第42話 ファッションヤンキー、護衛を終える

 重機並みのスピードで地面を掘り始めたグランドドラグンの体は徐々に、地中の中へと潜っていき――遂にはその体が私たちの視界から消えてしまった。

 これには私だけでなく、後ろの3人もポカンとした表情である。もしかしてモグラらしく地中から攻撃かと身構えてみても一向にグランドドラグンは姿を見せない。

 そんな状況がしばらく続くと――アナウンスが表示された。


"グランドドラグンの撃退に成功しました。"

"撃退報酬として堅泥団子を5個入手いたしました。"


 討伐とかじゃなくて撃退?グランドドラグンが生きたまま逃走したからかな。もしかしたら倒していたらこの撃退報酬も少しは変わっていたのかもしれない。

 何にせよ、脅威は去ったという認識で良さそうだからリヒカルド達と合流しよう。



「恐らく先ほどのモグラは、私のクエストのボス的存在なのでしょう。商人ネットワークで聞いた情報の中で、ここらにあんなモンスターが生息しているなんて情報は無かったですから。……盗賊が関係しているかは分かりませんが。」

「モグラちゃん、可愛かったねー」


 目は可愛いともいえるけどあの大きさは可愛くなかったよ、ピンキーちゃん。離れてみる分にはいいかも知れないけど、ああいう巨大モンスターとの近接戦闘は勇気がいるよね。私もヤンキーになったつもりでいないと、へっぴり腰になる自信があるよ。

 さて、グランドドラグンの撃退報酬としてもらった堅泥団子なんだけど……本当に泥団子かと疑わしくなるくらい、黒々としていてピカピカしている。これ鉄球なのでは?


堅泥団子

グランドドラグンの耕した地面から出来る泥を固めた団子。泥とは言え、侮るなかれ。硬球の軽さで鉄球の硬度を誇る泥団子は当たると結構痛い。しかし水に浸かると泥に戻る。※現実世界で泥団子を投げてはいけません!


 一応グランドドラグンの専用ドロップなのね。テキストの通り泥団子自体はとても軽く、ピンキーちゃんが5個同時に持っても軽い軽いと泥団子を抱えた腕を上下させている。硬度は……少なくとも木刀で軽く叩いた程度では壊れない。本気で叩かないよ?貴重な投擲武器になりそうなんだから壊したらもったいないからね。


「おい、ドヴァータウンが見えたぞ。」

「ほんとー!?」


 窓から顔を出したソレイユの声に私も見たいとピンキーちゃんが言い出し、ソレイユの膝に乗って同じように窓から顔を出す。おい、だらしない顔になってるよ。

 ドヴァータウンが近づいてきたということは、この護衛の依頼も終わりだね。リヒカルドに視線を移すと、彼もその私に視線を向けて頷いた。


「オウカさん、お世話になりました。貴女がいなければ、クエストが失敗になっていたことでしょう。」

「あー……そうじゃのぉ。ソレイユだけじゃ無理だったかもしれんけぇのぉ。」

「ぐぬぬ……」


 実際にぐぬぬ言う人初めて見たよ、私。でも事実なんだから仕方ないじゃん。リヒカルドも同意するように頷いているんだし。

 そんな悔しげな顔をしていたソレイユだが、「だが!」と声を上げ、私に指をさした。


「ドヴァータウンには道場がある!私はそこで鍛えて――貴様など優に超えてやる!」

「ほぉ、道場のぉ。」


 私を超える云々はともかく、ソレイユにはリヒカルドとピンキーちゃんを護るという重要な仕事があるのだから、是非とも強くなっていただきたい。もしかしたら、ドヴァータウンでもっといい人見つけて解雇されるかもしれないけど……言わない方がいいか。

 お、馬車が止まったということは着いたのね。

 馬車から降り、目の前のドヴァータウンを見る。なるほど、少なくともウーノの街よりは大きそう。私達の他にもプレイヤーと思しき、人が街へと……ん?今まで私たちと盗賊以外人はいなかったのにどこにいたの?馬車の後方を見るとやはり何人かこちらに向かって歩いているのが見える。これは、クエストが終わったからということでいいのかな?


「これで依頼は終了です。これは報酬です。」

「おう、貰うぞ……ってオイ!」


"8000G・初級ポーション×3・初心者用ポーション×10を受け取りました。"


 ウィンドウに表示された内容を見た私は思わずリヒカルドの肩を掴む。しかし、リヒカルドは焦った様子もなくケロッとした顔で何か?とでも言いたげだ。


「これは流石に貰い過ぎじゃろうが。」

「うーん、とは言いましても私の"出張緊急販売"で買い取って貰った代金も含めてですし。ポーションはお礼ということで。あぁ、在庫の事でしたら気にしないでください。こちらで集めますから。」

「……いいん?」

「どうぞ、お納めください。それと、盗賊をけしかけた人物ですが探しだして見せますよ。ピンキーを怖がらせた罪は重い……」


 あー、うん。そう言うことなら貰っておこう。ポーション貰えるのは普通に助かるし、断るのも失礼だろうし。盗賊云々は頑張れ。

 おん?ピンキーちゃんが近づいてきて……何かを差し出してきた。これは、堅泥団子?


「オウカお姉ちゃん、ありがと!これあげる!」


"堅泥団子を受け取りました。"


「ありがとうのぉ。」

「本当はお姉ちゃんともっと一緒に遊びたいんだけど……」

「あー悪いのぉ、俺は一匹狼じゃけぇ。」

「一匹狼って自分の事一匹狼っていいます?」


 リヒカルド、言うな。


「まぁ何か困ったらいいんさい。お姉ちゃんが睨みきかせるけぇの。」

「うん!」


 最後に……ソレイユか。


「お前は残念感を失くせ。」

「最後まで失礼だなお前は!」


 最初に失礼かました奴に言われたくないんだけど?

 ……少し寂しい物があるが、出会いもあれば別れもあるというもの。私は3人と別れドヴァータウンへと足を踏み入れた。

 ――え、何ですか門番さん?何しに来たってそりゃ強さを求めて……あ、ごめんなさい言い方悪かったですから応援呼ばないで取り囲まないで。私早くログアウトしたいんだから、お昼ご飯食べたいんだから!!!

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