第27話 勝利への糸口

 六撃目。


 ケンタウロスをしっかり引き付けたうえで、突撃の軸線から身体をずらしつつ、しかしかわすことはせずに両手をクロスさせてガードを選択。


「くぅぅぅおおおおおっっっっ――!」


 軸をずらして威力を軽減したとはいえ、突進による強烈な打撃を受けた両腕が、ミシミシと軋みを上げる。

 威力を殺しきれずにガードごとずりずりと後ろに押し込まれたものの、


「こなくそ――っ!!」


 そこから相手の横に横にと回り込むようにステップを踏んで突進の威力を受け流し、強烈な一撃を完全にいなしきる――!


 そして威力が落ちきったタイミングを見極めて、両腕を跳ね上げ槍を弾きあげた――! 


 こうしてついに――、


「これで俺の間合いだ――!」


 足を止めての接近戦に入った――はずだったのだが。


「いけない! ユウト、離れて!」


 突進を止められ、俺に真横に張り付かれたケンタウロスが、身体を俺と反対側に投げ出すようにして、横に倒れながらキックを放ってきたのだ。


 クロの声に反応して慌てて飛びのいたものの、


「ぐぅっ、いってててて……」


 ステップバック中の俺の左肩に、蹴り足がもろに直撃してしまう。


 しかしケンタウロス自身も、大きく体勢を崩しての攻撃だったからだろう。


 倒れながらのキックはそこまで強烈と言うわけではなく、左肩のダメージも戦闘に大きく支障をきたすほどではなかった。


 ただ、それによって間合いが開いてしまい、ケンタウロスには再び大きく距離をとられてしまっていた。


 ケンタウロスはいつでも行ける突撃体勢こそとっているものの、しかし今の一連の攻防を警戒してか、様子をうかがっているようですぐには突撃してこない。


「ま、それくらいの頭はあるか」


 こっちとしても、蹴られた左肩がまだちょっと嫌な感じにしびれているので、遠慮なく回復の時間に使わせてもらうぜ。


 実のところ、今のはちょっと危なかった。


 狙って受け止め、そこから接近戦で反撃に転じようとした瞬間に、出鼻をくじくように想定外のカウンターを喰らったからな。


 ぶっちゃけ、あのキックに反応できたのは偶然の要素も少なくない――もちろん、そんなことはおくびにも出さないが。


 ここは、まるでダメージなんて受けてない、全て想定通りだったと思わせるような余裕の態度をみせることで、心理的に優位に立つべきだ。


 ――加えて今の攻防で確信したことがある。


 これは蹴りを出してくれたおかげで、たまたま偶然分かったことだが、


「あの足、横への可動範囲がかなり狭そうだな」


 倒れるように身体を横に投げ出しての苦しい体勢から、いまいち威力の乏しいキックを放ってきた。


 別にわざとそんなことをしたわけではないだろう。


 そうしなくてはあのキックは出すことができなかった――つまり人間の股関節のように広く円を描いて動かせるのではなく、ほぼ縦方向のみの動きに特化した――横への可動域が非常に小さい足回りだってことだ。


 なら――、


「突撃の様な直線機動に関してはめっぽう強いんだろうが、例えば徹底して横に回ることで機動力を大きく削ぐことができるはず」


 つまり、あの突進による一撃離脱のヒットアンドアウェイ戦法は、


「ストロングポイントの押し付けだけじゃない、同時にウィークポイントを補うための戦術でもあったってわけだ」


 さすがは複数の《想念獣》が合わさってできた《幻想想念獣ぬえ》だけのことはある。

 

「なかなかどうして、理にかなった戦い方じゃねーか。けどそれだけだとしたら――《幻想想念獣ぬえ》だかなんだかしらねーが――パワーまかせの突進しかできねーんなら、悪いが俺には勝てないぜ?」

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