第13話 廃墟

 

 木々に光が遮られて、薄暗い森の中をさ迷う事暫く。

 屋根の崩れ落ちた民家を見付けて、その壁際で休憩をする事と為った。

 まだ魔物には遭遇していない。

 

 適当な瓦礫に腰を掛けて委員長のお弁当を食べる。

 小さなオニギリと卵焼きとソーセージにハンバーグ、そして鳥の唐揚げ。

 微妙にサイズの違うタッパーに入っていた。

 オニギリはラップだ。

 とても美味しい。

 委員長にこんな才能が有るとは驚きだ。

 いや、実はお母さんに作って貰ったとか……。

 ソレは聞いちゃ失礼だよね。

 ちゃんと委員長が作ったとして食べないとね。

 ほんとかな?

 

 「この建物、ずいぶんと古いみたい」

 食べながら。


 「崩れてるもんね」

 旨い。


 「苔も生えているし、民家のようなのに道が見当たら無いのは、それが草と木に覆われて見えなく為っているからね」


 成る程、家なのに道がないわけが無いのか。

 本来はあった筈なか。


 「草のなかに平っぽそうな所を探して、そこを辿れば何処かに出そうね」


 「村とか町とかに出れたら良いんだけどな」


 「人は居ないと思うけどね」


 「どうして?」


 「この家、そこそこの大きさでしょ」

 ぐるりと見渡して。

 「森の中にポツンと一軒、建ってたってのは不自然だと思うの、村はずれにしても町はずれにしても人がいれば道は使うと思うのよ」


 「確かに、そうか」

 森の中に道を造るのは其なり以上の労力を使うだろう。

 折角の道を放置する筈もないか。


 「見えて無いだけで、お隣さんも森に埋もれているかもね」


 「まあ、もともと人が居たかもあやしいけどね、カードの中だし」

 ソレっぽいテーマパークの様なモノかもしれないしね。


 「ソレは言っちゃあ駄目でしょ、居たっていう事にしとかなきゃ」

 笑い。

 「楽しく無いじゃない」


 それはそうだね、成りきりは大事だ。

 

 



 お昼を食べ終えて、各々に別れて崩れた家の回りを探る。

 不自然に木と木が離れている場所があやしいと委員長の意見に従って。

 

 「ここ、だと思うわ」

 わりと直ぐに見付けた様だ。


 その委員長の側に皆が集まってくる。

 確かに、草を掻き分け足で踏むその辺りは平坦に感じる。

 

 「こっちね」

 委員長が先頭を切って進み出す。

 

 良く見れば草木の影に瓦礫も見える。

 壁か塀か、崩れてはいるが人工物だ。

 それらと足下からの情報で進むべき方向を決めたのだろう、迷う事なく進んでいる。


 暫く進むと、木と草の中の人工物が隠れる事をやめて、もう探さなくても見付けられる。

 そして今、歩いているのがちゃんとした道だとそれらが教えてくれる。

 連なる人工的な壁。

 石を積み上げられたソレは、斜面を切り取って平にした後に切り立った崖が崩れない様にするための石組だろう、高さは胸程も無いがハッキリとソレとわかる。

 勿論、旧さも見て取れる。

 所々は崩れているし、草も延び放題だ。

 その壁はいつの間にかに反対側にも現れていた。

 石垣に挟まれた道。

 

 と、突然に歩みを止める委員長。


 見れば、両脇の壁が前にも回り込んでいて道を塞いで居るように見える。

 見えるだけで草に隠れた先には人が通れる程の穴。

 トンネルの様だ。


 その委員長、俺を見た。

 

 頷いて、肩を竦める。

 言いたい事はわかる。

 俺に先に行けという事なのだろう。

 今回は狭くは無いが、穴が有ればソコに先に入るのは俺と決まっているらしい。

 

