第76話 なんでこんなところに?

「先生!こっちです!」


 私は急ぎ足で最後に彼らを見た場所に戻ってきた。

 そして彼らが消えて行った場所を指差すと、先生は何やらブツブツと呟いて魔法を使う。

 すると、2人分の子供の足跡が氷で浮かび上がってくる。


「凄い!氷で足跡がくっきりと形取られてる!」


「この先に2人がいるはず、カリンさん油断しないで進みましょう」


 私達は森の奥に進んで行く。

 少し進むと、聞き慣れた声が聞こえて来たので私は駆け出した。


「にーに!?」


「カリン!?、何故こんなところにいるんだ!?」


 いつもと違う騎士団の服に身を包んだ兄さんの格好を見ながら私は驚きの声を上げた。


「...ローシュか?」


 先生が疑問に思うような声でお兄ちゃんに聞いています。


「うん?、あんたは...もしかしてプラム姉さん

 か!?」


「そうですローシュ、私はプラムです」


「まじで姉さんか!全く見た目が変わってないからすぐにわかったぜ!」


 2人は面識があるのだろう。

 言葉の選び方がそう思わせる。

 一応母さんの姉さんなんだから面識が無い方がおかしいか...。

 一応先生に聞いてみる。


「先生...その...500歳って本当ですか?」


 その言葉を聞いた先生の拳がプルプルと震えている。

 兄さんは今にも吹き出しそうなのを、口を押さえて耐えていた。


「カリンさん?誰にそんな事を聞いたんですか?」


「えっと...母さんからそう聞かされました...」


 明らかに表情が普通じゃない。

 先生の顔がどんどん怖くなって行くのを見た私は思わず話題を変えた。


「にーにはなんでこんな所にいたの?」


 兄さんはすぐに答えてくれた。


「実はこの辺で人が行方不明になっているという情報を得たんで調査にな、結果は正解だったわけだ...、こんな所ににどうしてカリンの友達が2人もいたのか気になってたんだが、プラム姉さんを見て確信した」


 先生はやれやれと言うように手を振った。


「そうよ、最近エルカのやつにカリンの教師になってくれって頼まれちゃって、仕方ないけど他の子の面倒も見る立場になっちゃった訳」


 だが今はそんな話をしている場合ではない。


「それはいいとしてにーには2人の場所を知っているの?」


「ああ、そうだったな話は後だ、プラム姉さんあいつを見てやってくれ、酷い怪我なんだ、一応持っていた薬草で手当てはしたんだが、全然足りなかったんだよ」


 兄さんの案内でトウマの居場所がわかった。

 私達が急いでその場に向かうと、全身を草塗れにされた彼が寝転んでいる。

 フレイも立っていたのだが、私はトウマの方にしか目が行かなかった。

 明らかに異常な数の傷口が見えるが、薬草のお陰で出血は止まっているようだった。


「止血だけはしといた、けど俺では傷を治せんから、回復の魔法をかけてやってくれないか?」


 兄さんが先生にそう言ったので私が制止した。


「カリン?」


 驚いたような声を上げる兄さんに対して私はこう答えた。


「友達の傷くらい私が治してみせる」


 上着を脱いでトウマの体に手を当てる。


「まあ見ておいて、私もそこそこにはやれるはずだから...」


 意識を集中させてあの呼吸をする。

 風を肺に入れて持久力を高めながら魔力を練る。

 風の力を借りながら魔法の癒しの能力を底上げするイメージを行う。

 そう、この感じ、いいリズムが取れている。

 そして少しずつ彼の細胞に働きかけて傷を癒す。

 しっかりと丁寧に傷口を塞いで行く。

 かなり疲れるがどうにかなりそうだ。

 この魔法は何度か家で練習していたので自信はある。

 ワザと自分の手に針を刺して小さな傷を作り、それを治す練習を最近は毎日行っていた。

 それと同じ要領でやるだけなのでできないことはない。

 ただ、家の裁縫用の鉢と違い、殺傷用の鉢なので傷が深く、治すのには時間がかかりそうだった。

 それを見たアアルが急に頭から降りて来て魔法コントロールの補佐をやり始めた。


「カリン、僕に任せてよ、たまには役に立つって所も見せないとね!」


 両羽を広げ魔力を供給してくれるお陰で早く治せた。

 だいたい3分くらいで完治したので上出来だ。

 私がふうっと息を吐くと、2人の驚く顔が目に移った。


「何?何か私の顔についてる?」


「いや、いつのまにそんな高度な技術を覚えたんだ?召喚獣に魔法の補佐をやらせるなんて...」


「カリンさん、あなた実はとんでもない才能を発揮してしまったのかもしれないですよ...」


 よくわからないがアアルが私の回復魔法の補佐をやった事と関係があるのだろうか?。

 おっと、今はそんなことよりもトウマの身の心配だ。


「目覚めてよ...」


 私はトウマの手を強く握りしめて様子を伺った。

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