第26話 中ボス? 大コウモリ
空高い石の橋。
学校の渡り廊下の様なものなのだろうが、それにしては位置が高過ぎる。
そして、見た目が違いすぎる。
やっぱりこれは廊下ではなく橋なのだろうと思う。
その橋の真ん中で立ち往生の俺と鎧君。
それを嘲る様に、空中から煽る大コウモリ。
ヒラヒラと舞い、時に急接近してはその自身の牙を見せ付ける。
パチンコの銀玉は何度か当てることは出来たのだが、それも効いた風には見えない。
爆竹は簡単に避けられる。
形が悪いのか、飛ぶ速度が遅いのだ。
すかされた爆竹はそのまま飛びすさり、はるか下に落ちて爆発していた。
百発百中のスキルも、狙うその時にしか効いて無い、それに今気付いた。
俺の手から離れたその瞬間、当たる迄の間に逃げる事が出来る……今まではそんなに素早い敵が居なかっただけでそれに気付け無かっただけのようだ。
何度目かの大コウモリの突撃。
それを、鎧君が受けて弾き返す。
今の所は、それでなんとか為っているのだが、それもただ避けるだけでダメージは与えられて居ない。
自動追尾のミサイルでも有れば……。
ミサイル並みの威力のロケット花火は有るのだけれど。
これも、やはり避けられるだろう。
……。
避けられても良いのかも知れない。
近くで爆発させる事が出来れば……。
ソレのコントロールは爆竹なら出来る、導火線の長さで……。
イヤイヤと、首を振る。
それは危なすぎる。
チラリと頭に浮かんだのは、ロケット花火の胴の所に導火線を短くした爆竹を結び付けて飛ばす……。
どう考えても無茶だ。
猫の弓を使うか?
俺が使えば威力100と百発百中とでソレなりに威力は出るだろう、が……致命傷まで行くだろうか?
猫の様に忍術を使えれば近付いて撃つのだが、避けられない距離まで行ければ。
待てよ。
猫の忍術……詰まりはワープだろう?
身に付けているモノも一緒に移動している。
それはどう言う原理なんだ?
煙に為って、煙が移動か?
それだと、消えて、移動して、表れる、時間がそれなりに掛かる筈だ。
だけど猫は一瞬で移動している。
これは、その場で消えて、行きたい場所で表れる……完全なワープだ。
なら、煙に為った猫に矢を放ったら、それが触れた瞬間に移動したら矢も一緒に移動か?
……。
一度、試してみるか?
「猫! 俺の隣にワープだ」
思いっきり叫んだ。
遠くで頷いたのを確認して構える。
すぐ左手に煙がわき始める。
遠くの猫も薄く煙に成っている。
俺はその煙に手を突っ込んだ。
「ナニをするんだ!」
驚いた猫が叫ぶ。
「俺の手は、橋の端に届いたか?」
ソコに火を着けた爆竹を落とした。
突っ込んだ手に握られていたのだ。
すぐ側の猫が完全な形に為るほんの一瞬だ。
煙がまとわりついて重い液体の様に抵抗が増える、それに抗えるうちに手を引っこ抜いた。
「今のはなんだよ!」
俺の手の入った辺りを擦りながら。
「実験だ」
その言葉と同時に、橋の端に落とした爆竹が爆発した。
「成功のようだな」
ヨシ! コレならイケる!
今一度、猫に向き直り。
「いいか、良く聞け」
猫に有無を言わせず続ける。
「大コウモリにしがみつく様に忍術だ、出来るだけゆっくりと姿を現せ」
現れるその時間もコントロールは出来る筈だ、ほんの少しだけど遅らせる事も。
現に今、俺の行動に驚いたのか何時もより時間が掛かっていた。
「俺はその煙に為った猫を通して直接大コウモリに爆竹を仕掛ける」
「どうやって? ソコに爆竹を出しても落ちて行くだけだろ?」
「そうだ、だから矢を一本くれ、それに爆竹をくくりつける」
「ええ! じゃ……俺は?」
「直ぐに戻って来い、連続忍術だ」
少し考え込んだ猫。
覚悟が必要な様だ。
それはそうか、危ない任務だ。
まかり間違えば、そのまま自爆だ。
それに、自分の体に爆竹を通すなんて考えただけでも冷や汗モノだろう。
「他に……方法は?」
上目遣いに懇願するような視線に即答してやった。
「無い!」
その一言の後、猫の背中から一本の矢を抜き取り、爆竹の束、20連を巻き付ける。
クルリと巻いて捻るだけでだ、だがそれだけで十分に固定されている。
それを猫に見せる様に火を着けた。
ジジジジジッと、音を発する。
もう後戻りは出来ない。
それを見た猫、大慌てで煙になり始める。
「無茶苦茶だぁ!」
そんな猫は無視を決め込んで、そのすすけた体に爆竹付きの矢を突き立てた。
遠くの宙に浮いている大コウモリが叫びを上げた。
自身に突き立てられた矢にではなく、突然目の前に現れた猫に驚いてだろう。
だが、ここから遠目にみてもその腹には矢が刺さっている。
思惑通りだ。
そして、猫は反対の塔の袂に現れた。
こちらに帰ってくる気は無さそうだ。
もう、今のヤツはやりたく無いのだろう、そんな抵抗のあらわれか?
そこから矢を放っていた。
俺もパチンコで銀玉を飛ばす。
大コウモリへの牽制と雑魚の対処だ。
そのまま暫く。
そんなには時間は経ってはいないが。
大コウモリが苛立ったのだろうか、一段と上空高く上がり俺達目掛けて突進を開始する。
その速度に乗ったその時。
大コウモリの爆竹の導火線が無くなった。
幾つもの爆発が大コウモリを包む様に起こる。
腹で爆発し。
跳ねた爆竹が、薄い膜の様な羽を吹き飛ばし。
ついでに近くに居た雑魚も巻き込んでいた。
よたよたと、だが確実に俺達の方に向かってくる。
だが、それは急降下攻撃というよりも墜落の方が似合っているそんな感じだ。
鎧君君がそれを盾で受け止めた。
その一瞬前に。
「まともに受けずに、後ろにいなせ!」
と叫ぶ俺。
それに返事をしたかどうか、もうわからない。
ソレほどの短い時間だ。
だが、鎧君はそれを見事にやってのけた。
大コウモリは、俺達が来たその方向に石の橋の上を滑って転がって行く。
一方向、真っ直ぐ遠ざかるそんな的は簡単に当てられる。
素早く取り出したロケット花火を発射した。
ヒューっと、空気を切り裂く音。
火花を噴射させて大コウモリの背中に当たり、そして勢い刺さりめり込む。
そのまま火花を開いた肉のあいだから噴射。
その火花が消えた時。
大コウモリは体の中から爆発したロケット花火に爆散されられる事となる。
後は、雑魚を適当にあしらい塔に走るだけだ。
塔にたどり着き、中に入り込めた俺達。
だが、やはりというべきか? またかというべきか?
登り階段がソコに有る。
橋の上からでも見上げる様な塔だ、ソコに螺旋階段は有って当然なのだろうが……ただ、少しウンザリとさせられた。
「ちょっと……休まないか?」
「コウモリが来るんじゃ無いのか?」
猫が外を気にしている。
その塔の螺旋階段には所々に窓が有った。
もちろんガラスなんかはまっていない、ぽっかりと開いただけの窓。
空を飛べるコウモリなら、何時でも入ってこれる。
「雑魚コウモリくらいならなんとかなるだろう?」
先の戦闘で、正直ヘトヘトだ。
パチンコで撃って、ただ走っただけなのだけど、戦いの緊張のせいなのか疲れきっている。
「雑魚だけならね」
窓の外をジッと見たままの猫。
「でも、まだ他にも大きいのが居るみたいだぜ」
その言葉に俺も外を確認する。
月の陰に見える。
先程の大コウモリよりもまだ大きいのが飛んでいた。
「さっきので終わりじゃ無かったのかよ」
「あれも、大きいけど雑魚だった様だな」
猫が欲していない返事を返してくる。
「走り、登った方が良いのだろうな?」
わかり切った事を口にしてしまった。
「そうすべきだと思うけどね」
またもや聞きたく無い答え。
俺のその次の台詞を言う間もくれずに走り始める猫。
現実逃避で休む為に喋り続けて居る事を見透かしているのだろう。
一人置いてけぼりにされそうなこの状況。
胸を叩き、脚に鞭打って駆け登る為の一歩を踏み出した。
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