 前に出て、中を覗く。

 そんなに奥が深いわけでも無さそうだ、先に明るい光が見える出口なのだろう。

 逆Uの字のアーチ型トンネル、壁も天井もしっかりしている、水が滴り壁に伝っているが崩れる心配も無さそうだ。

 ただ、傘が欲しい気はするが……仕方無い、どしゃ降りという程でもないし諦めて中を進む。

 無い物は無い。


 暗くひんやりと湿った空気の中、ランプちゃんの灯す明かりが無ければ足元も見えない。

 だが、そんなだからか草も這えてはいないそこは幾分かは歩き易かった。

 床が濡れて滑るその分も加えても、今までの道とは大違いだ。

 歩く速度も意識しなくても速い。

 直ぐに出口に辿り着く。

 目の前は崖。

 道は斜面に沿って右に続いて、下っている。

 コチラ側は石畳の舗装がしっかりしているのか草も少なくハッキリと道として残っている。

 少ないと言っても半分以上は緑なのだけど、さっきまでよりかはマシ……そんな感じだ。

 そして崖の下、開けた眼下には石で造られた町が在った……森に飲まれた町。

 ただ、全体は見えない。

 谷なのか盆地なのかはわからないけど、白い靄に覆われていた。

 その見える範囲だけでも町だとわかる、これはソコソコに大きな町なのだろう。

 

 「チョッと、大丈夫なら声を掛けてくれてもいいんじゃない?」

 背後、直ぐに委員長の声。


 「あ……ごめん」


 「まあ、わかるけど……なかなかに幻想的な景色ね」

 委員長も息を飲む。

 「見惚れてしまうのもわかる気がするわ」


 「老いて死に絶えた町……」


 「町を糧に成長を続ける森」


 俺と委員長が同時に呟いた。

 俺は町を見て。

 委員長は森を見たのだろう。

 そのどちらの視点から見ても共通して見えるもは緩やかにだが確実に流れる時間だ。

 止まって見えていても決して止まらないモノ。

 残酷と見るか。

 慈愛ととるか。


 「さあ、行きましょうか」

 委員長が歩みを始めた。


 俺も黙って付いていく。





 坂は壁面に沿って緩やかにカーブをしながら下がっていた。

 そして、降りる度に少しずつ靄が濃くなっていく。

 町の入り口に着いた頃には、視界が自分の回りだけに為っていた。

 

 「ねえ、こういうのって……家の中に宝箱が有ったりするのかしら?」

 

 「ゲームだとそうなんだろうけど……」

 建物ってのも初めてだし、なにより廃墟だしなあ……。


 「魔法の武器とかは無いかしらね?」


 「魔法の杖……とか?」

 モノそのものは無いのだろうけど、カードの1枚くらいは有っても良さそうな気がする。

 魔物のドロップだけって事も無さそうだしと、空っぽの鎧を見た。

 駄菓子屋に売ってるくらいだしね。

 「ツボとか宝箱でも探してみる?」

 折角なのだから宝探しも良いだろう、一目散に出口を目指す理由もないのだし。


 頷いた委員長。

 手近な建物に入っていく。

 選んだ基準はわからない、そこは委員長にお任せだ。


 崩れた壁を乗り越えて中に。

 入り口を探すまでもない、何処なとが崩れて好きに入れる。

 屋根も無いので、室内とは言いにくい状態、草も木も適当な感じに生えている。

 そんなだから、勿論家具らしきモノもない塀に囲われた中庭状態だ。


 「駄目ね……次に行きましょう」

 一目で、探すまでもないと移動をする。


 次の建物は、申し訳程度だが屋根が残っていた。

 それを探して選んだのだろうから当然か。


 さっきの家よりかはマシだが、まだ室内とは見えない。

 次に移動。


 今度は確実に屋根が残っている所をと目で見て確認し、次々と奥へと進んでいく。

 

 そして、立ち止まった委員長。

 「崩れ掛けてはいるけど、ちゃんと屋根が残っているわね」

 見付けた様だ。


 しかし、これは危なく無いのだろうか?

 入った途端に瓦礫で生き埋めなんて洒落にも為らない。


 が、そんな事は気にしてないのか躊躇もせずに中へと進む。

 

 中はギリギリ室内という感じだ。

 歪んだ隙間から光が漏れ込んではいるが、床もの残っているし草や木の侵食も少ない。

 が、家具らしきモノは見えない。

 時間に食われたのだろう、腐り、崩れて瓦礫とかしているのだろう、壁際に見える小山がそうだと思われる。

 

 「ここも駄目ね……」

 

 「無理そうだね」


 「次を探して見ましょう」

 諦める気はない様だ。

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