第19話 魔女


 逃げ込んだそこは、今の俺達のサイズの廊下だった。

 その先に、下へと続く階段が見える。

 目的の地下だ。

 

 「委員長にはまだ出会えてはいないが……進むしかないか」


 「戻っても……探すよりも先に巨人に追い回されるだけだと思うぜ」

 猫も頷いていた。


 「取り敢えず、進むか」

 肩を竦めて。

 「委員長の事は後で考えよう」


 「それがいい」

 返事と共に歩き始めた。




 階段は比較的に短いものだった。

 あの一階からこのサイズでの事を考えるなら、地下室というよりも床下か? と、思われる。

 体感的には一階層下なのだが、地下室で良いのだろうか?


 そんな感じの扉に突き当たる。

 他に道も無い。

 ソッと開けて、覗き込む。

 

 壁に吊るされたランタンのみの明かりの窓の無い小さな部屋。

 その中央にはベッドが1つだけ、他は何もない。

 そして、その前には1人? 1体? のスケルトンが立っていた。

 こちらを見ている。

 首には白い蛇腹の首巻き、食堂の暖炉の上に飾られた絵の中の男と同じものの様だ。

 

 すわっと、パチンコを手に持ち直し。

 猫も鎧君も剣を構えた。


 しかし、そのスケルトンは溜め息と共に話始める。

 「いい加減に静かにしてくれんのか?」

 ベッドの前から動こうとはしない。


 まるで守っているようだと……良くみてみればソコには人が寝ていた。

 老婆だ。

 身動きの出来ない、寝たきりの様にも見える。

 生きているとかろうじて判別出来る、そんな感じだ。


 「さっきの娘といい……騒がしいのは勘弁してくれ」


 「さっきの娘?」

 委員長もここに辿り着いたのか!

 「今、何処に?」


 「もう居ない……私の渡したカードでここを去った」

 そう言って1枚のカードを差し出した。

 「君もここから出ていってくれ」


 チラリとスケルトンの後ろの老婆を見た。


 「私の孫娘はもう永くは無いだろう」

 そう答えて、ベットを覗く。

 「今はもう寝たきりで……意識もろくに無い」


 「しかし……」

 この世界の魔物のボスなのだろう?

 

 「私達は、君達には何もしていないではないか……配下のモノには、ただ君達をここに招待をするようには命じたが……」


 ああ……確かに、思い返せばそうかも知れない。

 近付いて来ただけっだような気もする。

 見掛ければ、逃げるか……一方的に攻撃をするかだった。


 「私は孫娘が最後の寿命をまっとうするのを見守りたいだけなのに」

 ランタンの揺れる炎に照らされて優しそうに。

 そして、骸骨に落ちる影が、どこかもの悲しそうな顔に見える。


 俺は、差し出されたそのカードを貰う事にした。

 魔物であっても肉親を……老婆であっても孫娘をと、その気持ちは胸に刺さる気がする。

 黙って、手だけを差し出した。

 謝る事は出来ない、魔物は倒すべきモノだと思う。

 他に掛ける声もない、同情はしても……正義は俺達の方だと思う。

 このカードの世界ではその筈だ。


 チラリと俺を見た骸骨……だが。

 カードを出す代わりに、大きな声を上げた。

 「ああああああぁ」

 

 その変化は俺にもわかった。

 老婆が薄く、煙に成り始めている。

 骸骨の叫びと、鳴き声とが混ざっての叫び……。

 

 そして、見た。

 今までピクリとも動かなかったその老婆が、手をほんの少しだけ動かしたのを。

 そして、それは骸骨も見たのだろう、その手をソッと握ってやった。

 最後の最後に、温かみと柔らかさが感じられたかどうかはわからない。

 その瞬間に命が終わったようだ。

 煙を掴む骸骨……。

 死んでいる骸骨が、最後まで生きようとした孫娘に泪の1つも流せないのはとても悔しいのだろう。

 最後はそんな叫びに聞こえた。


 

 

 そして……誰も居なくなった。

 骸骨もすぐに後を追うように煙に変わってしまった。

 老婆が寝ていたベッドには、そこに生きていたと言う証の様に1枚のカードが残されていた。

 

 そして、俺は終わりにすることにした。

 黙って、静かにカードを額に当てた。 

 

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