第278話 エレネアという少女③
「分かった...、カリンに免じてこの場は剣を収めよう」
「お兄ちゃん!」
妹の良い声が響くと、辺りが明るくなったように感じた。
「エレネア良かったね!」
妹が植物キメラに抱き寄ると、満更でもない表情でそれを受け入れるエレネア。
「ふふん...、ま..まあそいつを無駄に殺さなくて良くなったから私的にはいいけど」
「それどういう意味だ?」
「言ったでしょ?私はもう人間を食べてないの、だからこんなに小さくなってしまって、生命活動自体は水飲んでいるだけで充分なんだけど...、たまには美味しいお肉を食べてもいいかなって」
挑発的に俺の方を見てくるが、敵意というよりもただ遊びで言っているようにしか思えなくて笑う。
「ハハッ、俺の腕でもかじるか?」
「遠慮しておくわ、カリンのお兄ちゃんだって分かったら食欲失せちゃったしね」
ふと笑う彼女の表情は、普通の人間と変わらないように思えた。
(なんだ...こんな顔もできんのかこいつ...)
俺が彼女から貰っていた表情はいつも殺意と敵意のみだった為、偏った見方をしていたのかもしれない。
多分それはエレネアも一緒だったのだろう。
そのわだかまりを埋めたのは他ならぬカリンである。
(カリン...お前すげぇな...、俺とエレネアの間にある深い溝を浅い溝にしちまったんだからな...)
なんと言おうと、妹のおかげでもう一度エレネアという少女について知ろうと思えた。
母の約束がない状態の俺が彼女と出会っていれば、目があっただけで殺しあっていただろう。
仮に母の約束があった今でさえここまで露骨に嫌な態度をとってしまっていた自分が恥ずかしいとさえ思える。
(もう戦争は終わってるんだ...、昔のことを未だに掘り返すなんて俺もまだまだ青いな...)
確かに彼女に殺された王国騎士達の無念は晴らせないが、それでも彼女がそれを悔いているのであれば、俺はそれで充分なのだ。
そんな事にも今まで気がつかなったのはやはり自分が未熟なせいであろう。
(帰ったら特訓だな...、試してみたい特訓方法も考えてるし、それで再スタートだな!)
前向きに俺が考えていると、妹のやつが袖をぐいっと引っ張ってこう呟いた。
「お兄ちゃんがきたってことは皆心配してるってことだよね?、早く帰ろう...」
「おお!そうだな、じゃあなエレネア」
「ええ...私はいつでもここにいるからまた今度...」
(へっ...、いい顔するじゃねぇかエレネアのやつ...)
嬉しくなった俺は思わず笑みを浮かべるのでした。
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