第91話 ファッションヤンキー、検分する

 仮面女、犀繰が突っ込んだらボロボロに崩れ去っちゃったんだけど?元々そういう仕様なら納得はするけれど、さっきから犀繰はPK達を突き飛ばしていた。それがいきなり変更されるなんて考えづらい。辺りを見渡すと、他には立っているPKはいないようでいずれも地面に伏して動かない。多分プレイヤーがキルしても教会に死に戻りになるからこいつ等まだ生きてるな?

 とりあえず、とどめを刺して回っておこう。こう、青春ものみたいに殴り合いとかになったらそのまま去ってもよかったんだけど、こいつらはPKだからね。慈悲は無い。


「オラッ」

「グェッ」


 特に抵抗もしないので不動噛行で頭をコツンコツンと殴りまわる。ただそんなカエルをつぶしたような声を出さなくても……そして最後のPKを教会送りにした所で――仮面女が崩れた地点に脚を向けた。

 やっぱりおかしいよね。PK達を倒した時、奴らは例外なく光の粒子と化して消滅した。そんな中でただ1人、仮面女だけ死亡エフェクトが違うなんてあり得ない。

 念のため、その地点には犀繰を待機させていたが、犀繰は一切何かに反応することは無かった。


「犀繰、仮面女を轢いた時、何か変なところはあったん?」

『何も。』


 そう言うならそうなんだろうなぁ。ゴーレムが主人に嘘をつくなんて想像つかないし。私は目線を下に向け地面に散らばる、ある物体を見つめる。それは仮面女だった物体。……仮面女の名残はあるけれど、土だよねこれ。試しに不動噛行で頭部だった部分の土を突き、崩したところで異変が起こった。割ったその先から紫の煙が噴出したっ!?


「ひぁっ!?」

『吹き飛ばす。』


 煙は勢いよく私の顔面に噴出され、思わず私は驚愕の声を上げて目を閉じてしまった。その直後に聞こえる犀繰の声と何かを大きく振るうような音。目を開くと――すでに煙は霧散していた。犀繰が消し飛ばしてくれたのかな。

 いやぁ、ビックリしたなぁ。まさかあんな仕掛けが施されてるなんて……ん?何か体力が……減っていってないかなこれ!?まさか!

 慌ててステータス画面を見ると、そこには私の想像していた事態が発生していた。


「毒状態かぁ……っ!」


 HPを表記する数値の横には「毒」という何とも今の状況を分かりやすく説明する一文字が追加されていた。控えめに言ってよろしくないなぁ。ゲームなんだしそういう状態異常がないとは思っていない。私自身、威圧眼で状態異常振りまいてるわけだし。だとしても、今までそういう敵に遭遇してなかったから油断していた節はあるよね。その証拠に、その状態異常を回復するアイテム持ってない!


「犀繰、状態異常回復できるか?」

『無理を言うな。』


 でっすよね、言ってみただけです。幸い体力は満タンに近い状態だから今すぐに死ぬとは思えないけど、定期的にHPが減るのは精神衛生上宜しくないなぁ。さっさと犀繰でドヴァータウンに行って毒状態回復したいところだけど、一応被害者のケアをしといたほうがいいかな。

 少し距離があるので犀繰に乗って4人の少年少女に近づく。彼らはようやく回復したようで身を寄せ合いながらも立ち、私を迎えた。


「おう、大丈夫だったか?」

「は、はい。ありがとうございます……」


 とって食わないからそんなに怯えなくてもいいんですけど……?まぁあんな目に合った上に私みたいな強面に話しかけられたんだ。声が震えていてもおかしくない……自分で言って悲しいなぁ……

 まぁいいや、いつものことだし。聞きたいこと聞いてさっさと別れよう。


「あいつら、見覚えは?」

「な、ないです……俺達、本当にパーティ組んで狩りしてただけなんです。そしたらあいつらが近づいてきたと思ったら武器を向けてきて……」

「そうか。まぁ、気を付けんさいよ。少なくとも縮こまっていたらそのままキルされてたけぇのぉ。抵抗くらいしときんさいよ。」


 私の言葉に少年少女はコクコクと頷く。PKが堂々としているということはこのAFWでPKは禁止されている行為ではないということになる。であれば、運営に物申しても意味はないだろうね、粘着されてるってなら話は別かもしれないけど。それならば自衛するしかないよねぇ。誰かが毎回駆けつけて守れるわけないし。


「じゃあ俺は行くけぇよ。これに懲りずゲームを楽しみんさいよ。もしくはあれPKもゲームの一部だと思いんさい。そうすれば気が楽になるけぇ。」

「あ、ありがとうございます!」


 うん、彼らはもう大丈夫だね。瞳の中に覚悟を見た――なんてものはよく分からないけどこれを機にAFWを止めるなんてことは無さそうだ。ふふふ、ヤンキーはクールに去るぜ。口にはしないけどAFW楽しんでね。

 ――あ、待って毒回復できるアイテムとか持ってない?あ、持ってるの?ありがとー



 それにしても仮面女、彼らを襲った理由は仲良さそうだったからと言ってたなぁ。少年少女たちは確かに仲良さそうだったし……うん?思い返せば彼ら、男女2人ずつで、ペアが出来ていたような……ハッ!もしかして仮面女、カップルに嫉妬して襲ったの!?なんて心の小さい奴なんだ仮面女!


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襲った理由は恐らく違います

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