第55話 お互いの立ち場

自宅。


 ショッピングセンターで乗り換えた車でアカリの車を取りに行った。いつまでも乗ってる訳にいかないからだ。

 場所はアカリが誘拐されかかった場所だった。時間貸しの駐車場に停めていたようだ。


「なんで、あそこに居たの?」


 道中、ディミトリは気になっていた事を聞いてみた。


「ん? 留学の下準備に行ったのよ」


 ディミトリが見張っていた雑居ビルには、留学のコーディネーターが居るのだそうだ。

 今日は打ち合わせに訪れていたらしい。


「ふーん…… ところで、お姉さんはどこに引っ越したの?」

「え……」


 アカリは言葉を言い淀んだ。その様子から口止めされているのだろうと推測出来た。


「ああ、言いたく無いのなら無理に言わなくて良いよ」


 ここは無理する場面では無いと思い言い繕った。変に疑念を持たれて逃げ出されては金が手に入らなくなってしまう。

 ディミトリは慎重に話を運ぶことにしていたのだ。


「ゴメンナサイ……」

「まあ、俺が君の立ち場だったら、こんな危ない奴と付き合うのはゴメンさ」


 ディミトリは笑いながら答えた。アカリは俯いてしまっている。


「駅前に漫画喫茶あるから、そこで待っていてくれる?」

「はい」

「ちょっと、家に用があるんだ。 それが済んだらお姉さんを助けに行こう……」

「分かった」


 アカリはディミトリを家に送った。降り際にディミトリは自分の携帯を渡した。アカリが使っている携帯は監視されている可能性が高いからだ。そして、そのまま漫画喫茶に向かっていった。


 ディミトリにはどうしても自宅でやらなければならない作業がある。サプレッサー事だ。壊れたままでは拙い。

 アオイを救出する際にはサプレッサーが必要になるのは目に見えている。その為にサプレッサーを作成しなおす必要だあるのだ。


 自宅に帰ったディミトリは早速3Dプリンターでサプレッサーを作り始めた。

 中身の構造を練り直す暇が無いので、複数個持っていく事にしたのだった。


 今回持っていったサプレッサーを分解してみると案の定中で割れていた。やはり熱でやられるのは変わらないようだ。

 それでも金属のケースには歪みは無かった。


(サプレッサーが長持ちしなかったのは、蓋の構造が駄目だったんだろうな……)


 銃弾を通すために穴に防音効果を高めるための硬質ゴムで蓋をしてある。ドアの様に銃弾が通過した後に塞がるようにしてあるのだ。

 ゴム形状をスダレ状にして、穴に二重に掛かるようにした。これで少しは長持ちするようになるだろう。


(試してみないと分からないがな……)


 それを二本作成した。交換用だ。


(足りないかも知れない……)


 もっとも、全て使い切るようであれば自分は生きていないだろう。

 一対複数で本格的な銃撃戦になると勝ち目が無いのは分かっている。

 今回はディミトリが探しに行くことは、ロシア系の連中も想定済みだろう。今までは、相手の油断に漬け込んで生き残れた。今度は拙いかも知れないなとディミトリは思っていた。


(まあ、それでも良いか……)


 ディミトリは出来上がった玩具を眺めてご機嫌になっていた。

 すると、ドアが急に開かれた。


「ちょっと、タダヤスちゃん?」


 ノックもそこそこに祖母がタダヤスの部屋に入ってきた。


「ぬあっ!」


 ディミトリはエロ本を眺めていた中学生のように慌てて引き出しにサプレッサーを隠した。

 祖母にサプレッサーを見られると説明が面倒くさくなるからだ。


「最近、出掛けてばかりだけど、貴方は毎日何をしているの?」


 そんなディミトリの様子を不審に思った素振りも見せずに祖母は話を続けた。ディミトリは誤解してるだろうなと思った。


「いつの間にか出掛けていて、気が付くと帰って来ているし……」

「と、友達と遊んでるだけだよ?」


 これは本当だ。

 中国系の大きいお友達と殺し合いをしたり、ロシア系の大きいお友達と追いかけっこしたりしてるだけだ。

 他には詐欺グループの大きいお友達を壊滅したりしてる。


「本当に?」

「ああ……」

「ところで、同じクラスの大串くんの噂を近所に聞いたんだけど……」


 以前に外泊した時に、大串の家に泊まっていることにした。祖母としては孫の交友関係を把握しておきたかったらしい。

 実際の大串以外の交友関係はかなり危険な方だ。


「大串?」

「ええ、あんまり良くない評判ばかりの子よ?」


 大串が不良である事は学校中で有名だ。それは父兄たちの間にも周知されているのであろう。だから、友達などと言うと眉をしかめたくなってしまうのだ。

 実際はディミトリの方が極悪な事ばかりしている。


「そういう方とのお付き合いは程々にして頂戴ね……」

「でも、学校の成績は落ちてないよ?」


 実際に彼の成績は良かったのだ。学年で上位の方になる。それだけに祖母には優等生に見えるのであろう。

 本物のディミトリが学生だった時は勉強が苦手な方だった。ところがタダヤスの身体になってからは、物覚えが良くなってしまっている。ディミトリは『クラックコア』の御陰だろうと考えていた。


「怪我なんかしたりしないでね?」


 祖母の前では朝のランニングを欠かさないなど、健康に気を使っている風にしている。

 最近、ちょっと腹に銃弾を受けて穴が開いただけだ。ほかは大丈夫だった。


「ああ、分かってるよ。 心配かけてごめんなさい」


 祖母がタダヤスを純粋に心配しているのは分かっている。それだけに現状は心苦しいものだった。

 だが、ディミトリは自分の身体に戻りたかった。いずれは祖母の元を去らねばなるまい。だから、祖母相手には良い子で素直な中学生を装うことにしているのだった。



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