第44話 ファッションヤンキー、破ろうとする

 第二の町、ドヴァータウンに入って直ぐにログアウトした私。昼食を食べて宿題をしたらすぐに戻るつもりではあったんだけど、勉強しながら見ていたテレビが思った以上に面白くて気づいた時には夕飯時。

 でもって満腹になった私は、睡魔に抗うことはできずベッドに潜り込んでその日はおやすんでしまったのだ……


 と言う訳で翌日。今度はささっと朝の部宿題パートを終わらせてささっとログイン。

 改めてドヴァータウンを見渡すが、なるほど。ウーノの街とは違ってそこらを歩くプレイヤーと思わしき人達の装備に個性が出始めているような気がする。それこそ短剣の人もいれば身の丈ほどの大剣を持っている人もいる。全身鎧の人もいれば……踊り子のような服を着た人もいる。防御力どうなってんだあれ。

 まぁ私も人のこと言えないレベルの装備だよね。その証拠に遠巻きに見られてるからね。ジロリと視線を向けると露骨に目をそらされるけども。


「さて、どうしよぉかのぉ。」


 意図せず口から漏れてしまったけれど、本当に何をしようか。

 装備を新調させる予定もないし、誰かと会うわけでもない。……面白そうな依頼でもないか、冒険者ギルドにでも行ってみようかな。

 えーっと、冒険ギルドまでの道は……ちょいとそこのお兄さん教えて。大丈夫、取って食ったりしないからほら教えてってば。

 終始ビクビクされたが、何とか教えてもらえた。



「バディウス流剣術道場?」


 冒険ギルドへの道すがら中世の街並みには不釣り合いな日本家屋を見つけたと思ったら表紙にそんなことが書かれていた。

 これがソレイユの言っていた道場か。……ふぅん?

 少し興味がわいたので、冒険ギルドへ向かう足を止めそのバディウス流剣術道場とやらの敷地に足を踏みしめようとしたところで――私の前にウィンドウが表示された。


"特殊クエスト 道場破りが発生しました。受注しますか?"


 お待ちになって?目を擦り、今一度ウィンドウの分を読むがそこには間違いなく、特殊クエスト道場破りという文字が表記されている。

 いや、最初にソレイユに道場の話を聞いた時、連想したよ?日々訓練に励む道場に荒々しい男がいきなり現れて「ゲッヘッヘ!この道場の看板は俺が頂くぜぇ!」みたいなシーンを。だからって私が道場破りだなんて……!面白そうだからやります!

 この間、コンマ数秒。私はすぐにクエストを受注する。


"受注を確認。バディウス道場に足を踏み入れた瞬間にクエストが始動致します。"


 ほう、足を踏み入れた瞬間。であれば……ちょっと待ってね。今悪役顔キめるから。えっと、眉を寄せて不敵な笑みを浮かべてっと。ゲームだから気にしなくてもいいかも知れないけど、着ている学ランを軽く叩き埃を払う。

 最後に頬を叩いて気合を入れて、これでよし!

 準備が完了し、私は敷地に足を踏み入れ、道場の玄関の引き戸を思いっきり力を込めて開ける。待って引き戸よ、壁にぶつかった反動で反動で戻らないで、閉まらないで。格好がつかないから。

 再度閉じてしまった引き戸を今度こそ開ける。中には十数名の人間が正座をしており、その誰もが突然の音の発生源であるこちらに視線を向けている。おぉ、思った以上に道場だこれ。


「……何者だ?その不作法からして志願者とは思いたくないが……?」


 私が道場を見渡していると、一番奥で正座をしていた丸禿にちょび髭、そして道場着を着こんだおじさんが目を閉じたまま話しかけてきた。

 志願者かー、クエストが発生してなかったらそれでもよかったんだけど、そんなのじゃない。


「いやすまんのぉ、鍛錬の途中に上がり込んで。中々格好いい看板があったけぇのぉ、欲しくなったんじゃけど。」

「それはそれは。看板を褒められて悪い気はせぬが……見ず知らずの者に渡す物ではないな。」

「残念じゃのぉ、ところでおっさんはここの師範なん?」

「然り。儂はバディウス道場の師範である、ムラカゲと申す。」


 名前バディウスじゃないんかい!もっと言えば名前日本名なの?せめて英名とかじゃない!?もしくはバディウスの方を日本っぽくしようよ!あぁ、こんなツッコミ、今声に出したら雰囲気台無しだよ!ツッコミたいなぁもう!

 何とか噴き出すのを堪え咳払いをする。しっかし、生徒と思われる人たちは結構ざわざわしているのに、ムラカゲは落ち着き払ってるなぁ。やっぱり師範となると、こういうの慣れっこだったりするのかな?


「じゃあ、ムラカゲさんよぉ。アンタを伸せばその看板くれるってことでいいんか?」

「ハハハ、それは困る。看板とは道場に置いて顔だ。名だ。おいそれと渡してなるものか。……と言ってもお主には通じぬか。」

「分かっとるのぉ。欲しいけぇ、貰うわ。無理やりにでも。」


 私は木刀を取り出し、威嚇半分、格好つけ半分に軽く振るう。

 その行動に、正座をしていた生徒の何人かが、傍らに置いていた竹刀に手をかけ立ち上がろうとしたところで――


「待て。」


 ムラカゲの重く、静かな言葉がそれを止めた。

 「ですが師範!」などと誰かが口答えするかと思ったけど、予想と反して誰もが竹刀から手を離し正座に戻る。

 その代わりに、ムラカゲがゆっくりと立ち上がり、目を開き私を見る。彼の傍らにも竹刀はある。が、それを持とうとはしなかった。ただ立っただけ。


「来なさい。」

「ほぉか。なら遠慮せずに行くわ。」


 私相手に竹刀は使わないか。いや、師範なんだから実際強いんだろう。少しは強くなった私相手に丸腰で勝てると思うほどに。ならばその油断に付け入らせてもらおう。

 まずはムラカゲに向かって駆け出す――ように見せかけてゴブリン棍棒を顔面に向けて投げつけ、同時に走り出す。

 ゴブリン棍棒は片手で払われる。そんなことは予想済みだ。私の狙いはゴブリン棍棒に気を取られているうちに接近し、威圧眼を発動させることだ。距離があれば近づく前に硬直が解除されてしまうが、近づいてさえしまえばいいのだ!威圧眼発動!これでムラカゲは硬直したはずだから、今のうちに攻撃を叩き込む!


「ッラァ!」


 私の振り下ろした木刀が、ムラカゲの禿頭に吸い込まれる。はずだった。


「甘い。」


 瞬間、私の体が後方に吹っ飛び、気付いたときには道場の壁に激突していた。嘘でしょ、"不動"も"踏ん張り所"も発動しているはずなのに!?


"パッシブスキル 踏ん張り所の効果が適用されました。"


 "踏ん張り所"の根性効果まで発動してるし!あのハゲチョビン正直舐めてました!プラス私の能力も過信してた。

 アカン、こんな絶望的なのコング・コング・コング以来なんですけど。とにかく体勢を取り直して今度は震脚を組み合わせて――あれ、あの禿は……


「"掌打"。」


 はい?


"オウカが住人のムラカゲにキルされました。"

"パーティの全滅を確認。最後に寄ったウーノの街の教会にて蘇生されます。"

"クエスト失敗を確認しました。"


 え?ウーノの街の教会?はい?

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