第94話 ファッションヤンキー、大蜘蛛とタイマンする
私は目の前の光景に呆気に取られていた。
デカい蜘蛛がいる、それはまだいいんだよ。そもそもそいつ討伐のためにこの洞窟に潜り込んだわけだし。でもさぁ、その蜘蛛の糸にぐるぐる巻きにされてるウナギのような存在は知らないよ。付け加えるならその仮称ウナギに蜘蛛が口から管のような物を突き刺しチューチュー吸ってるんだよね。これお食事されてるね、ウナギ。びったんびったん動いている様から生きているんだろうけど、打つ手無さそう。
「……お食事中か。犀繰、あのぐるぐる巻きの中身分かるか?」
『認識不能。』
さいですか。さて、どうしようかな。選択肢は2つだね。まず1つ目は食事を邪魔して大蜘蛛の討伐に乗りかかる。ただ、この場合ウナギが敵性存在だった場合、大蜘蛛から解放されたウナギと連戦する可能性もある。
2つ目は、食事が終わることを待ってその後仕掛ける。こっちは戦闘開始まで時間がかかる上、もしウナギが良性の存在だった場合取り返しがつかないよね。
こういう時はヤンキーだ。ヤンキーになって考えるんだ。……よし。
「ピッチャー第一球投げるぅ!」
取り出したるは、堅泥団子。テレビで見たプロ野球選手の動きを思い出し――掛け声とともに全力投球!ふふふ、分かる、私には分かるぞ。私が投げる球はひょろひょろと軌道を描きポテンと落ちる!そりゃそうだよ、野球のピッチングの経験なんてないんだから。だけどね、投擲スキルのお陰でアマチュア選手顔負けの球速とコントロールで投げることが出来るのだぁ!凄いなゲーム。
堅泥団子は狙い澄ました通り、大蜘蛛の8つの目のうちの一つに命中する。そんな急所に堅く、勢いのある物体がヒットすればどうなるか。当然、大蜘蛛は苦しみに悶える!
「ハッハァ!ストライクじゃのぉ!」
『球速125キロと測定。』
え、スピードガン機能まであるの君。
そんなことよりも大蜘蛛だ。奴はギチギチと音を鳴らし痛みからか、脚を大きく踏み鳴らし暴れている。既にそんな余裕はないのか口から伸びていた管は収納されて簀巻きにされたウナギは暴れる奴に蹴飛ばされ、ゴロゴロと転がっていった。中身知らないけど踏んだり蹴ったりだな、ウナギ。
さて、私もそろそろ行きますかね。このまま堅泥団子投げていちゃヤンキーっぽくないからね。
『姉貴、俺は』
「犀繰は見ときんさいや。俺の喧嘩じゃけぇよ。」
主人に付き従うゴーレムとしては間違いないのだろう、犀繰は同行を求めるけど即却下。雑魚以外は基本私1人が戦う。別に戦闘狂って訳じゃないよ?
にしてもデカいなぁ大蜘蛛。人の高さでも十分大蜘蛛って呼べると思うのに目の前のこいつはリノギガイアよりも少し小さいくらいはあるよ。つまりはデカい。
「すまんのぉ、大蜘蛛。手元が狂ってのぉ。」
私の声に、暴れていた大蜘蛛が不自然なほどに大人しくなり残された7つの眼で私に視線を向けた。うーん、嫌悪感とかはないけど巨大な蜘蛛に見下ろされるのはちょいと怖いなぁ。まぁ臆してはいられないんだけどさ。
「お前を伸してくれって依頼があってのぉ。サシで闘ろうや。」
言い終わるや否や、大蜘蛛はその長い前脚を私に目掛けて振り下ろしてきた。いいだろう、では私もこの拳で――いや待て足の先端槍のように鋭くないですか?待ってもう拳が止まらない刺し貫かれる!?……あれ?貫かれてない?それどころか拮抗してるですけど?なんで?
「ふんぬぁ!」
とりあえず拳は振りぬく!何とか弾き返すことに成功し、大蜘蛛は跳ねるように距離を取る。
にしても何で……あっもしかしてムラカゲ倒した時に習得した鉄拳の効果?でも他に拳に関するのは無いし……あれとぶつかり合って平気とか我ながら人外じみてない?
さて、挨拶は終わりとして次に大蜘蛛は――!あいつ、腹から糸噴出してきやがったよ!そりゃそうか、蜘蛛だもん!
「しゃらくせぇのぉ!」
偶然だけど、蜘蛛の糸対策は整っている。不動噛行を構え、斬ると念じ……振る!するとどうか、激流のように襲い掛かってきた蜘蛛の糸が私を境目に2つに分かれ、誰もいない地面に付着した。いや、上手くいって良かったぁ……
防いだことですし、どんどん近づいていきましょうかね。シャドルみたいに速かったら躱したあとすぐに大蜘蛛の懐に潜り込み火魔法ぶち込むんだろうけど私ゃ鈍足のヤンキーだ。ふっはは、蜘蛛さんやそんな逃げながら糸噴出しないでよ。ほらお話ししようよ。私この不動噛行と拳で語り合うからさ。本音を言うと……あれ?進まなくない?……あれ?足が動かないよ?あれ?足元に蜘蛛の巣があるよ?あれ?トラップ?
「なんじゃあこれ。」
むむ、脚が上がらない。とりもちみたいに粘着されているわけじゃなくてぴったりと張り付いてる感じだな。なら不動噛行で――おや?斬れない?何で?
あぁ、待って大蜘蛛。そんな鬼の首を取ったように前脚あげて糸吐き出さなくても。別に斬るのに踏み込みいるわけじゃないんだから斬れるから。……あ、靴脱げばいいのでは?あ、いけた。しかし脚に伝わる石のごつごつした感触と冷たさはいただけない。寒い。
うん?蜘蛛さんやそんな糸を出すモーションしながら糸を出さないとはどうしたのかな?もしかして……
糸 使 い 切 っ ち ゃ い ま し た?
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます