第8話 装備とスキル

 

 どうにかランプちゃんの退治は回避されたようだ。

 委員長もおとなしくしている。

 まあ……本気じゃ無いと思いたい。

 ただの冗談だと。


 俺は、委員長の捨てたカードを拾い。

 それを猫に当てた。

 「猫のカードなら、仕方無いよね」

 何故か、言い訳じみた事を呟きながら。

 誰に対しての……なのか、委員長をチラリと見る。


 別段、異議がある風でも、怒っている様でも無さそうだ。


 カードが煙に為り。

 そして、猫の脚に長靴。

 手には手袋。

 頭に羽の刺さった帽子、耳はうまく避けられている。

 お尻程まで下がったマント尻尾が有るからその丈か。

 腰には、細剣。

 それらが普通に確認出来る。

 一目でわかる。

 何故なら、猫が二本脚で立っているからだ。


 「ニヤ」


 「擬人化したわね」

 委員長も目を剥いていた。


 「これで、喋れないのが不思議な程の変わり様だ」


 「そのうち……喋るんじゃないの」

 

 「そうだね……そんなカードも在るかもね」


 「まぁ武器も持っている様だし、これからはキチンと仕事してもらわないとね」

 腕を組、二本脚に成った猫を見下ろして。

 

 それは、猫に闘えと言うことか。

 出来るのか?

 成りは変わったし、武器も装備しているけど。

 サイズが変わったわけではない、猫のままだ。

 小さすぎないか?


 その猫、頷いて。

 武器を半身に構えて、突きのポーズをとっている。 

 一応は様に為っているよ。

 やる気にはなっているようだ。


 「で、おチビのカードはナニ?」

 委員長がランプちゃんを睨んでいる。

 もう既に名前ではない。

 自分で付けた筈の名前なのにだ。


 ランプちゃんが背中に隠したカードを覗き込む委員長。


 取り上げられるとでも思ったのか、必死に隠そうとする。

 

 「そのカードも、もう人間には使えないんだろ?」

 委員長に聞かせる様に、少し声を大きくして。


 頷いたランプちゃん。


 俺も頷いて手を前に出す。

 「当ててやるから貸して」


 チラチラと委員長を警戒しながら、おずおずと前に。


 それを取り、目の前に立ててやった。


 そのカード。

 天使の絵が描かれている。

 そして、下の方には……回復とある。


 「チィッ!」

 背後から聞こえる舌打ち。

 覗き込んで居たのだろう、すぐ耳の後ろで聞こえてきた。


 それに慌てて、額を付けたランプちゃん。

 カードが煙となり消えて。

 同時に身体から、一瞬だけ少しの光を発する。

 そして、頭の上に光の輪っかが現れた。

 それ以外には、変化がない。

 が、光る輪っかだけでもインパクトはある。

 

 「回復って……魔法かな?」

 そう聞いた俺に対して頷くランプちゃん。


 「怪我が治せるの?」

 委員長が睨む。

 「ここ、さっきので擦りむいたのよ」

 と、肘を前に出して反対の指で指した。

 「治療してみて」


 見れば、ほんの少しだが血も出ていた。


 それに小さく返事を返して。

 ゆっくりと羽ばたきながらに近付き。

 その傷を見て頷いた。

 おもむろに指を口に入れて、傷に唾を塗り込んだ。


 え! そんな遣り方?


 委員長も、目が点だ。

 「何よそれ、お婆ちゃんの知恵的なヤツ?」

 大きな溜め息を1つ。

 「期待した私がバカだったわ」

 そう言い捨てて、歩き出す。


 「何処へ?」

 後ろ姿に声を掛けた。


 「カード……じゃ無くてモンスターを探すのよ」

 キョロキョロと辺りを見ながら、先へと進む。

 「何時までもここに居ても仕方無いでしょ」

 


 



 草むらから道に戻り、歩く事暫く。


 「モンスター……居ないわね」

 

 先頭は猫が歩き、その後に続く委員長が退屈そうに呟いた。


 「そうそう、出会うモノでも無いんじゃ無いかな?」

 そうそう頻繁に襲ってこられたら、身が持たないし。

 たまに会うくらいでないと命が幾つ有っても足りはしないと思うんだが。

 

 「いい、今度カードを見付けても触るんじゃ無いわよ!」

 大きめの声で。

 「先ずは私に教えなさい!」

 ランプちゃんと猫に対しての命令……だな。

  

 しかし、この道。

 何処に続いて居るのだろうか?

