11.少女と色把
獣のような
ハッと、声の方を向き直る。庭の方からだ。
哭士の声に違いない。
荒れ果てた家内の散乱物に足をとられながら、色把は庭へと一目散に駆けた。
(一体、これは……!?)
信じられなかった。庭の中心に哭士が倒れ伏し、その脇に少女が立っている。
目を見開き、哭士を見つめているその少女は、鏡写しのような、自分と同じ姿。
「契約が結べない……身体が、拒絶している?」
愕然としている少女をよそに、哭士は苦しそうに唸り声を上げ、頭を抱えている。彼の
少女も色把に気が付いたようだ。はっとした表情を浮かべた後、少女は怒気に髪が逆立つ。
「私のすべてを奪って、それでも邪魔をしようっていうの……! アンタ! 哭士に何をしたの!」
少女が
状況が飲み込めない色把が身構える余裕も無かった。
色把の顔に、刃物の影が重なる。衝撃のあまり、目をつぶることすら出来なかった。
と、目の前を大きな物が遮る。少女の姿は、遮った影で見えなくなった。
「何するの!!」
色把が見上げると、間に入った和装の男性が、振り上げた少女の腕を掴んでいたところだった。
「……貴方の
どこか優しさを感じさせる、物静かな声だった。少女に言い聞かせるように語る男。少女の刃物をもつ手が、男の手を振り払おうと震えている。
「一旦、退きましょう。それが、賢明です」
少女の様子に声を荒らげることもなく、男性は再度静かに語りかける。少女は、
「申し訳ありません。やむを得ず、彼の動きを一時封じさせてもらいました。今、一人では歩行すら困難な状態です。彼を……哭士を、助けてあげて下さい」
丁寧な言葉遣い。一本に束ねた髪、色の白い細面な男性だ。儚げな瞳は左右の色が違い、目を引いた。
男性は色把に言葉を残し、少女の後を追って消えた。
二人が消え去った後、はっと我に返り、哭士に駆け寄る。
息が荒い。そして不規則だ。相当な体力を消耗しているようだった。助けを呼ぼうにも、山道を抜けてきたこの屋敷の周りに、都合よく人が通るとは思えない。屋敷から出れば、またあの影が襲ってきて助けを呼ぶ前に自分が
おろおろと哭士の身体に手をかけると、燃えるように熱かった。と、その時、哭士の腕がゆっくりと伸び、色把の手を強く掴んだ。
「け……いたい、菊塵……に」
うつ伏せになっている哭士の身体の下から、黒い携帯電話が見えた。何とか電波が通じている。
画面の中に菊塵の名を見つけ、即座に通話ボタンを押した。菊塵が電話に出てから、必死に電話口を指で叩く。哭士の声がしない通話の状態から、色把が電話口に居るのだとすぐに察知した菊塵は何かあったのだと感じ取り、哭士の携帯の所在地からすぐにその場に駆けつけた。
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