第206話 純血の選択者
私は娘を部屋から笑顔で出しましたが、心の中は冷たいままでした。
というのも、そんな本の存在は聞いた事も見たこともないからです。
私は王国内に存在するあらゆる本を読んでいますが、そのような本を目にした覚えがないのでした。
私の記憶にないだけ...?ううん...間違いない...。
(カリンちゃん...、私に嘘ついてる...)
実の娘に嘘をつかれるのは地味にショックですが、重要なのはいつ彼女が“あの人”との繋がりを持ったのかと言うことです。
あの遊びを知っているのは私と姉さん...、後は...。
その人物の顔が浮かび上がった時に吐き気を催しました。
(もしかして“あの人”と面識のある人物がまだ王国内に存在しているとでも言うの?)
それを思うと少し体が震えます。
やはり姉さんに来ていて貰って良かった...。
もしこの王国内に潜伏しているというのであれば絶対に現在の輪廻教徒達とコンタクトを取ると考えている私でしたが、全く尻尾を出さないあたり警戒心が強いのだと思われます。
「“あの人との誓い”、私達が守らなくてはいけない1番大切なこと...」
私の内心は怯えていました。
また7年前にあったような規模の戦争が起きることだけは絶対に避けなくてはなりません。
結局あの戦争だって身勝手な誰かが引き起こしたのだと考えている私でしたが、7年経った今でも主犯格は突き止めれていないのです。
「もしもまたあのレベルの戦いが勃発するとなればその時は...」
そんな事考えたくもありませんが、“もしも”と言うことは起こり得る可能性がありからもしもなのです。
それの対抗策は...一応用意してあります...。
でもそれは...、本当に最後の手段なので出来れば取りたくはありません。
「やっぱ1番いいのは皆仲良く...よね?、私の考え方は間違ってなんかない...はず...」
鏡に映る自分はいつも何処か自信がなさそうな表情をしていました。
いつ見ても自分には自信が無いと思えるのです。
周りからは賢聖などと呼ばれ頼りにされる事も多い私でしたが、内心は小心者であり、国民の皆が崇拝するような“賢聖エルカ”など何処にも存在しない事を自分だけが知っているのでした...。
どんどん自分の中で不安が大きくなって行くのを感じます。
これは王国を守る聖人として選ばれた者の責務...。
それが嫌だから逃げるという選択肢すら、女神クティルに選ばれたあの時から存在しないのでした...。
(こんな苦しい思い...、自分の娘にさせたくないなぁ...)
あの子には聖人としてこの国を守るために生きるのではなく、普通に一人の人間として自由に伸び伸びと育って欲しいのです。
(純血の選択者か...、やっぱり私には重たい...、すっごく重たいなぁ...)
自分に課せられた重みを、この身で今しっかりと味わう私なのでした...。
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