第39話 カラーヒヨコvsドラゴン


 強い日射しの荒野。

 巨大なドラゴンとカラーヒヨコがハッキリとした陰影を作る。

 睨み合う両者。

 

 ただ事では無い雰囲気を察したのか、猫と鎧君がドラゴンの体から離れた。


 「アレ……フクロウだよな?」

 合体を途中からしかみていなかったのだろう、いつの間にかに俺の隣に現れた猫が聞く。


 「そうだ」

 

 「なんだか……無茶苦茶に強そうですね」

 こちらに近付きつつ、唸る鎧君。


 そうか? カラーヒヨコだぞ?

 だが、実際に強いのだろう。

 その証拠にさっきからドラゴンが睨み合ったままで、身動きひとつしない。


 「本当に強いのか?」

 猫は懐疑的に見ている。

 「なら、さっさとやっつけてしまえばいいのに」


 「アレは、神経戦です」

 鎧君が解説。

 「相手の隙から次の一手を考えているのです、それを相手に読まれて、その返しを準備して……動いて無いように見えて、実は動いているのです」


 「ほう? 俺には寝ている様にも見えるんだが?」

 眉唾な話だと猫。

 「目も瞑っているようだし……」


 「何をいっているんですか、心眼ってヤツですよ」

 力瘤を握る鎧君。

 「微妙に揺れているでしょ……アレは重心を移動させながら隙を造り誘っているのですよ」


 「ただ、船を漕いでいるのかと……」

 

 「だから、寝てませんよ」

 冷たい流し目で猫を見つつ。

 「これだから……素人は」


 「なんだよ」


 「あそこの、草の玉が見えますか?」

 ドラゴンとカラーヒヨコの間の横に転がっている枯れた草の玉を指差し。


 「ああ、さっきからユラユラしているな」

 

 「アレが風で吹かれて、両者の間を転がった時が合図です」

 ムフッ!

 「一気に決まりますよ!」

 

 そして、その時はわりとスグにやって来た。

 一陣の風。

 コロコロと間を横切る草の玉。


 ……。

 

 コロコロ。


 ……。


 コロコロ……カサッ……。

 俺の足元に引っ掛かる。


 「何も起こらないじゃないか」

 チラリと鎧君に目をやる猫。


 「アレ……おかしいな?」

 首を捻る鎧君。


 「私……見てきましょうか?」

 ランプちゃんが手を上げた。

 「小さいから気付かれずに近付けると思うので」


 「ああ、気をつけてな」

 俺は頷いて返した。


 「あれでもフクロウなんだから、昼間は寝ている時間だろ?」

 

 「だから、それは有り得ません……敵を目の前にして寝るなんて幾らなんでも」

 少し考えて。

 「今、動かないのは何か深いわけが有るのでしょう……常人には理解し難い何かか見えているのかも……」


 その二人の会話の間に帰って来たランプちゃん。

 「寝てますね」


 「!」


 「……起こしてやれ」

 猫に一言。

 「ドラゴンも寝ているのか?」

 これはランプちゃんに。


 「いえ、ドラゴンさんは起きてます……どうも不思議そうに見ていました」


 成る程……目の前で寝られてそれが逆に罠だと勘違いして動けなかったのか?

 お互い……馬鹿で良かった。


 そうこうしているうちに、猫がカラーヒヨコの後ろに到着。

 今回は、相当に呆れたのかユックリ歩いての事。

 そして、ヒヨコのお尻を剣でプスリ。


 カッと目が見開かれたヒヨコ。

 それが合図と為ったのか、ドラゴンが動いた。

 口を開き火の玉を撃つ。

 同時にヒヨコも口を開いては丸い光の和ッかを連続して発射。

 それがお互いの真ん中でぶつかり爆発して消える。


 なんだこれ……古い特撮?

 怪獣映画か?


 ドッカン。

 バッチん。

 ギエーにガオー……。

 お互いその場をあまり動かずに手と羽と、尻尾と尾羽、牙とクチバシ、そして火の玉と光線……。

 見ようによっては幼稚園児の取っ組み合いにも見えた。


 「流石、プロの喧嘩は違うね」

 鎧君に目を流しての猫。


 「……」

 たぶん、情けない顔になっているのだろう鎧君。


 「まあ……だが、互角にはやれているようだぞ」

 少しだけ可哀想になってしまったので助け船。

 

 「だな」

 猫も頷き。

 「俺達も参戦すれば……流れも変わるだろう」

 

 「……はい」

 凹んだままに前進を開始する鎧君。


 それを見て肩を竦めた猫も煙に成った。


 俺もそのままパチンコを撃ち始める。

 



