第24話 男同士の友情
人間には見えないその姿をグリスは捉えている
海の向こうで化け物と対峙したときは巨大な狼や熊といったまだ説明のつく形をしていたが、目の間の存在は表現のしようがない、禍々しいのか神々しいのかすら理解に苦しむ
立ち上がった姿は2mくらいだが尾を含めると3mはゆうにあるだろう
全身は蛇の様な鱗に包まれており無駄な突起物もなくツルンとしている、鱗の色は白とも虹色とも言い難い輝きを放っている
足は4本、手も4本あり、顔は人面魚の様に造形された感じがあり、とても表情が動くとは思えないくらいゴツゴツしている
目、鼻、耳から何本かの細長い触覚が出ており、神経などの感覚器官がむき出しの様にも見えるが実際には別物なのだろう
捕まえて解剖でもしない限りそれを判断するのは難しいだろう
グリスの放った銃弾は普通の玉ではない、玉の周りには亡者が絡みついている
銃弾の方は予想通り固い鱗に跳ね返される、しかし、亡者は化け物の周りを周りけん制する
化け物の触覚たちが激しく亡者たちを追う、化け物の4本の手を思われたうちの2本から口のような物が現れ、亡者たち噛みつき捕食していく
「おいおい、あれを食べるのかね、こんな生き物初めて見たよ」
グリスは驚いた、戦いの中で噛みつくのは見たが、好んで食べてしまうのは初めてだ、だがそのおかげで彼女たちを逃がす時間は稼げた
さらに化け物どもを引き付ける
「さあ、お前たちの食事をもっと出してやろう」
グリスは剣を取り出し、自らの腕を傷つけ血を吸わせ剣を地面に付き立てる
「私の血から現れる亡者は少々手ごわいですよ」
赤き血の一族の血は人の血と違い非常にドロリとしている、切られたとしても血が流れ落ちることが無いほどだ
その血は亡者の魂をも活性化させる、特にこの世に未練の強い魂は血の力で現世でも影響を及ぼす存在となれる
地面が盛り上がる亡者は土を使い人型に成形されていく、全部で4体の人造人間が出来上がる、その形に化け物は一応に口を開き対象に向け威嚇をしている
ただこの化け物はグリスが思っている以上に強い
亡者たちは岩となった体を投げつけ、打ち付けしているが化け物の鱗を傷つけることができない、亡者たちも砕かれるが血脈が続く限り再生し立ち向かう
倒しても倒しても地面から再生される人造人間
化け物もこの弱い相手をするのも飽きが来ていた、早く目の前にいる男に一撃を食らわせたい、化け物はお互いの位置に移動する、そして8本手足を使い1匹が同時に人造人間を押しつぶした、それと同時に1体がグリスを襲う
化け物が宙を飛び、回転した勢いで尾を使いグリスを叩きつける
グリスはそれを両腕でガードする、その勢いでグリスの体が地面に沈むくらいだ
「ぐっ、なんて力だ、ぬおー」
グリスは押し返そうとした瞬間、化け物の尾に仕込まれた日本刀がグリスの体を貫く
「こんな物を隠し持っているとは、驚きましたね、しかし・・・」
グリスはモノともせずに化け物を殴り吹き飛ばす
化け物も目の前の男には刀が通じないと悟り刀を尾に仕舞う
「分かりやすいですね、肉弾戦といきますか」
グリスが本気を出して目の前の化け物に殴りかかる
化け物の感覚は鋭い、グリスの攻撃に対し背中や尾の部分の体の固い部分でガードしていく、一応に警戒はしているようだ
化け物も攻撃を繰り出すが固いゼリーを相手にしているようでお互い決定打が見つからなずに時が立つ
丹野はグリスの部屋を訪れる
今だ帰ってこないグリスを心配している
部屋には右京慈が囚われているが
丹野は右京慈の前に膝まづく
「なんの真似ですか?」
「グリス様のご命令で腕をお返しします、そして拘束を時に参りました」
「ほう」
「しかし、それにはお願いがございます」
「なんだね」
「我々人間では対処のできない事案が発生いたしました、グリス様はそれを見越していたのかもしれません、もしもの時は右京慈様を開放しろとご命令を受けておりました」
「なるほどね」
「ここから先は私のお願いでもあります、グリス様にお力を貸してください、あの方がいまだに帰ってきません、私たちではその場に近づくことができないのです」
「・・・」
右京慈はしばらく考える
「左京慈の場所は分るかね」
