第48話 ファッションヤンキー、不意の襲撃に合う?

 プレゼントボックスから出てきたのは結構大きめの昔アニメで見た坊やが乗っているような龍を金色の色で象ったワッペン。ぱっと見薬草みたいなそこらにありそうなアイテムには見えないけど。調べてみようか。


黄金龍のワッペン

金糸で精巧に編み込まれた龍のワッペン。躍動感あふれるその姿はいつ動き出してもおかしくはないように見える。が、所詮はワッペンなので動くわけがないが、ワッペンなので服に着けることは出来る。ただし金属製の物には付けられないので注意。これであなたも傾奇者!竜ではなく龍というのが重要。


「格好いいけど……それ以上の効果は無いんじゃのぉ。」


 ワッペンに表示されたテキストを読んで私は少しの不満を漏らす。いや、薬草に比べたら特別感があって嬉しいんだけどさ。折角それなりのモンスター倒したんだから攻撃力アップくらいついてても……って言ってもしょうがないか。今度竹輪天さんに会ったら付けてもらおう。

 気持ちを切り替えてゴブリンチーフのドロップアイテムを見てみようか。あいつが持っていた剣が落ちてる。拾って調べてみたけど……特筆することの無いただの鉄の剣でした。ATK上昇値は木刀とほとんど同じ。INTが上がる分木刀の方が優秀だね!いや、INT使えてないから意味無いわ。馬鹿だわ。

 それ以外は……うん、特に目ぼしい物はなし。安定のゴブリン棍棒は回収して……よし、ここには用は無いね。であれば次の戦いへ赴かん!



"ゴブリンチーフ率いるゴブリンパーティ 2/2 依頼達成しました。冒険ギルドにて達成報告を行ってください。"

"シザースバサミ 4/6"


 ゴブリンチーフパーティ、次はあっさり見つかったなぁ。しかもシザースクラブもセットで現れてくれたからハサミもついでにゲットできたし。私って存在強調のおかげでこういう依頼に強いよね。目当てじゃないモンスターも沸くからそれを処理しなければいけないのが辛いところだけれど。

 だからちょっと疲れた。でもログアウトするほどではないし、寝転ぼう。まぁモンスターが襲ってきて対応遅れても……一撃貰った程度で死にはしないでしょう。そうそうゴリラやモグラ級が現れるわけでも無いだろうし。

 あーあ、手ごろな草があればそれを加えて寝転ぶんだけど、残念ながら雑草しかない。こう……双葉の長い草が欲しいかな。ないから諦めるけど。

 にしても日光が暖かいなぁ……ゲームで気温を感じるなんて私が小学生の頃はそんな時代が来るなんて思いもしなかったよ。ちょっと微睡みそうになったところで……何かが私の腹に当たった。


「うん?」


 ダメージがあったわけではない。実際体力は一ミリも減ってはいないのだけれど、当たったという感触は確かにあった。

 起き上がって足元を見てみると矢が転がっていた。

 これ、私を狙って放たれたものなのかな?拾い上げてみるけど毒が混入されているとかそういうわけでも無い普通の木の矢だ。矢尻が鉄だったらダメージ受けていたかもね。

 にしてもどこから?確かにちょくちょくプレイヤーはいたけれど私恨み買うようなことしてないと思うんだけど。


「おぉーい、そ、そこの君ぃ」


 おや、声が聞こえた。その方向に首を向けると無精ひげを生やし、クタクタのローブを羽織ったおじさんがこちらに向かって小走りに走ってきた。弓を持っているみたいだし、もしかしてあのおじさんが矢を放った犯人?

 おじさんは私の元にたどり着くや否や即土下座した。


「ホンットーに申し訳ありませんでしたぁ!」

「え、ちょ、何!?」

「空に浮かんでいたプレゼントボックスを打ち落とすつもりだったんだ!それを外してしまって、何の関係もない、何の罪のない君に当ててしまった!決してPKをするつもりではなかったんだ!どうか、通報だけは!」

「しない!しないけぇ頭上げて!」


 私全然怒ってないからこんな土下座されても困惑するだけだから!

 土下座するおじさんをリフトアップで掴み上げ、何とか立たせる。リフトアップ、こういう使い方もできるのね……駄々っ子とかに良さそう。

 再度土下座をせんと構えようとするおじさんの肩を掴むことでそれを阻止。ダメージを食らってないから全然怒ってない旨を伝えると目を丸くした。


「え?1ダメージも?」

「無傷じゃ。」

「怒ってない?」

「ビックリはしたけど怒るほどじゃないのぉ。」

「通報しない?」

「せんせん。」

「よ、よかったぁ……」


 へなへなと力が抜けておじさんは膝をついて力なく笑う。そんなに通報されるのが怖かったのか……


「あぁ申し訳ない。自己紹介してなかったね、僕は玄道。職業は弓使いだよ。」

「俺はオウカじゃ。職業はヤンキー。」

「あぁ、やっぱりそうなんだね。何かこう絵に描いたようなヤンキーぶりだから話すの正直怖かったよ。」

「ほんと!?」


 嬉しさのあまり迫る私に玄道さんは少し引き気味に「う、うんそうだよ」と返してくれた。そうかー、おじさんから見てもヤンキーっぽい見た目になっているかー嬉しいなぁ。

 ところで玄道さん、私の方に来たけどその空中に浮かんだプレゼントボックスはどうするんだろ。この人の焦り様から打ち落としてから来たわけじゃ無さそうだし……


「玄道さん、プレゼントボックスはいいんか?」

「あぁっ、忘れてた!まだ打ち落とされては……無いね!よし!」


 え?玄道さんの視線に釣られて同じ方向を見たけど……プレゼントボックスなんて見えないんだけど?透過してる?


「それじゃあオウカちゃん、僕はこれで失礼するよ!ダメージが無かったとはいえ本当にすまない!また会ったらその時はよろしく!」


 そう言うと玄道さんはプレゼントボックスがある(らしい)方角へ走り去っていった。

 あの人大丈夫かなぁ……性悪プレイヤーに絡まれてカツアゲされてそうだよね。……ってあれ?玄道さんどこ行った?あれ?

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