 真っ直ぐでは無いけれど、でも大体の方角には向かっている様だ。

 太陽の位置が常に右斜め前に有る。

 くねくねと大きく曲がっていて、腰ほどに伸びた草の壁もすぐ側の細い道。

 さっきのモンスター、コブリンと言ったっけ、その背よりも草の方が大きい。

 ってことは、曲がった影に隠れて居て、いきなり出くわす事も、横の草から突然に出てくる可能性も有るわけだ。

 行き先も、モンスターの位置も何もわからないこの状態、委員長は不安に成ったりはしないのだろうか。

 後ろ姿を見ている限りは、そんな事を微塵も考えて無さそうだが。

 それが余計に不安にさせられる。

 左手に持ったパチンコを放す事は出来なさそうだ。

 もちろん、右手はそのゴムに手を掛けたままで。

 

 「あの……犬のカード」

 相変わらずの唐突な切り出し。

 というよりも常に喋ってないか?


 「前の洞窟で見付けたヤツだろう?」


 「アレ、無かったわね……ここに来たときには」


 「ああ、たぶん洞窟で、使わなかったから無しに為っているんじゃ無いかな?」


 「たぶんそうなんでしょうね、なんか勿体なかったわね」

 チラリと猫を見て。

 「犬だと臭いかナニかでモンスターを探せそうなのに」


 猫に対してのダメ出しか?

 嫌味か?


 「そのうちにまた拾うだろうから……その時に」

 そう言い終わらないうちに、委員長の側の草むらが動いた。


 突然にコブリンが襲い掛かる。

 背丈のわりには跳躍力が有る様だ、委員長の頭上から掴み掛かろうと、空中から両手を伸ばしている。


 咄嗟にパチンコを向けて撃った。

 近くなので狙う必要も無くに素早く。


 「きゃっ」としゃがむ委員長の頭上でコブリンが煙となり消えた。


 「チョッと! こんな近くで撃たないでよ」

 頭を抱えて。

 「今のナニ? 不発?」

 

 それは聞き流して。

 辺りを確認する。

 ランプちゃんも高くに飛び上がり警戒している。

 

 「たまたま不発で良かったけど……あんな近くじゃ爆発に巻き込まれるじゃないの、考えて撃ちなさいよ」


 猫が耳を動かして確認したのか、俺に頷いた。

 ランプちゃんを見る。

 

 「その一匹だけの様です」

 と、頷いた。


 「チョッと、なんとか言いなさいよ」

 相変わらずにうるさい。


 「今のは小石だ、癇癪玉は使ってない」

 さっきので危ないのはわかったのだから、そうそう使いはしない。


 「……そうなの」

 ゆっくりと立ち上がり。

 「でも、それでも当たったら危ないじゃないの」


 そのようだな、今の小石でもピストルくらいの威力は有りそうだったし。

 それに、少しズレた気もする。

 形が悪いからだろうか、真っ直ぐに飛んで無い。

 これも、少し考えないと。


 「怪我は無い?」

 少し話題を変えて。


 その俺の問に、両手で自身を確認する。

 「大丈夫みたい」


 「アレ? さっきの擦り傷は?」

 右の肘か? 左の肘か? どちらにも傷の跡形もなく、無くなっている。


 「あ、治ってるわね」

 右の肘を曲げて確認している。


 「さっきの唾のヤツ……ちゃんと効くんだね」


 「みたいね……」

 いまいち納得の出来ない、そんな顔で。


 「しかし、もう少し慎重に進んだ方が良さそうだな」

 

 「それ……私に言ってる? うるさいって事?」


 わかっているんだ。

 「イヤ、みんなに言ってる、自分も含めて」

 取り敢えず、誤魔化してはおこう。

 もっとうるさく為りそうだから。

  

 ふーん……まあいいわとそんな顔で。

 何も言わずに、コブリンの消えた後を探る。

 だが、今回はカードは出なかった様だ。

 溜め息を付いて、また歩き始めた。

 

 俺達も慌てて後に続く。

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