「はい、グリス様には隠しておりましたがおおよその検討はつきます」
その答えに右京慈は納得した
「よかろう、左京慈と共にならその提案飲もうではないか、その変わりに二度とこんなことはごめん被りたいね」
丹野は右京慈の拘束を解く
右京慈は腕を繋ぎ血に足を付け丹野に近づく、そして丹野を掴み持ち上げる
「せめてもの詫びだ、お前の血を少しもらうぞ」
「グリス様の為ならご自由に・・・」
右京慈は丹野の腕に噛みつき血を啜る
「では左京慈に連絡を取ってくれたまえ、気乗りはしないが化け物を拝みに行くとしようか」
グリスが化け物と遭遇してからすでに4日が経過していた
「4日か、流石の僕たちでもそこまで戦った記憶はないね」
「同感だな」
「じゃあここからは僕たち二人で行くから、なにかあったら連絡するよ」
丹野は2人に礼をする
右京慈達はすでに気配を感じ警戒していた
右京慈達の移動は素早い、一瞬でその場に到着する
グリスは2匹の化け物を相手に体のあちこちを齧り取られボロボロになっていた
「我らの一族がここまで追い詰められているのは初めて見たよ」
左京慈は1匹の化け物に襲いっかかる
体術でもグリスには叶わないが純粋な力はそれを上回るかもしれない
「君で叶わないなら、僕たちが戦っても厳しそうだね・・・」
「来てもらって早々悪いが、状況が改善するとは思えないね・・・どうやってもあの固い鱗を破ることができない」
横を見ると左京慈が力で押され地面に押し付けられ引きずられている
「こりゃ、たしかに参ったね」
もう1体の化け物は容赦なく2人に襲い掛かる、2対1の状況であっても化け物は対処してくる
「2対1の状況でもこれかい、よくこんなの2匹と4日も絶えられたね」
「私も今まで生きてきてこんなに戦ったのは初めてだ、自分の体に感謝する時が来るとは夢にも思わなかったね」
「それにはとても共感できるね」
「じゃあもうそろそろ、良いだろうか?」
右京滋はどこかに連絡している
「こんな時に君は一体だれと会話しているのだ?」
「いや、なーにこうなることを予想してある方に協力を依頼してね、とりあえず映像が欲しいから送ってくれと」
右京滋は携帯端末を取り出す、今までの状況はずっと動画で撮影していたのだ
「しばらくお待ちください」
携帯端末から英二郎の声が聞こえてきた
「こうやって共闘してみると、私たち意外と息が合ってたりしないかね」
「その部分については共感できそうだね」
「どうだろう、提案なんだがこの戦いが終わったら私の会社で右腕として働いてみないか?」
「考えておくよ、ただし右腕だけ働くのはごめんだけどね」
「はははは、君とは長く付き合えそうな気がしてきたよ」
戦いながらの会話が続く
左京慈とガンマは喫茶店で知り合って以来、秘密裏に情報交換を行っており
右京滋と左京慈が合流した際に右京慈の提案でガンマ達に協力を依頼していたのだ
ガンマ達はとりあえず映像を見て判断すると伝えていたのであった
英二郎を通じ内輪で会話が行われる
「またまたこりゃとんでもないね、こんなの対処できないでしょ?」
「私でもたまに認識できる程度でカメラでとらえることができないと思ってください」英二郎の前世の能力を使ってもたまに虹色に輝くのを見ることしかできない
「まったく見ることのできない相手では、我々ではおそらく役に立たないだろう」
デルタもガンマも諦めている
「私は見ることはできますが・・・、確実に右京滋さん達の方が私より強いかと・・・」
「うーん、打つ手無しか・・・」
「キトさんが何か知らないか聞いてみます」
「キトさん、キトさーん居ます?」
「そんな大きな声出さんでも聞こえてるで」
「あ~、よかった、ところでキトさんはあの化け物について何か知ってます?」
「ん~、この件に関してはハクが解決できるんやけど・・・ハク曰く、1か月もすれば神の裁きがあるだろうから放っておけとさ」
「神の裁きって?」
「ああ、その辺り一帯の消失を意味する」
「ええ、それだとあの3人と化け物も?」
「当然そうなるわな」
「そうですか・・・英二郎さん、右京慈さん達に一応お伝えください」
英二郎は右京慈達に伝える
