第168話 妹...

「あっ!エルシーさんだ!」


 私の前に駆け寄ってくるのは妹だ。

 無邪気にこちらへ向かってくる姿を見ると、私が教会の前に置き去りにしたという罪悪感が蘇るのだが、それを抑えながら彼女の顔を見る。


「よっ!ヤヨイ!」


 気分が悪くなるのを悟られないように笑顔を保つ。

 それを勘付かれたのか、少し渋い顔をする彼女。


「エルシーさん...、もしかして私の事嫌い?」


 いきなりそんな事を言われたので戸惑う私。

 とりあえず、なぜそう思ったのか聞いてみる。


「どうしてそう思うんだい?」


「だって私と話すとき、いっつも苦しそうに見えるんだもん...」


 これには一本取られたと思う私。

 子供の純粋な観察眼を侮っていた。

 表情では隠しているつもりなのだが、深層心理では今こうして向かい合っているだけでもきついと感じているのが本音である。


(やっぱり隠せないのか...、ハハッ...私ってダメな姉だな...)


 そう思いながらも言葉を発する私。


「ハハッ...そんな事ないよ」


「本当?」


 少し疑わしそうにこちらを眺めてくる彼女。


「本当だって!」


 正直に言うと、妹に見抜かれた事で少し気が楽になった。

 所詮私なんてその程度だと、逆に吹っ切れたのだ。

 私は妹の肩を持ち、彼女の目をしっかりと見つめる。

 ふうっと息を吐き、静かにこう呟く。


「明日は私とカリンの舞台があることは知ってるよな?」


 彼女は静かに首を縦に振る。


「うん...」


「絶対最高のショーにして見せるから、絶対に見に来てくれよな!」


 言えた...、とりあえず今日伝えたかった事は言えた。

 それが言えただけでも来た甲斐があったと言うものである。

 私の言葉を聞いた彼女はコクンと頷き、私に笑顔で答えてくれた。


「わかってる、元々皆と行くつもりだったし、絶対に行くよ!」


「ありがとう...」


 私は思わず笑みをこぼした。

 彼女に私が姉だと告げるのはもう少し後だ。

 私の踊りを見せて、あなたと別れていた時間は無駄では無かったんだと思って貰いたい。

 ただそれだけの為にここにきて明日ショーを見に来て欲しいと伝えているのだ。

 私があなたのお姉さんなんだよと、そう伝えるのはショーが終わった後でいい。


「待ってて...、あなたが見たこともない最高の踊りを見せてあげるから楽しみにしててよね!」


 私が彼女にウィンクをすると、妹は笑っていた。


「あっ!!今初めて心から笑ってくれた!」


 彼女はそう言いながら私を指差した。


「そ...そうか...?」


 少し照れ臭くなった私は、彼女に見られないように背を向き、心のそこから安堵の笑みをこぼしていた。

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