射する、弾は全弾命中するも熊は怯む様子はない、つかさず弾を発射していく、やがて拳銃から弾が無くなるほど熊に撃ち込むがまるで効果が感じられない
警官達は一旦車まで戻り応援を要請、その間、付近の住民に家から出ないよう、拡声器で注意を促す
監視していた警察官が車にいる他の警察官の元に急いで走ってくる
「こっちに来るぞ!」
熊はゆうゆうと警察官ら人のいる方向へと歩いてくる
そこに応援の警官達がライフルや散弾銃を手に駆け付ける
熊が迫ってくる、人と違って交渉などの時間は与えてはくれない
すぐさまライフルなどを構え一斉に射撃していく
ライフルは貫通し、散弾銃は肉をそぎ落としていく
だが、不死の体となっている熊の足は止まらない
この住宅街でも惨劇が行われた
もはや人間の原型はとどめないほど破壊され、ただただ血と肉が周囲の色を塗り替えていく、周囲に人間の気配が消えた
熊は何かを感じ取る、たくさんの人間が発したと思われる大き負の気配だ
熊はその負の気配をたどりながら大元へと目指し歩き始めた
その頃、美央と三八子は授業を受けている
三八子に関してもあれから特に変わった様子もなく、普通に授業に出席し毎日のローテーションをこなしている
一方で啓二をいじめていた連中は次の女子を物色していた
そのうちの1人甘戸良一は学校の女子に大人気で彼の事を悪く言う女子は少ない
あの騒動でも良一の肩を持つ者が多く良一をたぶらかした悪女として凛は悪者扱いにされていた、良一さえいれば女子はいくらでも寄ってくる
今回の騒動の主犯格の小前田竜二は兄と結託してビデオを製作し販売を目論んでいる、今回は兄の元に女を連れ来いと命令されていた
木丹久和内と越野欽茶は竜二達から今までお零れだが良い思いさせて貰っており、率先して2人の手伝いをしていた
そして今日も1人餌食となる女子に目を付ける
授業をサボりたいが為に仮病で抜け出した香里は一応保健室を目指していた
そこに良一が目を付け、保健室に到着する前に声を掛ける
ここで良一の誘いに乗ってこないなら次の女子を待つ、決して無理強いはしない
今回の女子はまんざらでもなく良一の話に乗ってきた
良一は学校の外へと女子を連れ出す、あとは竜二の兄の待つアパートの1室まで連れていくだけだ
良一は成功した事を竜二に伝えるために、ポケットに納めている携帯端末で竜二に合図を送る
それを受けた竜二達はアパートの扉の鍵を開け、準備に取り掛かる
撮影室はライブカメラを設置しすでにスタンバイ完了だ、竜二達は浴槽、越野達はトイレに隠れる
良一と女子が部屋を開けた瞬間逃げられないようにするためだ
すると玄関の扉が開く音がする
意外と早かったなと思いつつも息を潜める
ミシミシ、床がキシム音がする、話声が聞こえてこないことに疑問を持ちつつも目の前を通り過ぎるのを音で確認する
そして部屋の前に立ち扉を開けたのを見計らって竜二は浴室から飛び出た
「クマ?」
目の前の対象を確認した瞬間
「アゲポッ」
クマの一撃が竜二の鼻から顎にかけ肉や骨ごと吹き飛ばす、一瞬なにが起こったのか痛みすら分からずに呆然と立ち尽くしてから手で顎を触ろうとするがそこには何もない、そして手にベットリ付いた自分の手を見た瞬間襲ってきた猛烈な痛みで卒倒した
竜二の兄は玄関に走る、ほんの数メートルの距離だが熊のスピードには適わない
背後から両肩を熊に抑えられ、後頭部を生きたまま噛み砕かれ水風船が潰れたように辺りに血をまき散らす
越野達はトイレの思わず扉を閉めた、こんな状況で外に出ることはできない
そう思ったのだが、トイレのドアノブが回る、熊がドアノブを回し開けようとしてきたのだ、越野はトイレのカギを閉めた、僅かだがカチッと鳴る音
ドアノブが回るのが止まる
2人は鍵がかかったことで少し安堵する
だが、これが熊の怒りを買う
熊の強烈な一撃が扉を貫通する、穴の開いた扉に手を掛け熊は扉を引きちぎる
這いずりながら逃げる越野、扉の影でかろうじて襲われるのを免れたが、それはほんの一時でしかない、這いつくばいながら逃げる越野の背後から木丹久の断末魔と骨が砕ける音が聞こえる、越野は玄関ではなく部屋に逃げた
部屋にはライブカメラが外部と繋がっていた
やがてライブ映像には越野が熊に食われる映像が生配信される事となる
良一は足止めされていた、アパートに向かおうと歩いていたら、前からサイレンを鳴らしたパトカーが来たからだ、道の影に隠れる良一、パトカーが通り過ぎたかと思ったらバックしてきた、良一はまずいなと思い、言い訳を考えていると
血相を変えて警察官が降りて向かってきた
「君たち早く学校へ戻りなさい、凶暴な人食い熊がこっちに向かっている、まもなくここの道路も閉鎖する、この辺りは危険だ、さぁ、早く!」
必死の形相からして真実なのだろう
一緒にいた女子は怖くなり良一を置いて学校へ走り出した
良一も学校へと足を進める
良一は面倒だなと思いつつ竜二達に行けなくなったことを伝えるために電話をする
「あれ、おかしいなぁ」
アパートに居るはずなのに電話にでない、あんな狭いところでこんなに鳴らして電話に出ないのはおかしい
竜二に繋がらないなら越野達にも電話をしてみる誰も繋がらない
なんで電話に出ないのか訳が分からない
そこでライブカメラの事を思い出す、良一は配信元を確認する、ライブは問題なく配信されていた、しかし、まだ女子も連れて行っていないのになぜか
「なんだこれランキング1位?」
サムネにはなにも無い部屋の画像しかない
これのせいで電話に出れないのか?一体なにやってんだろう
良一は中身を確認する
するとそこに写し出された映像には越野が熊に食べられている場面が映し出されている、今まさにその場所で熊に襲われているのだ
良一はこのことを警察官に伝えるために戻ろうとした
百メートル程先でパトカーが道路を塞ぎ警官達が銃を構えているのが見えた
銃があるなら竜二達を助けてもらえる
良一がその方向へと足を進めた瞬間、複数の発砲音が周囲に響き渡る
「まじかよ」
良一の足が止まる
警官達は銃を撃ち続けている
だが、止まらない
パトカーが宙を浮く、その立ち上がった姿は3m近くあるように見えた
あまりにも大きなクマだ
警官達はまるで人形のように吹き飛ばされていく
良一はその光景を見て、足がもつれ尻もちを付き、そして学校の方へ全速力で走って逃げた、やがて銃声音は消えたが良一は一切振り返ることはしなかった
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