JKの絆
朝の通勤は憂鬱だ。特に月曜日は俺に限らず仕事や学校が嫌な人が多いだろう。
それに加えてこの駅の混雑具合、勘弁してくれと思う。そして人が入るだけ押し込まれる電車を使わなきゃいけないとあれば、ため息も1つといわず3つ4つも出てしまう。
行きたくなさが身体にも現れたのか、久しぶりに寝坊をしてしまいいつもの時間より遅めの出勤になりそうだ。遅刻はしなさそうだが、あまりいい気はしない。
電車が来るまで、まだ5分ある。
この待ち時間にやることがないのもつまらない。
スマホ…は見たりするがニュースとメールの確認くらいしかしないから、それが終わるといつもぼーっと反対のホームを眺めている。
今日は向かいのホームに女子高生が多い。俺が普段乗る電車より何本か遅いから、被る人も違うんだろう。キャイキャイ友人同士で会話している姿に若さを感じる。
♪〜♪〜♪と電車の到着を告げる音楽が流れた。と思ったら向かいのホームの音楽だった。案内板を見ると俺の乗る電車はまだ2分先だ。
「いやぁーッ!!!」
突然の悲鳴にホーム中の人が顔を声の方角に向けた。
反対ホームの線路に1人の女子高生が落ちている。
でも急ブレーキの電車は、地面を揺らしながら直前まで迫っている。
危ない! 俺は思わず目を背けた。
――予定通りホームに停車した電車。緊急停止ボタンは間に合わなかったようだ。
朝から嫌なものを見てしまった。俺の周囲からもあちこちで溜息が聞こえてきた。
「あ、出てきた」
誰かが言った。
電車の下、車輪の横から黒く汚れた制服で女子高生は這い出てきた。ギリギリでホーム下の窪みに入って助かったのだろうか。
「すみまーせん、ちょっと開けてくださーい」
こちら側のホームの混雑をかき分けて駅員が4人、ホームに降りて少女を保護した。
今度は周りから安堵の声が漏れた。
それも束の間、駅員の持ってきた担架に担がれた少女が騒ぎ出した。
「アイツら、アイツらの誰かが私を押した!! アイツら全員捕まえてよーッ!!」
その様子はヒステリックというか、癇癪を起こしたように喚き散らすから、必死に抑えようとする駅員が困り果てていた。
線路から駅員と少女が脱出すると、お詫びのアナウンスと共にその電車は発進して行った。
その車内。俺は気づいた。
動き出した車両のガラスから30人近い女子高生達が同じ能面みたいな顔でじっと一点を見つめていた。
視線の先は担架で運ばれ階段を上がっていく少女。
電車は遅れた予定を取り戻すため、早足でホームを抜け出していった。
彼女らは見えなくなるまでずっと落ちた少女の方を見つめていた。
その眼は、一心不乱に蟻の行列を踏み潰す幼児のそれだった。
少女と彼女らに一体何があったかはわからないが、二度と彼女らに鉢合わせたくないので、もう寝坊はしないと心に誓った。
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