#Functionyou;diVe-Ⅱ "Puzzling"

唯月希

>Ⅰ


 またひとつ。

 またひとつ恋が終わった。

 そうして傷つきながら大人になるってそんな歌詞が昔の歌にあった気がするけど、全く誰のなんと言う歌だったかは思い出せない。

 それよりも、自分の残酷さに呆れている。

「…もう、俺には君の手が握れないんだ」

 別に事故にあって障害を負ってしまったとかそう言う話ではない。

 精神的に、他に好きな人ができてしまって、あたしの手を握ることに抵抗しかない、と言う意味だった。心がこちらにないのであれば、それを振り向かせる努力をすればいいとは、あたしも思う。奪い取られたくなかったら、今ある絆を強くして守る努力をすべきだと思う。けれど”もう触れたくない”と、まるで汚いものでも見るかのようなその眼は、瞬時にあたしを、ゆっくりと頭から向かっていた奈落に瞬間で叩き落として、命綱を引きちぎって、登るための梯子も外してきた。言葉は、時折心や気持ちにとっての両手になる。その一言で、暖かい手のひらに包まれたように温まることもあれば、刃物を握った両手に串刺しにされて失血死することだってあるんだ。今回のは、間違いなく研ぎ澄まされた槍で貫かれたようなものだ。一撃死に近い。ただ、心や気持ちの即死は、実際の死につながることはない。今回のあたしの場合は、気持ちの即死だった。その瞬間は、本当に殺してくれと本気で思うこともある。

 その心音停止を確認した途端に、目の前に立っていた元恋人が、只の他人にしか見えなくなった。

 取り返すなんて選択肢も、悪あがきするなんて選択肢も、何も浮かばない。

 明らかにあたしの気持ちを殺しにきた言葉をわざわざ選んできたそいつは、一瞬であたしの1秒先の世界からも消えた。

「さようなら」

 言えたのはそれだけだった。ショックがなかったかと言えばそこまで冷徹になれないあたしは、中途半端に色々言いたくなかった。何を言っても無駄なら、言う必要もない。だだの時間の無駄だ。何も言わず無言で立ち去ろうかとも思ったけど、それだとあいつは追いかけてきそうだったから、終わりを言い捨てるだけ言い捨てた。

 あたしの気持ちはまたブランクになり、あいつを想ってきたことがまるで水の泡になる。けれど、その気持ちだけは。たとえあいつを憎んだとしても、自分の気持ちだけは否定したらいけない。それをしてしまうと次にも進めなくなる。これまでも、それだけはしないように、と自分に言い聞かせてきた。そしてできればその相手への憎しみも、なるべく早く忘れるようにしないといけない。

 それには、切り替えが早いだの、薄情だの、尻軽だのと言われようが、次に進むことだ。その次が同じ恋でなくても、吹っ切ること。気持ちのモードチェンジ。頭ではわかるけれど、しかしどうやらあたしは、それがあまり得意ではないようなのだ。はっきり言って今回の一方的な別れ方は初体験に近い。これまでの別れではそれなりに優しく扱われてしまったから、引きずってしまったのだろうと思っていたが、それと比べて一方的にかなぐり捨てられた今回のような形でも、それなりの時間を共にしてきた相手がいないという喪失感はある。その固有の相手がいないというより、そういう相手がいなくなったという、ぽっかりとした穴のようなものは、確実に間違いなく寂しさを連れてくる。

 そしてそういう時に衰えてしまうのが、自分で自分を守る力だったりする。



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る