第60話《絶対剣域》アスト・ディアーロ

「ごふっ――」

 蹴り飛ばされて数メートルほど吹き飛ばされたと分かったのは、地面に激突してからだった。


「がっ、はっ――ふっ」


 背中から落下して息が詰まるが、本能的に行った受け身で衝撃はいくらか逃がすことができている。

 おかげで大事には至っていない、しかし――、


「なん……だと……」

 そこには悠然とたたずむ《蒼混じりの焔ブルーブレンド》の姿があって。


「ばか、な……ありえない……」

 《螺旋槍・十六夜乱舞らせんそう・いざよいらんぶ》は全弾直撃したはずだ。

 なのになんで――、


「エクセレント! 今の連撃は本当に素晴らしかった。蓄えていた力を半分以上もっていかれたよ。ここまでダメージを受けたのはいったいいつ以来だろうか。かれこれ300年ぶりくらいじゃあないか! 実にアメイズィング!」


「な、んで――」


「これだから《弱者の至る最強》は面白い! さぁ次はなにを見せてくれるんだい? そうだなぁ、次はそろそろその《想念》の力を見たいなぁ」


「くそ、舐めんなよ……!」


 気力を振り絞って、ふらつく身体を無理やり起こす。

 《蒼混じりの焔ブルーブレンド》が立っているのに、俺が寝てるわけにはいかないんだよ……!


 立ち上がりながらすぐ様ダメージを確認する。


 蹴られた鳩尾みぞおちあたりに鈍痛があるが、この感じだと骨も内臓も無事だ。

 アルマミース博士の研究成果たる『イージスの盾』《スーパーダイラタンシー》が瞬間硬化し、ダメージを軽減してくれたからだ。


 右足首にはまだわずかにしびれが残っていたが、これも動けないほどではない。

 《螺旋槍・十六夜乱舞らせんそう・いざよいらんぶ》の16連打による打ち疲れで重い右腕をあげると、強い意志の力でもってもう一度、拳を握り込んだ。


「16発打ち込んで半分なら、もうあと16発打ち込めば俺の勝ちってことだよな……!」

 下を向くな、気持ちで負けたら終わりだ。


 なんとしてももう一回、討滅奥義 《螺旋槍・十六夜乱舞らせんそう・いざよいらんぶ》を打ち込んでみせる――!


「《想念》が見たいって、そう言ったな――いいだろう、見せてやる」


 言って、俺は無防備に真っすぐ相手に突っ込んだ――ように《蒼混じりの焔ブルーブレンド》には見えたことだろう。


 実際には既に横に回り込もうとしている――!


「ほぅ、普段は人払いのために広範囲に放っている《認識阻害》の力を、一転集中させて我の認識に対して強烈に干渉したのか。同時に気配を殺して移動することで、完全に我の認識の外にいるというわけだ。ふむ、これがその黒猫の《想念》か――」


「分析できたからなんだってんだ?」


 原理が理解できても、対応できない事なんて世の中には山ほどある。

 仮に160キロのストレートが来ると分かっていても、それをホームランにできるのは一握りの選ばれた者だけだ。


 防御は全捨て。

 全力をスピードにつぎ込んで、奴の左懐に飛び込んで一気に決める――!


「まずは一発目、《螺旋らせん――」


「《絶対剣域――アスト・ディアーロ》」


 その言葉が発せられるとともに、《蒼混じりの焔ブルーブレンド》の周囲を覆いつくすかのように《想念》で作りだされた無数の短剣が現れると、瞬時に全方位へと発射された――!


 それは今まさに必殺の一撃を放とうとしていた俺を容赦なく襲い――、


「がっ――、は――っ」

 まるで至近距離で散弾銃に撃たれたかのように、身体中に叩きつけたれた無数の衝撃――その強烈なカウンターに俺は跳ね飛ばされ、吹き飛ばされた。


「すまないが、見たいとはいったが、その程度じゃ全然面白くはないのだよ」


 ゴロゴロと派手に地面を転がされるが……大丈夫、生きてはいる。


 一定以上の衝撃で硬化して衝撃を受け止め拡散させる《スーパーダイラタンシー》が、再び俺の命を守ってくれたのだ。


「ほんと博士には頭があがらないな……」


 ……そうだ。

 これも含めてこの日のためにできることは全てやってきたんだ。

 そう簡単にやられはしない――!


 ただ、威力を完全には殺し切れなかった。

 受けたダメージは広範囲にわたり、身体中に激痛が走っている。

 口の中を切ったせいで、口元からは真っ赤な血がこぼれ落ちた。


 そして、

「《スーパーダイラタンシー》は今のでおしゃかか」


 2度も俺の命を守ってくれたイージスの盾《スーパーダイラタンシー》はしかし、耐久値を超えたのかぼろ雑巾のようにズタボロになってしまっていた。

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