第43話 偽りの使者
アオイのアパート。
相談があると言うので少し早めだが学校から帰って直ぐにアパートへと向かった。
(金が足りなかったかな?)
アオイには闇手術の代金として百万渡してある。この国の相場は分からないが、キリの良い金額の方が良いだろうと判断したのだ。
どんな話なのかはアパートに行けば判明するだろう。それより問題はサプレッサーをどうやって改良するかだ。
(素材はプラスチックなのはしょうがないが性能を上げたいものだ)
3Dプリンターで使われる素材は熱で溶けるタイプだ。発射薬の火力だと数発で駄目になってしまう。
事実、昨夜の実験では二発撃っただけで割れてしまっていた。
そこで、自動車のマフラーなどに塗布されるシリコンガスケットを使うのはどうかと思案していた。
耐熱仕様だし数発持てば良いだけなので妙案のような気がしていた。
(まあ、駄目なら他の素材を考えるだけだ……)
銃へマウントする部分はモデルガンから応用しようと考えていた。田口がそうしていたのだ。
中身をくり抜いて使えるかも知れないと考えていた。
(後は性能の向上か……)
実験の時に測った限りでは満足出来るものでは無かったのだ。もう少し静かな方が良い。
(そうか…… 音を発生させる要因を少なくすれば良いのか……)
ディミトリは拳銃弾の炸薬量を減らしてみることにした。
特殊部隊には音速を超えない特別な弾丸(サブソニック弾)が用意されている。サプレッサーと一緒に使ってさらに衝撃波を減らす為の工夫だ。
他に銃弾を通すために穴が貫通しているが、これも音漏れの一番の要因だ。けれど、塞ぐと肝心の銃弾が出られなくなってしまう。
そこで、柔らかい材質の物で穴を塞ぐ。弾を撃つと弾のサイズぴったりの穴が開いて、余計なガスや音が漏れない仕組みになっている。
しかし、柔らかいので高温高圧のガスで徐々に削られてしまう。なので、普通のサプレッサーの寿命はそれほど長くなく、数十発程度で効果が半減してしまうのだ。
(まあ、本当に音も無く相手を始末したければ、ナイフの方がよっぽど早いんだがな……)
ディミトリはニヤリと笑っていた。そちらの方が得意だからだ。
いつものように自転車でアオイのアパートに行くと彼女は既に帰宅していた。
部屋のドアをノックすると、直ぐに部屋の中に案内された。
「来ましたよ?」
「いらっしゃい……」
アオイの顔は心無しか青ざめているように見える。心配事があるようだ。
「?」
「実は……」
アオイの話によると、ストーカー男の親戚を名乗る男が接触してきたのだそうだ。
「ストーカー男の交通事故死について調べていると言ってたわ」
「なんて答えたの?」
「事故当日は病院で勤務していたので関係無いと答えたの」
実際はコッソリと抜け出して犯行に及んでいた。
「警察にも疑われたんでしょ?」
「ええ」
警察も事故被害者の経歴を調べて、兵部姉妹が真っ先に疑われたらしい。
だが、勤務記録や関係者の証言で彼女のアリバイは成立しているのだった。医者の証言を疑う人はあまりいない。
妹は海外に旅行に行っていて留守だった。だからアカリにもアリバイはあった。
『何であんな奴に死んでまで迷惑を掛けられるのか?』と抗議したのだそうだが、事情聴取と称する取り調べがあったそうだ。
「警察に話したことと同じことを言えば良いだけじゃね?」
「そう言ったけど、相手の男の人は納得しないみたいで……」
「本当の事を話せとしつこくて困ってるの」
事故の原因を探っていると言っていた。警察関係者では無い様だ。
それに犯罪経験者でもなさそうだ。警察の取り調べの経験があれば、警察が白と言ったら信じるはずだからだ。
彼らの取り調べは犯罪者の心理を巧み突くものだ。そして刑事たちは心理戦のベテラン揃いだ。
少しでも辻褄が合わない話をすると、何度も同じ話をさせられる羽目になる。多くの初犯はコレで陥落させられてしまう。
彼らの取り調べで嘘を突き通すのは素人では難しいのだ。
(興信所かな?)
調べていると言うことは依頼者が居るのだろう。だが、相手の男は受刑者だ。多くの場合、受刑するような奴は縁を切られてしまう。最後は無縁仏になって公営の共同墓地に骨を放り込まれてお終いだ。
だから、依頼者が誰なのかはちょっと気になる所だった。
(なら相手の男は、死んだ奴が何をやったのか知っているはずだよな……)
相手の目的が不明なのでアドバイスに困ってしまっていた。
それより、何故アオイに目をつけたのかが不明だ。
「どうして欲しいんだ?」
「妹は外国に留学すると言っていたわ……」
「ふーん……」
多分、廃工場を見張りに行った時に話した。『君たち姉妹は少し離れて暮らした方が良い』との助言を聞くつもりなのだろう。
「妹の邪魔はさせたくないの……」
アオイも留学に賛成のようだ。ディミトリもその方が良いと考えていた。
「面倒だから始末する?」
「どうして、君は直ぐに人を殺そうとするの?」
アオイが呆れた様子で尋ねて来た。
「だって、面倒じゃん」
「そうじゃ無くて…… あの人の背後関係を調べて欲しいの」
ディミトリは面倒事を押し付けられたようだった。
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