第7話

「失礼します、シュバルツ殿下がお見えになられております」


物音一つさせずに、俺専属の執事が目の前に進み出て報告する。

⋯⋯小躍りしてるのを表情を変えずに見守るって、改めて凄い話だよな。


「ほら、バル。同じ名前の王太子殿下が来たみたいだよ。名前トークで盛り上がってみてよ」

「何その無茶振り!?多分向こうは俺の事なんか知らねーだろうよ」

「こっちの方が先に生まれてるのに、同じ名前とは何だよ、って難癖付けてよ」

「それ俺の首が飛ぶ奴だよな!?しかも物理的に!」


俺の取り巻き二人が楽しそうだ。混ぜてもら⋯⋯。


「殿下。現実逃避は程々に。サロンの方で御待ち頂いておりますので、早々に御向かい下さいませ」


執事さんから怒られました。

でも、一言だけ。


「難癖付けたら面白いよな。両陛下に喧嘩売ってる事になるし。あ、俺も弟の名付けは賛成したんだぞ」


そう言い捨てて部屋を出る。

背後から「お前、その時一歳だろうが!」とか「流石バル!各方面に喧嘩を売るスタイル!」「素晴らしいですな、陛下にチクりましょう」「イケメン達によるイチャイチャ⋯⋯!」などと声の種類が増えていたけど気にしなくて良いだろう。




「すまんな、兄上。だが⋯⋯」


サロンに入るなり、立ち上がって話しかけて来るシュバルツ。

俺は手で制して座る様促す。俺だけ座るとか嫌な奴じゃん。


「色々言いたい事、聞きたい事はあるだろう。当たり前だよな。ただ、ある程度は予想していたんじゃないか?」

「まあ、な⋯⋯。兄上が自分は国王には向いていないと悩んでいた事も知っている」

「そういう事だよ。俺なんかが国王になったら、国民の不幸じゃんか。フレーゴラの悪夢とか歴史に残るのは勘弁な」


そう言うと紅茶を一口飲む。あ、いつもより少し甘い。疲れた心身に優しいわあ。

メイドの気遣いかな。後で褒めておこう。

俺に続いてシュバルツもカップを口に運ぶ。わざわざ俺が飲むまで待ってたのか、律儀だな。

いや、まさか毒味役に俺を使った⋯⋯?

違うね。ちょっと巫山戯てみました。


紅茶飲むだけなのに、優雅だよなあ、こいつ。俺も一応出来るが、弟の様に上品なのに雄々しい、とか謎の動作は出来ない。

良いなあ⋯⋯。


「うむ⋯⋯国民からの評価も高くないし、婚約者には愛想尽かされてるし、貴族達からは侮られ、陰口叩かれてるし、他国では知名度も低⋯⋯」

「待って待って!え、何?シュバルツ、お兄ちゃんの事、そんな風に思ってたの?」

「客観的に見た一般論だ」

「逆に傷つくわあ⋯⋯事実なだけに」


あ、最後自爆した。

まあ、俺だって解ってるよ。そう見られる言動を貫いて来たし。


「ついでに、だ。今回の一件は、婚約者が居るのに他の令嬢にうつつを抜かし、陛下の逆鱗に触れて継承権剥奪された馬鹿王子、ってなっているぞ」

「まだ半日しか経ってないのに早ーい」

「ああ。『裏』の連中が頑張って情報統制しているからな」

「おおーい。酷いよね?『裏』の設立と訓練って誰がしたんですっけー?」

「だから、だろう?」

「めっちゃ恨まれてたーっ!?」


呆れた表情を浮かべた弟は、素早く手を動かした。そして、ゆっくり首を振ってため息を吐く。


「もごっ!?も、むーっ!⋯⋯もぐもぐごっくん。うーまーもげっ!」


テーブルの上のお茶菓子を口に放り込まれたらしい。折角なので感想を言おうとしたら、もう一度やられた。

抗議の視線を向けると、シュバルツ、めっちゃ怒ってたよね。ブリザード放ってたもん。思わずフリーズだよ。

父上程じゃないけど、中々強烈なのをお持ちの様で。


「兄上。冗談でもそれは言ってはならぬだろう。誰かさんの所為で仕事が増えたというのに、自主的に動いているのだぞ。しかも、お前の望み形を叶えようとしている」


あんなに素直だった弟が兄を「お前」呼ばわりしてくる件について。


「⋯⋯もぐもぐ。解ってるふぁ。俺にょ思考を読んで、最速、最適、げほっ、ごほ」

「飲み込んでから喋れやぁぁ!」


激昂しながらも、紅茶を差し出してくれる弟はツンデレだと思うの。

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