「おいおい、そいつは困ったね、この化け物は私たちより強い、そして逃がす気もないらしいね」
「どの道私たちも、この化け物も無駄な戦いの時間を過ごして死ぬってことなんだね、なんとも生産性の無い話じゃないか」
「どうやら君の右腕で働くどころじゃなさそうだね」
「ふっ・・・最後は女性の膝枕の上って決めていたのに非常に残念だよ」
「君のその願い叶えてあげたいねぇ」
右京滋は英二郎に話しかける
「少しでも私たちが生きる可能性があるならどんなことでも受け入れる、なにか良い方法はないだろうか?」
夕凪にはキトがその答えを待っていたかのように口元が少し笑ったかのようにも見えた
「可能性と言うたら、無いことも無い、ただ、化け物2匹とお前たちの内2人に罰を与えることになるがよいか?」
「ちなみに罰と言うてもその場でコロンと死ぬのと違って、能力の剥奪、弱体化って感じかな」
「どうや?受け入れられるか?」
「そんなことなら私は構わないよ」
グリスはあっさりと即答する
「同感だね、もうこんなことに巻き込まれるのは御免だよ、左京慈さえ残ってくれれば文句はないね、彼は戦いが生きがいだからね」
「あい、分かった」
「じゃあ夕凪、出かけてくるな」
「はい、気を付けてください」
「ははは、大丈夫大丈夫」
そういうとキトは夕凪の前から姿を消す
キトは右京慈達の目の前に姿を現す
「さてと、グリスとやらよ、ちょっと聞きたいことがあるんやけど、その前にと」
キトは化け物の背中にあっけなく飛び乗る、化け物は突然訳も分からず飛び乗られた小さななにかを手で払おうとするが手を捕まえられ、背中を殴られる、化け物にとって初めての衝撃であった
キトは化け物の背中の上からグリスを呼び、英二郎たちには聞こえないよう何か話をしている
話が終わるとグリスに下がるよう命令する
キトは化け物の上にのったまま会話を始める
「兄上、かわいい妹たちの為に一肌脱いでくださらぬか?」
「今回は特別だぞ」
突然宙から一人の青年が現れ地面に降り立つ、ハクだ
その場にいたグリス、右京慈、左京慈は思わず膝を付く、
右京滋は一度会っているとはいえ、後の2人は初めて見る、なのに思わず膝まづいてしまう、それほど圧倒的と言える存在感、このお方の意に添わぬ動きを少しでもすれば死が訪れるであろうと本能が感じる、左京慈と対峙していた化け物もその場から動けない、いくら化け物とはいえ何かを感じているのだろう
「まったく世話が焼けるな」
キトの下にいる化け物に近寄り、尾の辺りに手を入れ、いとも簡単に刀を引っこ抜く
、そしてもう1匹の化け物にも近寄り同じように刀を引っこ抜いた
3人とも驚愕するあれだけ必死に戦う中で傷一つ付けることのできなかった鱗を簡単に突き破ったからだ
あれだけ攻撃的だった化け物が見る影も無く小さくなり何かに怯えるように去っていった
「次はお前たちの番だ、どちらが先か選べ」
右京滋が返事をする
「私からでいいかな、なにをされるか知ってしまうと恐怖が倍増しそうなのでね」
懸命な判断だ
「では私は見届けるとしようか」
グリスはこれから何が起こるのか興味があったため見届けることにしたのだがそれは間違いだと気づく
「では両腕を前に出せ」
右京滋は言うとおりにする
ハクは差し出された両腕に手刀を突き刺し何かを一気に引き抜いた、
それは赤く細長い血管のような形をしていた
右京滋は今までに味わったことの無い激痛に襲われ絶叫しその場にうずくまった
「さて次はお前の番だ」
グリスの絶叫がその場に響き渡る
「お前たちの能力のすべてを奪うことはできない、しかし赤き血の一族としての能力はこれで半減した、今後はこういう事を起こさぬよう肝に銘じておくのだぞ、よいな」
「兄上、この2人失神してるかも」
「ふん、まあよい、キト帰るぞ」
「はいはーい」
「しばしお待ちを」
「なんだ?」
「この状態、この2人は人の世界でこれから活動できるのでしょうか?」
「問題ない、1か月もすれば慣れるだろう」
「2人の面倒よろしくな」
キトとハクはその場から消えた
左京慈は2人を連れ丹野の待つ場所へと戻っていった
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