報道規制
20××年○月○日、1人の男が殺人の現行犯で逮捕された。
現場となったのは男の住むマンション2階の部屋。
通報したのは隣の住人だった。
「(隣に住む)男の叫び声が異常でうるさいからどうにかしてほしい」
そんな内容の110番だった。
駆けつけた最寄りの交番勤務の警察官が目にしたのは、部屋の風呂場で理解不能な絶叫をしながら既に息絶えた人を何度も何度も包丁で突き刺す男の姿だった。
その警察官は急いで応援を要請。
その間、男はずっと叫んで包丁を手放さなかった。
あまりの気迫に警察官もたじろぎ、サスマタで壁に押さえ込んで複数人で包丁を取り上げ逮捕するに至った。
家宅捜索が行われ、メディア報道も始まった。
男の部屋はゴミ一つない清潔な環境で、質素な家具家電のみで暮らしていた。しかし捜査開始時点で、内装は血液が付着していない箇所を探す方が大変なほどの惨状だった。
さらにクローゼットの衣装ケースには10以上の人の腕と脚、60本以上の手足の指、7つの眼球、その他複数の各臓器等……大量殺人の証拠が次々に見つかった。
被害者はまだ複数人いる。未知の連続殺人事件だと報道は加熱していった。
近隣への聞き込みで、よく男の家を訪れていた1人の女性が浮かび上がった。
警察は突入時の被害者はこの女性の可能性が高いと睨んだ。
一方、取り調べが行われるとこの事件の異常性が一筋縄ではいかないと判明する。
刑事が男になぜ殺したのか、動機を聞いた。
「ころさないと……殺さないと……いけないから……」
「だから、それはなんでだ?」
「あの女が…………殺してくれって……でも死ななかった…………何回刺しても……何回殴っても……切り落としても…生えてきた……トカゲの尻尾みたいに……43回……繰り返した…………」
刑事はため息をついた。
どう考えても男の言動は常軌を逸していた。
裁判にかけても精神鑑定は避けられないだろう。
しばらくして殺されていた被害者についていくつかわかった。
1つ目は女性だということ。
2つ目は身元は未だ不明だということ。
そして3つ目は、男の部屋から発見された遺体や複数の人体の一部、壁や床や家具に付着した血痕のDNAが全て一致したということ。
つまり、警察官が突入した時に男が風呂場で刺していた著しく損壊した遺体も、部屋中を染め上げていた膨大な血液も、クローゼットで見つかった手足臓器等は全部同じ人間、もしくは一卵性双生児等のものということになる。
意味不明に思えた男の供述は、あながち嘘では無いかもしれないと警察内で混乱が起きた。
この結果を受け、警察はすぐさま報道規制を敷いた。
そのためこの事件は単なる狂った男の単独殺人事件として、次第に世間から忘れられていった。
現在もひっそり裁判は続いている。
被害女性が誰だったのか、未だ不明である。
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