インタールード 愛園マナカ
第69話 行動の結果
ユウトくんが戦っている。
戦うのはいつものことだけど、でも今日は普通とは違う。
普段のどこかひょうひょうとした姿はまったくなくて、身体中ボロボロで血まみれになって死に物狂いで戦っていた。
いつものように変幻自在に多彩な攻撃を仕掛けるユウトくんだけど、素人目に見ても旗色は悪かった。
見ていることしかできない自分がいやで、なにかしなくちゃと思って、でも何もできなくて。
そもそもわたしが何かしたところで、邪魔にしかならないのは明白だ。
それでもなにか、わたしにできることはないだろうか?
『女は度胸☆ 行動しなければ、何も生まれないのですよ☆』
ふと、アリッサさんの言葉が頭をよぎった。
「よしっ!」
その言葉と、ユウトくんが傷つく姿を目の当たりにして、居ても立っても居られなくなったわたしは、なにはともあれまずはこの高い木の上から降りることに決めた。
何をするにしても、ここにいたままでは何もできないから。
樹齢数百年を経ているであろう、下の方には枝がなく大きく真っすぐなクスノキの大木。
一見降りられなさそうだけど、ところどころに枝を伐採した後にできる節があった。
わたしほどになれば見ればわかる。
「節に足をかけていけば、何とか下まで降りられるかも――」
いくつかのルートを見立てると、わたしはふんすと気合を入れて、さっそく大木に張り付いていく。
ずり下がる時にスカートがぺろんとめくれちゃうけど、うんまぁ暗いから大丈夫だよね?
ちょっとえっちなミントグリーンの勝負パンツが丸見えになっちゃうのは恥ずかしいけど、誰も見てないからギリセーフなはず。
多分、きっと。
大事の前のパンツってやつだよ。
そうして、ユウトくんが戦っている姿を横目で見ながら、どうにかこうにか大木から地面に降りた、ちょうどその時。
頭を鷲掴みにされたユウトくんが高々と放り投げられる姿が目に入った。
「ひ――っ」
身体を硬くして、思わず息をのむ。
そして地面に転がって、でもふらつきながら立ち上がったユウトくんには、いつもの余裕なんて全くなくて、全身ずたずたの血まみれで、片足を引きずっていた。
力なくだらりと下がった右腕は、もしかしなくても動かないに違いない。
そんな血で血を洗う戦場にわたしが行ってもなんにもならない。
わかってる。
わたしはただの女子高生。
戦ったこともないし、それ以前に格闘技の経験すらない。
防犯講習で簡単な護身術を習ったことはあるものの、そんな形だけのものが面と向かっての殺し合いで役に立つはずもなく。
そう、わたしにはなんの力もない。
情けないまでの無力。
でもなにもしないままではいられなかった。
ボロボロになってるのに、顏だけは無邪気な幼子のように楽しそうに笑っているユウトくんを見ると、心がはりさけそうだったから。
だってあの笑顔は、動物園で見せていたあどけない笑顔とまったく同じだったから。
血まみれになって戦いながら、ユウトくんはペンギンショーを見て子供のようにほころばせた笑顔を見せているのだ。
ユウトくんにとってこの復讐戦は、心より待ち望んでいたことだから。
例え自分が血みどろになろうと、どうなろうとも、ついに手に入れた千載一遇の機会だから。
だからあんなに傷つきながらも、あんなに楽しそうに笑っているのだ。
そんなユウトくんを見ていると、心が泣きだしそうだった。
そしてそんなユウトくんが、一瞬止まったのだ。
いや違う、かわせたはずの攻撃をかわそうとした瞬間、動きを止めたのだ。
理由は簡単だ。
攻撃の先にわたしがいたから。
わたしに攻撃が届かないようにと、身体全体であまさず受け止めるように、大きく身体を広げたユウトくんは直撃を受けると、ゴム鞠のように弾き飛ばされて地面に落ちた。
それはちょうどわたしの目の前だった。
グシャっと嫌な音がして、そしてユウトくんはそのままピクリともせず起き上がらない。
どんどんと広がっていく血だまりは、人間が失っていいであろう血液の量を明らかに超えていて――。
「あぁ……ぁぁぁ……!!」
声にならない声が上がる。
目に映る残酷な事実を、頭が理解しようとしてくれない。
信じたくない光景。
そう。
ユウトくんは。
わたしを
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます