第18話 公園の猫達の守り人

1人また1人と若い女性が消えていく

だが、事件になる様子はない

SNSなどを通じて行方不明となっていく女性の闇も深く

ただの失踪としか扱われない


それはある男の欲求から行われる組織的な失踪だとしても

赤き血の一族にもいろいろな嗜好性がある、多くは人肉や血を好む者でグリスの場合はとにかく若い女性の血を好む、この味が忘れられないからだ

女性はただただ血を抜かれていく


しかし、男に対しては容赦がない、首を切り臓物を引きずり出し、血を貯め浴びるそんなおぞましい場所でグリスはグラスに入った若い女性の血を嗜む


「やはりこの国の若い女性の血は格別だ」


「グリス様、今日は前回よりもさらに15年物の若い女性が手に入りました」


「そうかご苦労、初めからこうすればよかったのだよ、そう思わないかね、右近よ」


血の浴槽のそばで手足をボルトで固定され、口を引き裂かれ、磔にされている右京慈の姿があった


「やはりお前は弱い、いずれお前の血も利用するときがあるだろう、その時までそこで大人しくしてるのだな」


「グリス様、左京慈の行方が分からなくなっておりますが一応警戒しておきましょうか?」


「構わん、放っておけ、どうせ何もできないだろう」


「畏まりました」


「もう少し日本の女性に受ける若い顔立ちの方がよかったろうか、その辺りの好みがまだまだ良く分からないな」

グリスは鏡を見ながらブツブツ言っていた


・・・


左京慈はグリスを倒す方法を考えていたが良い案がない、それで右京慈の知恵を借りようと思ったのだが、死にかけの門佐に出会い右京が連れ去られたことを知る、

その際に右京慈が逃げた相手の情報を知り、門佐を病院へ連れて行った後、悩みながら道を歩いていた


すると目の前で少女が男に絡まれている、どうやら自転車が男にぶつかったらしい

「人様にぶつかっておいてどう責任取ってくれるともりだ何とか言えよ」

左京慈は考え事をしているのでそんな光景など、どうでもよかったのだが・・・

鬼のような形相をしながら只ならぬ威圧感で真っ直ぐこちらに向かってくる左京慈に男が気付く、しかも止まる気配がない

「ごめんなさいで、済めばぁ・・・」

2m近い大男に目の前で無言で立ち、するどい眼光で睨まれている

殺される・・・と思わず男が感じるとその場で腰が抜け

「あわわわわわ」

と言いながら這いずりながら逃げていった


「あ・・あの・・・」

少女がお礼を言おうとするも、左京慈は目の前の邪魔な人間が消えただけの事で気にせず歩を進め歩き去ってしまった


数日後、左京慈は組織から外された状態で完全に仕事が無い、無職と言ってもよいだろう、それにいくら組織から外されたといえ、左京慈の命を狙おうなどと思う人間も居ない、むしろグリスに居場所を教えて殺せと言われても逆に殺されるだけだろう、組織の人間が発見しても見て見ぬふりをしているに違いない