 状況は一変した。

 ドラゴンは明らかに劣勢に為ったと自身でも理解したのか妙に甲高い雄叫びを上げる。

 てっきり諦めの悲鳴かと、思ったのだがそれは甘い考えだった。

 仲間を呼んだのだ。


 塔の上からゾロゾロと飛んで降りてく来た。

 最初の弱い方のドラゴンだが、数が増えるだけでその驚異は跳ね上がる。


 俺は狙いを空を舞う四つ足ドラゴンに切り替えた。

 兎に角、制空権を取られるのは絶対にマズイ。

 次々と羽を撃ち抜いて落としていく。


 カラーヒヨコも切り替えたようだ。

 空に舞い上がり空中戦を繰り広げている。

 

 あのポッテリした体に小さい羽で良く飛べるもんだと感心してしまうが……そういう世界なのだろう。

 リアルに考えても仕方無い。

 そもそも目の前のドラゴン自体がリアルじゃない。


 そして、カラーヒヨコは空中戦でも強かった。

 格上の二本足ドラゴンと互角に戦えるのだ、それは当たり前のことだろう。

 飛ぶ速さでは四つ足ドラゴン。

 だが、カラーヒヨコには飛び道具が有った、口から出す光線。

 首を捻り、狙いを済まして、次から次にと撃ち落としていく。

 俺の羽を狙って地面に下ろすだけとはわけが違う。

 完全に仕留めていた。


 「こっちに加勢は無いのか?」

 猫が悲鳴を上げている。

 

 俺の落とした四つ足ドラゴンが増えているのだ、確かにヤバイ。

 「一旦、離れろ」

 銀玉を爆竹に変えて砲撃体制に入った。


 狙いもそこそに撃ちまくる。

 アチラコチラでドカンドカン……だが、やはりパチンコで一発、一発、飛ばすのだ時間にしての数が少ない。

 俺がもう二三人は必要だ。

 ドンドン押され気味に為る。

 ヒヨコの様に俺も飛べればバラ蒔くだけなのに……。


 一瞬の躊躇。

 「合体フクロウ! 俺を掴んで飛べるか? そのまま戦えるか?」

 空に向かった叫んだ。

 躊躇は単純に飛ぶのが怖かっただけ。

 だけども今はそれどころじゃない。


 カラーヒヨコは返事も返さず、俺を左足で掴んで飛び上がる。

 攻撃自体は光線なのでそんなに飛び回るわけでもないが、それでも動きには気を使ってくれている様だ。

 急な加速も急旋回もほとんど無い。


 「猫も空中戦を頼む! 兎に角下に落としてくれ」

 爆竹の準備を整え。

 「鎧君は委員長を頼む!」

 叫びながら、適当に爆竹に火を着けて落とした。

 絨毯爆撃ってやつだ。


 猫の空中戦も凄かった。

 瞬時に背中に現れては羽を切って次に飛ぶ。

 ただ羽を切るだけなのでしがみつく必要も無しだ。


 鎧君は委員長を庇う様に岩陰に潜む。

 上からは丸見えだが、地面に落ちたドラゴンからは見えない位置。

 そして、ソコは爆撃の影響も無い場所。

 そこにいち早く委員長を抱えて移動したのだ、流石だ。


 粗方、地面に叩き落としたのを見て。

 賭けに出る。

 爆竹の箱に直接火を着けて落としたのだ。

 四つ足ドラゴンは少し位なら残っても構わない。

 それよりも二本足だ!

 これで一気に方を着ける。


 程なく、下方で連続音と同時に大爆発が起きた。

 モウモウと上がる土煙。

 二歩足はどお為った?と、目を凝らす。


 突然、目の前に赤い玉!

 「避けろ!」

 だが、既に遅かった。

 カラーヒヨコの腹に直撃だ。

 幸いな事に、今までの火の玉とは少しばかり小さかった事か。

 二本足が慌てたのかダメージで力が半減したのかはわからない、それでもヒヨコの腹は焼け焦げていた。

 そして、俺もその爆風で大火傷だ。

 痛みは感じない。

 だが、背中と右半分がヌルヌルとする。

 鼻には肉の焼けた嫌な臭いが感じられる。

 迂闊だった。

 土煙で発見が遅れた。

 反省の代償には高くついてしまったが、次は気を付けねば……あればだが。


 スルスルと落ちていくヒヨコ。

 それでもどうにか委員長の側、比較的安全な所に降りてくれた。

 地上に着くなり合体は解けて二匹の小さいフクロウに戻ったのだが、やはり腹を押さえている。


 「ランプちゃん……フクロウを治療してやってくれ」

 無事なのは知っていた。

 さっきから俺の耳元で騒いでいるのだから。

 何をいっているのかは聞き取れはしないが……たぶん心配してくれているのだろう。

 俺の耳は駄目に成ったようだ。

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