第52話 ファッションヤンキー、トレントの林へ

 情報屋に渡された地図を頼りにやってきましたポートガス街道。地図に示された場所は……木々が生い茂る林でした。

 さて、トレントルーパーを見つけねばならないんだけど、あの、私が中に進んでいくたびに一部の木が不自然なまでに揺れている気がするんですけど。これはつまり、そう言うことなのかな?

 試しに揺れた木のうちの一本に思いっきり喧嘩キック!


「――――!?」


 思った通り揺れた木は擬態したモンスター、トレントだったようで私に蹴られたトレントは声にならない叫び声を上げた。ただ、倒すまでには至らなかったようで幹にデフォルメされた顔を浮かべ、枝で攻撃を仕掛けてきた。

 所詮はただの枝、このオウカに傷1つ付けられると思うてか!はい、普通にダメージ食らってます。予想以上に強いなトレント!

 しかも1体と交戦し始めたら徐々に他の木の幹にも顔が浮かんでいつの間にか私と交戦しているトレントを中心に木のサークルが出来上がっていた。ご丁寧にそれぞれの枝を組み交わしプロレスのリングのようになっている。


「逃がさんつもりか?折角じゃけど逃げるつもりはないけぇ、のぉ!」


 迫りくる枝を握り掴み、力を込めてへし折る。小気味いい音を立て折れた枝にトレントは再び悲鳴を上げる。枝折れたら痛いのか……神経とか繋がっているのかな。

 まぁいいや、折角隙が出来たんだ。メリケンパンチをトレントの顔に叩き込む!少し期待していたけど流石にパンチで幹が折れたりはしないよね。ただ、攻撃は通ったようでトレントに浮き出た顔が悲し気な表情へと移り変わったかと思うと、ドロップアイテムを残して消え去った。

 ドロップアイテムは、トレントの木材とトレントの種子か。……うん?トレントって種から生まれてくるの?いや、元々木だから当然か。

 さて、倒してドロップアイテムも回収した訳だけど、周りの取り囲んでいるトレントは一向に動こうとはしない。


「おい、戦わんのならどいてぇや。」


 試しに話しかけても返事は帰ってこない。その代わりにざわざわと枝を揺らすだけ。いや、それがトレントのコミュニケーションだとしてもヒューマである私には何を言っているかわからんちんなんだけど。

 どうしたものかと悩んでいると、遠くから何か声が聞こえた。これは……鳴き声?それも、馬の嘶き?

 ポートガス街道で馬車を引いている馬はよく見るから、馬の声が聞こえるのは珍しくないんだけど、道から大きく外れたの林で聞こえるものなのかな?誰かこの近くで走ってるのかな?

 馬の嘶きはどんどんと近づいてくる。もしかして、私と同じようにプレイヤーがトレント狩りにこの林を?なんて思っていたが、現実は違った。


「ヒヒヒーン!」


 トレントのリングの隙間から見えたのは、よく分からない生き物だった。一見すれば……いや、細目で見ればただの巨馬。だけど、ただの馬と言えない部分がその馬にはあまり余るほどあった。

 まず、肌がメープル色だ。いや、もしかしたらそんな色の馬もいるのかもしれないけど、少なくとも私はメープル色の肌に木目のような模様をした馬は知らない。しかもその馬、背中からぶっとい木生やしてるんですけど。その背中の木の幹に顔が、歴戦の武将みたいな浮かんでいる。あの、その……キモイ。

 そのキモイ巨馬は真っ直ぐこちらに向かってくる。それに合わせ、リングと化したトレンドの一部がざわざわと動き、巨馬を迎え入れるかのように枝を解いた。そして巨馬はリングの中へと侵入し……馬の目と幹の武将の目が私を捉えた。


"ブトーレントルーパーと遭遇しました。"


 ブトーレントルーパー!?何それ私の目当ての奴じゃないんだけど!?トレントルーパーどこ行ったの!?


「ブルヒヒン!」


 私の混乱をよそに、ブトーレントルーパーの馬の部分が蹄を大きく上げ私に振り落とす。

 いつものように受け止めず反射的に後退し避けてしまったが、その判断は正しかったようだ。地面、大きく凹んでるんですけど?こんなのまともに食らってたら体力ゴリっと削られていたよね。いくら踏ん張り所で一発は耐えられるとは言え……そもそも見た目的に攻撃食らうの怖いよこれ。


「ゴオオオオオオ!」


 は!?幹の顔声発せるの!?いや、驚くべき場所はそこじゃない。幹の顔が声を発すると、幹の両側面から木製の腕が生えた。キモ度がアップした。なんて言ってる場合じゃない。2本の腕は自身の頭……頭?からそれぞれ枝を折りその手に掴む。何をしてるのかと思ったけど、その答えはすぐに明らかとなる。折れた木の枝はまるで生きている様に蠢いたかと思うと、2対の槍と変貌した。


「おい……三国志じゃないんじゃけど!?」

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