ボクの彼女の空想日記

ぱすたぱ

日記 始まり 2019/10/30

───今日から日記を書こうと思う。


そういってスマホのメモを開いたボクに、彼女の訝しげな視線が突き刺さる。

「今まで何回挫折してきたか覚えてないの?」

「さて、どれぐらいになるだろうね。5回、いや8回かな?」

大体の数字は出せるが、正直言って覚えていない。それぐらいには何回も挑戦しているので、彼女の反応は至極当然といえる。


「ただの日記じゃないんだ。ボク一人で、単にその日の事を綴っていても続きそうにないから、こうして君と会話するような形式にしてみたんだ。これなら大して書く事がなくても、なんとかなる気がするんだよね。」

そんな事のためにわたしはここにいるのか。

彼女の声は、代わりにため息となってその控えめな口から吐き出された。


「最初は小説でも書こうかと思ったんだ。これを副業にして一発あててみようかな、なんて思ってね。でも情景描写やら何やら、いざ手をつけてみても全然サッパリだったんだ。だからこの日記は、その練習も兼ねてるんだよ。」

ちなみに、今日のこの日記は電車の中で書いている。

一人で頭の中の "彼女" と会話をしながら日記を綴るクレイジーな男がこんな近くにいるとは、頭が薄くなったこの目の前のメガネオヤジは気づくまい。


「こんな事で小説が書けるようになるとは思えないけど……。」

「なれないならそれはそれでいいさ。とりあえず、まずは続けるってことが大事なんだよ。継続は力なりってよく言うだろう?」

書き続けていれば、そのうち書く事自体が当たり前になって、勝手に筆が進むようにもなるはずだ。

こんな風に滔々と頭の中をただひたすら文字起こししているだけでも、こうしてある程度の文章量にはなってくれるのだ。

現にきょうのこの日記への取り組みだって、書き始めてからもう30分ぐらいにはなる。

こうして30分間飽きることなく続けられていること自体が、早くもこの実験的な日記の成果を表していると言っていい。


「まぁ、確かにそこそこの量が書けているように見えるけど、そんなにうまくいくかしら。」

「さあね。でもまぁ──」

なにもやらないよりはいくらかマシだろう。

これまた心の中で肩をすくめながら彼女に言う。

とりあえず手を出すだけ出してみる、後のことは知らない。

これぐらい軽い向き合い方のが丁度いい。

ボクはなんでも、始める前からごちゃごちゃと考えすぎて身動きが取れなくなってしまうタチなのだ。

何かしらカタチになるものを残すまでに時間がかかるし、結局いつもカタチになる前に力尽きてしまう。

だから今回の日記に取り組むにあたって "とにかく気楽に" をテーマとすることにしたのだ。


「でも、せっかく人に読んでもらうんだから、ある程度まじめにやらないとダメなんじゃない?ましてそれを副業にするまでのスキルアップとしてやるんだから、ある程度のクオリティには仕上げないと。」

「それは勿論、ある程度意識はするさ。実際この日記を投稿するまで、何度か読み返してるしね。とりあえず、気がつく範囲で誤字脱字はチェックしたし、自分が読んでいて心地いいリズムになっているかとか、ある程度の事は見てるつもりだよ。」


まぁしかし、とりあえず全部が全部手探りなわけなのだから、焦らずじっくりやっていこうと思う。

そのうち、こんな変な日記だかエッセイだかわからないものを楽しみにしてくれる、奇特な読者が現れるてくれる事を、とりあえずは祈っておこう。

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