左京慈は公園で野良猫たちにご飯を上げている

周りには猫集りが出来ている

以前この公園で目の見えない弱った子猫に気まぐれでこの儚い命を救った

それ以来、子猫は左京慈になつき、左京慈もまたこの公園で面倒を見ることとなった

この目の見えない猫には不思議と他の猫たちが集まってきて世話をしており

左京慈はここにきて猫たちにご飯を上げるようになっていた


そこに2人の少女が近づいてくる

夕凪とその友人シノだ


「あのー、先日は助けていただきありがとうございました、あの時はものすごく動揺していて、もっときちんとお礼を言わないとと思い、声を掛けさせてもらいました」


左京慈は少女の奥に居る夕凪の姿に警戒をする

《あれはたしか右京慈を負かした一味の一人か》


夕凪も最大限警戒していた

《この人はたしかあのホテルでの映像に映っていた、しかもあの男と同じ一族》


2人の間に緊張感が走る、シノは異様な空気間に威圧され

「あのー、猫ちゃんが好きなんですか?」


「ん、ああ、この時間位にご飯をあげに来ててね」


「まさか食べるつもりじゃないですよね?」


「ふん」


「ユナちゃん、なんてことを・・・、私も猫ちゃんが大好きで・・・」


左京慈はベンチから立ち上がり、人差し指を立て静かにするようにシノに合図する

目の見えない猫も「ナーオ」と一鳴きする


1匹の猫が走り出す、それを左京慈が追いかける

夕凪達も訳が分からないのでとりあえず左京慈の後を追う


向かった先には子猫が木に登り降りられなくなった所をカラスがちょっかいを出していた、先ほど走っていた猫は親猫なのだろうか必死に木を登っているが危うい

左京慈に迷いはない、一瞬で高い木の枝に飛び乗り、子猫を抱え降りてきた


それを見たシノは

「ユナちゃん今の見た?すごい!すごい!」

「どうやればあんなことができるんですか?」


夕凪は言いたかった《人じゃ無いからね・・・》


左京慈は子猫を親猫に渡す


「さて、ユナとやら一つ手合わせをしようか?」


「このまま帰らせてくださいと言っても無理ですよね?」


「無論」


夕凪はシノが居る以上逃げることは無理だと考えていた


「え?え?なんでこうなるの?」


「お嬢さん、こちらの都合ですまないね、満足できる結果が得られたら君たちは自由だ」


夕凪が構える、左京慈は仁王立ちしている

左京慈が肩などをピクリと動かすと夕凪もそれに反応しようとしている

左京慈が足を前に少しにじり出すだけで夕凪は足を動かし反応する


夕凪が攻めることはない、むしろ相手の強さを感じているから先手は無意味だと理解している、当然、左京慈の攻撃を捌ける自身もない


「これは面白い、向かってこないならこちらから行きます」


左京慈には殺気がない、当然本気で攻撃するつもりもなく寸止めで急所の方向へと突きを繰り出す、突きの風圧が夕凪の髪を靡かせる


夕凪も躱そうとするが急所を逸らすことで精いっぱいで、本気で突かれたら恐らく体が吹き飛ばされている可能性が高い


「なるほど、人にしてはなかなかの反応ですね」


《それにしてもそこまで脅威には思えない、右京はなにをそんなに恐れていたのだろうか》左京慈は少し疑問に思う


「では次は本気で行きましょう」


左京慈は殺気を放つ


左京慈の殺気に反応したトラが驚いて飛び出てきた、トラが夕凪の前で攻撃的な構えをしている


「ほほう、面白い者を従えてますね」


しかし、左京慈は怯む様子はない

左京慈が一回り大きくなったと感じた夕凪は威圧感で汗をかき始める、構える手のも自然と力が入っている


左京慈は構える素振りを見せながら夕凪に気付かれないように飛礫を公園の遊具に向けて打ちはなつ


「ガツン!」


物凄い音が響き渡る


夕凪は一瞬物凄い音に一瞬気を取られる、その一瞬の隙に左京慈は距離を詰める

トラが左京慈の顔面に襲いかかる、だが夕凪を見る左京慈の視線が逸らされることはない


夕凪が躱せない、やられると思った瞬間、左京慈の動きが止まる

夕凪には良くわからないが、目の前の大男の動きが止まった隙に後方へステップする


左京慈の冷や汗が滲み流れる、それは左京慈が感じたことのない殺気を感じた

単なる恐怖心などとは次元が違う、自分が今まで出会ったことの無いはずなのに感じる本能からの絶対的な恐怖、恐らく自分がどれだけ鍛えようとも勝てる気がしない感覚、思いつく言葉でいうなれば我が一族の天敵とも呼べる存在なのだろう


左京慈は熱くなっていた自分が愚かだと気づく、右京の言っていたことは正しい、夕凪を試そうとした自分が愚かだった

左京慈は冷静になり夕凪に深々と頭を下げた


「申し訳ないことをした、あなた方を試そうとした自分が愚かでした」


夕凪はその場でへたり込む


「本当に怖かったです、ただ自分はまだまだなんだなと改めて実感させられました」


「あなたはまだまだ強くなる、そんな予感がします」


左京慈は夕凪に手を差し伸べ夕凪を起こす


「なんだかよく分からないけど安心したと同時に感動しました」


シノがその場で大泣きしていた


「シーちゃんごめんね」


夕凪はシノの肩を叩きなだめており、左京慈はシノに謝罪していた


その様子を木の後ろから見ていたキトは安心したのか静かにその場を去る


左京慈は今回の件で自分の悩んでいたことが何か吹っ切れた感じがしたのだった

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